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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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線香花火のような夏休みが終わった。俺は腑抜けたまんま登校する。

教室では『海に行った』とか『キャンプに行った』とか、真っ黒な顔のクラスメイトが白い歯を見せてはしゃいでいた。・・・屈託のない笑顔がうらやましく思えた。

俺は一刻も早く女史の顔を見たかった、その後のことが気になって仕方ないのだ。・・・だが、嫌な予感もしていた。もしかしたら女史が学校に来ないのではないかと、胸騒ぎがしていた。

始業のチャイムが鳴る。果たして俺の予感は的中した。・・・女史の代わりに教室に入ってきたのは、気の小さい教頭だった。教室の中がざわめく、「百瀬先生は?」とか「奈緒美先生はどうしたの?」の声が、あちこちで聞こえる。

・・・教頭は全員を見回してから、申し訳なさそうに話し出した。「みなさんに残念なお知らせです。・・・担任の百瀬先生ですが、夏休み中に身内の方にご不幸があり、また一身上の都合でどうしてもこの学校の先生を続けていくのが不可能な状態になられたとのことです。・・・私どもにも、みなさんにも、また保護者の方々にも多大なご迷惑をかけることになってしまい、本当に申し訳ありません。とのことです」

教室内は一斉にどよめく、てんでに騒ぐので混沌状態になるが、気の小さい教頭はあたふたするだけなので、騒ぎはしばらく続いた。

(・・・嫌な予感は的中しちまった。・・・しかし身内の不幸とは、流れ弾で足を怪我した婆さんのことか?そして一身上の都合とは・・・)クラスの中で俺だけが席でじっとしている。頭の中は疑問が渦巻いて、周りの騒ぎも聞こえない。

いくらか騒動が収まったころ、教頭はまた話し出す。「今後、早急に代理の先生に就いてもらい、また臨時保護者会を開きますので、みなさんは落ち着いて生活してください」教室のあちこちから、またヤジが飛ぶ。

「落ち着いていられるか!」「なにやってんだ、教頭!」など、罵声ばかりだ。教頭は逃げるように教室を出ていく。俺はすぐに教頭を追い、廊下で呼び止める。

「教頭先生!」と呼ぶと、びくっと肩を震わせて振り向いた。「女史、いや百瀬先生の連絡は、誰が受けたんですか?」俺が聞くと、「それが・・・3日ぐらい前に百瀬先生から封書が届いてね。・・・中にさっき言った内容の手紙がワープロで打ってあったんですよ。そして連絡もつかない状態になりましてね」教頭は申し訳なさそうに肩を落として言った。

「ワープロ、・・・じゃあ本人の自筆の手紙じゃないんですね。・・・あと、身内の不幸って誰のことですか?」俺は聞いた。

「それも・・・そう書いてあっただけなので、誰とはわかりませんね」俺は仕方なく「そうですか」と言って踵を返した。


学校が終わり、俺はカズオの町営団地に行ってみる、何か痕跡を探すために。坂を登りたどり着いてみると、明らかに空家状態になっている。

1階も2階もカーテンは外され、中をのぞくと何もなかった。・・・ため息をつくしかなかった。

(だが、カズオや女史が荷物を取りにくるわけはあるまい)と思い、俺は町役場まで行く。受付の女に、「町営団地の住人の件は?」と聞くと、『土地開発公社』という部署を紹介される。

そこへ行って、「町営団地の一番上の棟に住んでいた、田中和夫君の荷物のことなんですが・・・」と聞くと、頭のハゲあがった中年の担当者が、「ああ、田中さんのとこね。・・・盆前に代理人という人が来て、一切片付けていったけどね」老眼鏡から上目遣いで言う。

「そうですか。・・・なんという人かわかりますか?」と聞くと、担当者は少し怪訝な顔をしたので、「俺、田中和夫の友人で、彼に貸しっぱなしにしてたものがありますもんで」

そう言うと、「ああ、そう。それは残念だったね、ちょっと待って」と言い、厚い冊子を持ってきて、指をなめながら書類をめくった。じきに、「あ、これだ。『西田商事』って書いてあるね」と言った。

(・・・西田?西田といえば、たしか瀕死のカズオを運んでいった地下室の主の名前と同じだ・・・)俺は役場の公衆電話から、玉井給油所に電話をかける。玉井が出たので状況を説明した。

「西田商事はたしかに、西さんがオーナーをしてる会社のひとつだが・・・」そこでしばらく黙る。玉井は考えているのだろう。

「西田さんに連絡することは出来ないんですかね?」待っていられずに聞くと、「西さんは得体の知れない男でな、俺ですら実態はよくわからない男なんだ。・・・普段どこでなにをしてるのかも、よくわからん。・・・一応やってはみるけどな」

俺は「お願いします」と言って電話を切って、役場を出た。・・・すべてが不可解なままだった。カズオのその後、女史がなぜ学校を去ったか、そしてカズオと西田のつながり・・・


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