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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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翌週、水曜日

俺は普段通りに登校し、いつものように頬杖をついて、深緑色の川面を眺めている。が、今日の教室の中は始業前の騒々しさがない。

普段は山上・森岡・長谷の3人組が、無意味に騒いでいるからうるさいが、今日は静かだ。

見回すと3人は各々の席に座ったまま、うなだれている。3人とも憂鬱そうな顔をしている。

ヤツらがうるさかろうと静かであろうと、予定通りに授業は進んでいった。


業間の休み時間に、俺は便所に行こうと教室の後ろのドアに向かう。山上たちは教室の一番後ろで、かたまってなにやらヒソヒソ話している。

俺はヤツらの脇をすり抜けて行くと、「川島」と呼び止められた。

ちょうど出口付近の田中の席のそばだ。俺が振り向くと山上が近づいてきた。

「・・・川島、こないだは悪かった。謝るよ」そう言ってうつむいた。

「なんだよ、お前らしくねえじゃねえか」(・・・なんか魂胆があるんじゃねえか)そう思った。

「でさ、お願いがあるんだが・・・カンパに協力してくれねえか?」

「カンパ?冗談じゃねえ。誰がそんなもんに協力するよ」(案の定だ・・・)

「・・・やっぱりな、仕方ねえ。・・・でも困っちまったなー」山上は体を揺らして呟く。

「誰がそんなくだらねえことやらしてんだよ?」

「・・・高2の竹島さんだよ、俺等3年だけで5万持って来いって言ってんだ・・・」

「5万?・・・お前ら、くだらねえヤツらの手下みてえなことやってるから、そういう目にあうんだよ」

「まあ、そうかもしんねえが、竹島さんたちも誠龍会のチンピラに命令されてるらしいんだ・・・明後日までに持っていかなくちゃならねえんだ。弱ったな」山上は泣きそうな顔をしている。

「だけど出せねえもんは出せねえだろ?・・・ありませんって突っぱねろよ。そうするしかねえよ」

「そんなわけに行くかよー、ヤキ入れられちまうよ」山上は赤い目をしている。

俺はつきあいきれなくなって教室を出た。

(くだらねえヤツらが徒党を組んで、さらに縦つながりを作り、命令は弱い者へ弱い者へと強制する。最悪の連鎖だ。ヤクザもチンピラも不良グループも、まったくロクなもんじゃねえ)


金曜日

登校して昇降口で靴を履き替えようとしていると、「川島」と呼ばれて腕を引っぱられた、山上だった。

「なんだよ、とりあえず離せよ」そう言っても山上は離さず、そのまま校舎の陰に連れて行かれた。・・・振り向いた顔は、かなり切迫している。

「・・・昨日の夜、神社の庭で竹島さんたち5人がやられた」山上の目は泳いで、キョロキョロしている。

「相手は誰なんだよ?」訊くと即座に首を振る。

「岸山やったヤツみてえに、バイクで来て目出し帽かぶってたって」

「え?ひとりに5人やられたんか?」俺は呆気に取られた。

「めちゃくちゃ強いらしい。・・・竹島さんは左腕と肋骨折られて、滝口さんは右腕、あとの3人は知らねえけど、一瞬で全滅だって」

「・・・格闘技やってるヤツだな、多分」俺は目出し帽の男の風貌を想像した。

「だからカンパどころじゃなくなったから、結果的にはいいんだけどさ。・・・その得体の知れねえヤツが恐ろしくてな」山上は、番長気取りの風格は微塵もない。

「ふうん、まあいいじゃねえか。もう竹島なんかと関わらねえ方がいいぞ」俺は昇降口へ向かう。

・・・今回の件で俺は少しだけど、山上と話すようになった。徒党と組んでイキがってるヤツほど、ひとりの時は情けないぐらい小心者だったりする。

そして、ひとりになると案外悪いヤツじゃなかったりする。・・・少しだけ気分のいい朝だ。


下駄箱から上履きを出すと、靴の中に折りたたんだメモが入っていた。

『5時にいつものところね』・・・B組の真奈美のメモだ。

俺たちは一応つきあっていた、委員会で一緒になってからいろいろ話すようになって親しくなり、たまに2人でデートする。その程度のつきあいだ。

・・・狭い田舎町だから、町中を歩くと行き会う人は知り合いばっかり。

俺も真奈美も、好奇な目で見られたり冷やかされるのが嫌だから、2人で会う時はもっぱら学校のそばの堤防を乗り越えた河川敷だ。


堤防を駆け上がり自然に生えた雑木の茂みを抜けると、成長したアカシアが1本だけ立っている。その根元がちょっと丘みたいに盛り上がっている。俺たちはいつもそこに腰掛けた。

・・・俺が茂みを抜けると、アカシアの根元に座ってる真奈美が見えた。

「早いじゃん」歩きながら声を掛けると、真奈美は振り向いて笑う。隣に腰を下ろす、最近出たばかりの『チェリーコーラ』を渡す。

「ありがと」しばらく目の前の川面を眺めて、コーラを飲む。何キロか下流にダムがあるから、大雨でダムを開放する時以外は流れが緩やかな川だ。

俺も真奈美も、この深い緑色を眺めて黙っている時間が好きだ。

「・・・コウちゃん、こないだ刑事に取り調べされたって本当?」

俺はコーラを吹き出しそうになった。

「取調べじゃねえよ、岸山のことでアリバイを聞かれただけだよ。・・・ジジイとやり合ったからな」

「ふうん、・・・なんかバイクに乗った殺し屋みたいな人が出回ってるんだってね。誰なんだろ?」

「俺にもわからねえ、誰なんだろう」


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