8
「チンピラを潰す?お前と俺でか?」俺は呆気に取られた。
「竹島をぶちのめす時、いろいろ聞いといた。・・・武井と笠原って野郎だ。竹島たちは今夜、権堂の『ルージュ』って飲み屋で納金する予定だった。・・・チンピラどもは組とは関係なく、てめえらの遊ぶ金欲しさに、そこら中の高校の不良どもにカンパを強要した」・・・俺は聞いた途端に、腹の中が熱くなる。
「竹島たちはあの通り、今夜は納金できねえ。チンピラどもはどうするか?・・・竹島たちに準ずるヤツらをけしかけて、また山上みてえな『縦つながり』のガキどもにカンパを募らせる。そして竹島たちには相応の仕打ちをする。・・・つまりは何も変わらねえってわけさ」俺は山上の情けない、泣きそうな表情が目に浮かんだ。
「大元のクズ野郎を潰さなきゃ変わらねえってわけさ」カズオはそう言うと、腕を組んで俺を見つめてきた。邪悪な三白眼に、獰猛な動物のような光が宿っている。
「わかった、やろうぜ」
家にたどり着くと、もう日暮れ時になっていた。
いつも通りに家族でメシを食い、いつもの土曜日の夜のように、お笑い番組を観る。・・・今日は小学生の教室ネタだ。売り出し中のアイドルがコントに交じっていた。姉貴と妹はそれを観て笑っている。
「冬物の帽子とか、どこにしまってあるや?」聞くとお袋が、「今ん頃どうするだ?」と聞いてきたが答えず、冬物の衣類の箱の中から『目出し帽』を探しだした。
・・・いつかスキーに行った時、あまりに吹雪いていたためスキー場の売店で買ったものだ。濃紺で目と口の穴の縁取りが赤だ。
午後9時55分
いつも早寝早起きの家族は、土曜日の夜でもみんな床についていた。俺は全身黒い服を着て離れ部屋を出る。靴も黒いコンバースだ。
母屋は玄関まで真っ暗、親父の狩猟用のごつい黒革の手袋をはめながら、闇の道を急ぐ。ところどころにある街路灯の電球が、淋しくオレンジ色に灯っていた。
500mほど下った道の分岐点に、約束通りカズオがSRにまたがり待っている。エンジンを切っていたので、間近に来るまではまったく気づかなかった。まるで闇に同化するように、気配まで消しているようだ。
「じゃあ行こうぜ」呟くように言うと、SRのスタンドを立てステップに立ち上がる姿勢からキックでエンジンを始動させる。でかい口径の単気筒のエンジンが、ドコドコと唸りはじめる。
カフェレーサーみたいな半キャップのヘルメットを渡されたのでかぶり、カズオの後ろにまたがる。アイドリングの震動がケツに伝わる。まるで馬の息遣いのようだ。
ライトを点けて下っていくと、突然キツネがSRの前を横切った。「おおっ!」とカズオが驚く。・・・キツネでもタヌキでもフクロウでも見慣れてる俺には、なんでもないことだ。
・・・国道へ出るとSRは唸りを上げて疾走をはじめる。夜の19号は暴走する大型トラックの爆音が響いている。
カズオはわずかな空隙を狙って、トラックの群れを次々に追い越していく。たまに現れる乗用車にはボディーすれすれで抜いていく。運転している人間は驚いて、大きく左にハンドルを切ったあと、クラクションを浴びせてきた。
Rのきついカーブをハングオンですり抜ける、ステップが路面のアスファルトと接触しそうなくらいに倒しこむ。俺はカズオの傾斜角に身を任せる。
・・・19号は曲がりくねり、大型車同士がすれ違えない橋やトンネルだらけだ。大安寺橋に至っては、道路に対してほぼ直角に差しかけられたとんでもない形状をしている、しかも狭い。
数少ない見通しのいいストレートで、カズオはスピードを上げる。前方にはトラック野郎の『一番星』そっくりのデコトラがきらびやかに爆走している。テールゲートには本物と同じ『桃次郎』が描かれていた。
カズオは追い越しにかかる。満艦飾のハコと並走状態になった時、トラックも回転を上げる。V10のバカでかいディーゼルが唸り、マフラーから金属的爆音を上げる。
非力なSRはアクセル全開で疾駆する、カズオと俺は身を屈め少しでも空気の抵抗を減らす。次のカーブに差しかかる寸前、一番星の前に出た。120kmで追い越すと腹に響くエアフォーンを鳴らされた。
長野市の繁華街、権堂にたどり着く。カズオは竹島から詳しく聞いていたらしく、東の外れの方へと走らせる。
「あれだ、ルージュ」権堂といっても外れだから、周りは貸しビルや会社の事務所ばかりで、ルージュはその狭間で淋しげにネオンを灯していた。
店の近くの駐車場にツートンカラーのクレスタが停まっている。
「武井のクレスタだ」カズオは路地の暗がりにSRを滑り込ませ、エンジンを切った。




