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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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新津は俺の目を凝視しながら沈黙する。そして重い口を開いた。

「・・・だがな、俺は鴨島がしていた悪辣な行為にうすうす勘づいていた。てめえが犯した強姦をビデオに撮って、てめえの店で売って結構な稼ぎにしていたこと。あるいは他人を使って似たようなビデオを作っていたこと。だが、被害に遭った素人の女たちは被害届を出しやしねえ。・・・そうなると俺たちは大した動きは出来やしねえというわけさ。・・・だからあんなクズ野郎は死んで当然だし、爆破火災によって品物がすべて消滅したことはむしろ歓迎してるのさ。・・・俺個人としてはな」

俺は黙って新津の目を見ていた。(・・・この刑事は事件のほとんどを見通している。親父さんが警戒していた意味が解った。だが言うことが警察らしくない)

新津は少し間を置くと、また話しはじめた。

「俺はこれまでに起こった事件なんて、どうでもいいと思ってんのさ。真相なんてだいたい判っちゃいるが、田中やお前から被害をこうむったヤツらに同情する気も、助ける気もねえんだ」

新津の言うことはやはり警察の言うことではないと思い、俺は思わず「じゃあ新津さんは、何を言いたいわけですか」と聞いた。・・・新津は唇をゆがめ、鼻からため息を抜く。


「今年の1月、東京の霞ヶ関の路上で、狙撃事件があったのを覚えているか?」俺は全然知らなかったので、首を振る。

「高層ビルの屋上から発射されたライフル弾は、路上を歩いていた婆さんの太ももに当たり、大怪我を負った。・・・狙いは婆さんじゃなく、運悪く流れ弾に当たったようだ。標的は近くにいた田中和夫」

俺は背筋に悪寒が走った。

「3日後、狙撃手は築地市場の片隅で、半殺しの状態で発見された。犯人は特定されていないが、多分田中の仕業だろう。・・・その後、身分を隠した田中は、婆さんの入院先の病院に頻繁に通い、身の世話をしていたようだ。婆さんは東京でひとり暮らしだったらしい」

俺は東京での出来事を、「ろくでもねえことさ」と話したがらなかったカズオの横顔を思い出した。

「そしてじきに、その病院周辺に不審な連中が現れるようになり、それっきり田中は姿を消した。・・・ヤツを狙っていたのは、でかい殺し屋組織なんだ。・・・いいか川島、俺は田中をパクるために動いているわけじゃねえ。早く田中を保護しねえと、ヤツは確実に殺される」


俺はゼネラル企画のことを考えていた。あの時は少人数になったところを急襲したので、なんとかカズオを救出できたが、ヤツらが組織力を動員して逆襲してきたら、どうなるかわからない。

「・・・でも俺は、本当にカズオの行方を知らないんですよ」俺の本音は、新津に通じたらしい。

しばらく沈黙すると、「そうか、わかった。だが何かわかったら俺に連絡しろよ、いいな」と言って、その場を立ち去っていった。



それから1ヶ月、季節は鬱陶しい梅雨の時期を迎える。学校では部活の球技大会だとか、吹奏楽部のコンクールで盛り上がっていたが、俺には何の関係もなかった。

ただ淡々と何事もない日々を見送る。そんな毎日を過ごしていたある日、1通の手紙が届いた。・・・愛知に引っ越していった真奈美からだ。

文面には、新しい学校で新しい友達ができたこと。海に近いところに住んでいるので、休みのたびに海岸に行っていること。真由美の状態は日に日に良くなって、今では以前と変わらないほどに回復したこと。長野を離れてみて、俺のことが今でも好きで淋しい気持ちでいること。・・・そして、何人かを経た情報だと前置きして、川村と名乗っていた柴崎が女のマンションで、首を吊って自殺したということ。


・・・俺の右手に、柴崎の左手をナタで断ち切った感覚がよみがえった。不具になったジゴロは精神まで破壊され立ち直れずに、首を吊ったのだろう。俺はそう思っただけで、何の感情も起きなかった。

右手を石頭ハンマーで叩き潰された鴨島弟にしても、同じように精神崩壊をきたしていることだろう。

そう考えると、俺たちに追われて飲酒運転の車にひき殺された鴨島兄のほうが、一瞬の苦しみで死ねただけ、幸せだったのかもしれない。


『盗んだバイクで走り出す 行き先も解らぬまま 暗い帳の中へ


誰にも縛られたくないと 逃げこんだこの夜に 自由になれた気がした・・・』


・・・茶の間から音がしたので、のぞいてみると姉貴と妹がテレビを観ていた。画面の中では青白い照明の下、シンガーが歌っていた。

振り向いた姉貴が、「こいつ、お前に目が似てるな」と言う。シンガーはマイクに咬みつくように歌っていた。




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