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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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「岸山はともかく、竹島たちは5人もいたんだろ?・・・山上は一瞬で全滅したらしいって言ってたけど」俺は飲み干したビールの缶を、テーブルにカタンと置いた。

「ふん、あんなヤツらは戦闘なんて出来ねえさ、群れを作って強がってるだけさ。てめえは強いんだと思いこみてえんだろうな。・・・竹島の腕をへし折ってやった時、野郎は泣きわめいてたぜ。あとのヤツらなんてビビッて、逃げることも出来ねえ木偶の坊さ」そう言いながら冷蔵庫から持ってきたビールを、俺に差し出す。

「サンキュー。・・・カズオは東京でもそんなことばっかしてたんかよ?」プシュッとプルトップを引き、外れたそれをビールの中へ放り込む。缶の物を飲む時の俺の癖だ。

「東京か・・・」そう言ったきり、カズオは何も言わなかった。

「ところで、ここにお前の家族はいねえのか?・・・なんか生活してる匂いってもんを感じねえんだが」俺はあらためて部屋を見回して言う。

「ああ、俺ひとりだよ。・・・そうだ!お前ロック好きだろう?2階へ来いよ!」カズオは思いついたように言って、2階へ誘った。


階段を上ってひとつ目の部屋に入ると、でかいステレオがガラスの扉のついたラックに収まっている。

ごついアンプ、ダブルのカセットデッキ、デジタルチューナー、ターンテーブルの下が分厚いレコードプレイヤー、ひとつ30kgはありそうなバカでかいスピーカー。

「すげえステレオだな・・・」俺の持ってる、ラジカセに毛の生えたようなオモチャとは雲泥の差。多分、全部で何十万という代物だろう。しげしげと眺める。

・・・ラックの一番下に、200枚くらいのLPレコードが縦になって収まっている。薄い背のタイトルを見ると、ストーンズやビートルズ、フー、キンクス、ヤードバーズといったブリティッシュロックから、ツェッペリンやディープパープルといったハードロック。ピストルズ、クラッシュ、ストラングラーズといったパンクの名盤がズラリと揃っていた。

・・・俺が、喉から手が出そうなぐらい欲しいレコードが軒並み並んでいる。

「うぅ・・・すげえ・・・」声にならない声で呻いていると、「ブルースやR&Bのレコードは持ってこなかった」とカズオはぬかしやがった。(俺なんか月に1枚のLPを買うのでもやっとなのに・・・)

「お前、東京の金持ちの息子なんだろ。どうせ」うらやましさが破裂して、嫌味っぽい言い方になった。

カズオは別に気にした風でもなく、頬をポリポリ掻きながら「そうさ、俺は東京の大金持ちの息子さ」と『金持ち』に『大』をつけて返事をした。

俺はうらやましさに、悔しさと腹立たしさが加わって黙る。

「・・言いたくはねえが、俺の親父はとある業界では名前を知らねえ人がいねえぐらい、有名な人間だ。だから家は裕福だ。・・・でもな、それが幸せかと言えばそんなことはねえ。くだらねえシガラミにがんじがらめにされるぐらいなら、ここみてえな田舎の町に暮らして、何にも誰にも束縛されずに自分の思うままに生きれる方が、俺は幸せだと思う」

カズオは急に真剣な眼差しで、妙に淋しげな眼差しで俺を見た。

「そんなもんかやあ、俺みてえな貧乏な田舎者にしたら、花の都で銭の不自由のねえカズオの状況が、うらやましくてたまらねえぜ・・・俺もいつか東京に行きてえと思う」

・・・俺はたまに、夜になると庭に出て東京の方角の夜空を仰ぐ。(・・・あの山のはるか彼方には、東京がある)と憧れながら。

「まあ、東京の話はやめようぜ」カズオはそう言って、ステレオの電源を入れた。

「好きなの聴きなよ」と言うので、ローリング・ストーンズの『スティッキー・フィンガーズ』を選んだ。ジーンズを穿いた男の股間をアップしたジャケット。

『ブラウン・シュガー~スウェイ~ワイルド・ホース・・・』どの楽曲も最高にかっこいい上に、高音質のステレオときてる。たまらなくなって鳥肌は立ちっぱなしだ。

「ストーンズ、好きなんだな」カズオはそう言うと部屋を出て行った。じきにギターを抱えて戻って来る。

「フェンダーのテレキャスター・カスタムじゃねえか!」俺は驚愕した。キース・リチャーズのと同じ黒いテレキャスカスタム、指板もメイプルで同じだ。俺の持ってる国産レプリカが記憶の中で色褪せた。

・・・俺はやっぱし、金持ちの方がいいと思う。


「ところでさ、お前なんで俺をここに呼ぶ気になったんだよ?・・・そんなとんでもねえ正体まで晒してさ」ここに来た時から思っていた疑問だった。

「なんでだろうな?特に理由なんてねえけど、気が合いそうというか・・・なかなか骨のある野郎だと思ったからかもな」カズオはいくらか照れたような顔をして、ショートピースの煙を吐いた。

・・・カズオの持ってる膨大なレコードの中から数枚、カセットテープに録音してもらうことにした。

「ところでよ」カズオは両切りのピースをもみ消しながら、俺の顔を直視する。

「今夜、竹島たちにカンパを命令した、誠龍会のチンピラどもを潰しに行こうぜ」


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