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翌朝俺は家を出て、学校には向かわずにバスの営業所へ行く。女史までもが来なくなった学校に行っても、何の意味もない。俺にとって今、重要なのはカズオのその後を知ることなのだ。
『7時15分発長野行き』に乗ろうとしている高校生たちが、営業所にタムロしていた。せまい町なので大半は知った顔だが、特に親しかったヤツはいなかったので、誰も声を掛けてこなかった。
・・・発車準備が出来たバスの中央の扉が開き、整理券を取って乗りこむ。俺が列に並んだのは最後の方だったので、座席は埋まっていた、吊革につかまって立つ。
定刻になり、バスは鈍くさく動き出す。乗り心地も揺れもひどかった。バスは途中まではスムーズに走っていたが、市内に入り少し行くと渋滞にはまる。・・・バス停に停まるたびに乗り込む客が増えるので、車内は朝っぱらから暑苦しかった。
俺のすぐ横に乗り込んできた高校生の、イヤホンから漏れるウォークマンの音が耳障りだった。ダンスミュージックかなにかを流している。
バスターミナルで降りる、昨日行き先の路線は調べてあったので、迷うことなく『北部団地行き』のバスに乗った。長野駅前を通過して、大通りを北上していく。しばらく上り、東の方向へ走っていく。
・・・昔は農村か林だったところを、郊外に住居を求める人たちのために、急速に団地を造成した、そんな感じの町並みだった。
目的のバス停で降りて歩く。カズオを運んだ夜中の記憶をたどって、ポケットに入れた地図を広げて確認しながら歩く。・・・15分程度でたどりついた。
・・・大きなケヤキが茂る神社の脇にある、2階建てのビル、そして地下の店。昼間の光の中で見ると、白壁はだいぶくすんで見えた。どの窓にもブラインドが下がっている。1階2階は何年も空家になってるテナントといった感じだ。
俺はここで『西田』がやって来るのをひたすら待つつもりだ。今の俺にはそれしか方法がなかった。・・・一度地下入り口の扉を引いてみたが、鍵が掛かっていた。
陽が昇り暑くなってきたので、ケヤキの木陰に移る。炎天下とは何度も違うぐらいの快適さだった。そこからビルをながめることにした。
・・・随分じっとしていたが、車も人もほとんど来ない、郵便屋の赤いカブ以外は犬も猫も通らなかった。やがて夕暮れになる。俺はバスの最終の時間を考えて、西田ビルをあとにした。
『待ちぼうけ』は覚悟の上だが、ただ待ち続けることは精神的にこたえた。(・・・俺に免許と車があれば、夜通し張れるのに)そう思った。
2日目、俺は着替えと寝袋をバッグに詰めて、「友達の家から学校に行く」と言って家を出た。昨日と同じバスに乗り、同じルートで西田ビルに向かう。
途中、コンビニで食い物を買い、ホームセンターで2000円のデジタル腕時計を買った。
・・・ビルには今日も人の出入りはありそうもなかったが、俺は気長に待つことにした。神社の庭まで歩いてみると、ありがたいことに水道と便所が設置されている。公園のような機能も果たしているのだろう。
昼間は盛夏らしくミンミンゼミが鳴きわめいている、大木のケヤキの無数の枝の、高いところから低いところまでセミが張りついているから、まるで騒音のドームのようだ。俺はパンをかじりながら、ひたすらタオルで汗を拭う。
夕闇が迫る頃になると、今度はヒグラシが侘しく鳴きはじめる。俺は小さい頃からヒグラシの声は好きだった。ようやく暑さから解放される安らぎを感じるからだ。
俺は日が暮れるとビニール袋から握り飯を出してほおばる。食い終わると神社の庭に行ってパンツだけになって、石鹸で頭と身体を洗う。ついでに脱いだ下着も石鹸で洗って、木の枝に掛ける。
・・・昔、新宿の公園で見た乞食を思い出した、ヤツらも同じことをしていた。
蚊取り線香に火を点けて金属製の丸いケースに入れて吊るす、寝袋にくるまりピースに火を点ける。ボンヤリ星空をながめてるうちに眠っていた。
―――車の音で目を醒ました。車はビルの駐車場に停まる。腕時計の照明をつけると午前2時過ぎだった。・・・車は黒っぽくて大きい外車のようだ。
俺は寝袋から這い出て、そろそろとビルに近づく。・・・デイムラー・ダブルシックス、英国のジャガーの12気筒版だ。スモールランプは点いているが、アイドリングの音はまったく聞こえなかった。
車から背の高い男がふたり出てきた、ダークスーツを着たシルエットだ。遅れて後部座席からもうひとり、その男も背が高い。
・・・先に降りた男のひとりが俺に気づき身構えた。顔までは見えないが、隙のない動きで俺に近づいてくる。




