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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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数日後、奇妙な出来事が起きた。

担任の百瀬女史が研修会とかいう理由で、3日間不在になった。そのため副担任の岸山という定年間近の教師が、百瀬女史の代わりを務めることになった。

・・・この岸山という教師は、地元中学に20年も居座っている名物教師だ。

なぜ20年もいられるのかと言えば、評判が悪すぎて他のどこの中学も引き取ってくれないからだ。

生徒をおおっぴらに差別したり、えこひいきする。生徒が少しでも反抗すると、徹底的に仕返しをする。気分次第で言うことが違う。ちょっとしたことで興奮して、すぐ生徒の保護者を学校に呼びつける。

・・・岸山は久しぶりに担任代理を務めることになり、年甲斐もなく張り切った。3日間だけでも、3年A組を支配できるという喜びの表れだ。

初日は朝から、「私に口応えした生徒は、学校に親を呼びます」などと、最初から生徒を威嚇した。

そして自分の担当である理科の授業がない時間は、意味もなく3年A組の教室の後ろにいて、生徒を監視していた。


翌日の朝、岸山が教室に入るや否や、教壇から俺を指差し、「川島、君は昨日の帰り道、本屋の店先の雑誌を万引きしただろう!」と言った。

途端、教室の中はザワザワと騒々しくなる。・・・俺は最初何を言われてるのかわからなかったが、その内カーッと頭に血が昇った。

「なにを根拠に言ってんだ!」立ち上がり、岸山に怒鳴った。

「昨日の放課後、私は町中をパトロールしていました。するとその時、君が本屋で万引きしたところを見たんです。私が見たというのが証拠です!」岸山も大声を張り上げる。

実際俺は、本屋に行き音楽雑誌を金を払って買った。(・・・このバカは、俺の行動のどこを見て万引きだと決めつけるのか!)俺の怒りは頂点に達し、拳が震えてきた。

「岸山、てめえは頭がおかしいんか!俺は金を出して買ったんだ!・・・本屋に万引きの事実があったのか確認したんか!」

「川島!先生に向かってその口のきき方はなんですか!わかりました、放課後、君の親を呼びます!」岸山は真っ赤な顔をして教室を出て行った。


放課後、お袋が学校に呼びつけられ、教室で三者面談になった。

岸山は俺の態度と言動について、お袋にクドクドと説教した。「家でもあんな態度なんですか!」「家庭での教育が出来ていないから、こういう不真面目な人間になるんです!」

お袋はうつむいて、ただただ頭を下げ続け「・・・申し訳ありません・・・申し訳ありません」と繰り返す。

俺が「違うんだよ!」と口を挟めば、「黙っていなさい!」と言うので、バカバカしくなって反論するのをやめた。

岸山は最後まで、事の発端である万引きについては触れなかった。


3日目の朝、岸山の代わりに教頭が教室に来た。

「おはようございます。・・・えー、岸山先生なんですが、・・・昨日、長野市の自宅に車で帰られて、家の玄関に入ろうとしたところ、突然バイクで現れた目出し帽の男に殴られ顎の骨を叩き割られ、倒れたところを蹴り上げられて、肋骨を3本折られました。入院されましたのでしばらくの間、私が副担任を務めます」

教頭がそう言うと、昨日以上に教室がザワついた。・・・俺は周りの視線を感じたので見回すと、誰もがしらじらしくソッポを向いた。

山上は面白くなさそうな顔をしている。田中は相変わらず無表情の彫像だ。


・・・3時限目の授業中、教頭が教室のドアを開けて、「川島君、ちょっと・・・」と呼ぶ。

数学の時間だったが、教師が俺に向かってうなづいたので、後ろのドアへ向かう。田中のそばを通る時、ヤツは一瞬ジロリとこっちを向いた。

教室を出て教頭と並んで歩く。「川島君、刑事さんが来てるんだよ。昨日の岸山先生のことだと思うんだけど・・・」

「はあ」俺はまったく身に覚えがないが、昨日の俺と岸山の言い合いや、その後の面談のことを考えれば、疑われても仕方ないなと思った。・・・激しい動機があるからだ。

「川島君じゃないだろう?」教頭はいくらか泣きそうな顔をして言った。その顔は学校の体面や自分の保身を考えての顔じゃない。

・・・俺はこの教頭が嫌いじゃなかった。教頭のくせにばかに気弱なところがあるが、根本的に優しいのだ。・・・少しオカマっぽいところもあるが。

「俺じゃないっすよ。大丈夫、大丈夫」そう言って、小柄な肩を叩いた。


職員室の奥の応接室に入る。

痩せて首筋が鶏ガラみたいな年寄りと、角刈りでガッシリした体格の若い男が並んで座っていた。枯れ草のような匂いの煙がたちこめている。

年寄りは『わかば』を根元まで吸って、灰皿で消した。・・・体格のいい男は耳が変な形に潰れている。

「川島君だね、我々は中央署の新津と片山という」年寄りの新津が言った。

そこから若い片山が、話を受け取るようにしゃべりだした。

「岸山先生が暴行された件だけど、昨日の夜9時ごろ、君はどこにいたかい?」・・・俺は聞かれるだろうと思って、夕べのことを思い出しておいた。

「昨日はお袋と一緒に帰って、ずっと家にいましたよ。・・・そうそう、昨日は近所のおっさんが家に来て、親父と飲んでたんで、聞いてもらえばわかりますよ」

俺はおっさんの名前と家の場所を説明すると、片山は黒い手帳に書き留めている。

新津は黙って穏やかな顔をしているが、眼の光だけはごまかせない。

「ところで、君はバイクに乗るかい?」片山が手帳から顔を上げて聞いてきた。

「いいえ、免許ないですから」言うと、新津がニヤリと唇をゆがめる。

俺はじきに解放されて、応接室を出た。廊下を歩きながら(・・・岸山を襲撃したのは誰で、俺の件と関係あるのだろうか)考えたが何も思いつかなかった。


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