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・・・路地からふらりと新津が現れた、学校から帰路の途中だった。
「やあ、川島君、めずらしいところで会ったね」新津は白いワイシャツにノーネクタイ、首筋はやっぱり鶏ガラのようで、脱いだ背広を左腕に掛けていた。
(待ち伏せしてたくせに、しらじらしいことを言いやがる・・・)俺は思ったが、「どうも」と頭を下げた。
「今日はごつい刑事さんは一緒じゃないんですか?」と聞くと、おかしくもないのに笑い声を上げて、「俺は今日、非番なんだよ」と言って、わかばに火を点ける。しわくちゃな箱を振って、俺にすすめたが遠慮した。
「非番の刑事さんが待ち伏せして、なんか用ですか」俺は嫌な気分が胸いっぱいに広がってきた。
新津は少しの沈黙のあと、「田中和夫・・・君のことなんだが」と話しはじめる。・・・俺はある程度想定していた質問だったので、驚きもしなかった。
「学校に来ていないらしいね、住家にもいないらしいがどこにいるか知ってるか?」新津は携帯灰皿に灰を落としながら聞いた。
「まったくわかりませんよ」むしろ俺が聞きたいぐらいだった。「ふん、そうか。君は田中君と仲が良かったんじゃないのかね?」灰皿から上目遣いに三白眼を光らせている。
「まあ、同級生としてのつきあい程度ですよ」と答える。途端に新津の瞳にギラリと光が宿る。・・・ヤクザ者でも萎縮するような威圧感がほとばしっていた。
「・・・本当にそうなのかな?」新津は周囲に目を配ったあと、俺を狭い路地に引っ張っていく。
「今から話すことは、俺が自分の足で拾ってきた情報に俺の見解を加味した話で、警察組織の見解ではない」と前置きをしてから話しはじめた。
「・・・田中和夫がこの町の中学に転校してきてから、きな臭い事件がいろいろ起こった。・・・まず、教師の岸山への襲撃事件。続いて不良高校生グループへの襲撃。・・・市街地での誠龍会のチンピラ襲撃。・・・岸山を除く事案は被害届が出されていないから、事件にはなっていないが、いづれも現場で黒いバイクが目撃されている」
俺は平静を装っていたが、胸の中では激しい焦燥が渦巻いていた。(・・・この年寄りは着実に、事の真相に近づいている)
なんとか顔に出さないように、「へえ、そうなんですか」と答えた。新津の目をごまかせたかを確認する勇気はなかった。
「それだけじゃない。・・・俺は先月発生したビデオショップ店主の、ひき逃げ事件を担当していた。・・・犯人は挙がったよ。近くに住む不動産会社の社長だ。野郎は泥酔状態だったため逃げたと言っている。・・・そいつの話によると鴨島勇が通りに飛び出した時、明らかに誰かに追われて逃げている様子だと言っていた」新津は、またわかばに火を点ける。
「そんな話は知りませんね、俺は」心臓の鼓動はますます高鳴る、どこまでも鋭い刑事だと思った。
不意に新津の唇がゆがむ。「そして、それだけじゃねえんだな。・・・俺は他の連中にひき逃げの現場を任せて、ひとりで周辺を歩いた。まずはビデオショップに行ってドアを叩いたが、真っ暗な店内からは何の反応もなかった。・・・しかし、おかしいじゃねえか、誰かに追われて逃げている店主が、戸締りや消灯をする余裕があるか?ご丁寧にネオンサインや看板灯までもが消えていたぜ」
俺はいよいよ心拍が早くなる、そして何も言い返せなかった。
「それからどうしたと思う?・・・俺は隣の中古車屋の展示場の片隅に停まっている黒いバイクに気づいた。ナンバーを控えたが、後日調べてみると精巧に作られた偽造品だと判った。・・・これじゃ何の参考にもならねえと思うだろう?」新津は一度言葉を切る。
俺は立ったまま、身体がぐるぐると揺れている感覚にとらわれる。(・・・何か言い返さなきゃ、認めているようなもんだ)そう思うが、言葉が出ない。
「・・・川島、お前車やバイクには『車台番号』ってもんがあるの知ってるか?・・・俺はそいつも控えていた。そして後日それを照合してみると、・・・『田中和夫』という名前に行き着いたのさ。・・・それからもうひとつ、その黒いバイクには半帽タイプのヘルメットがふたつ、ハンドルに掛かっていた」
新津は携帯灰皿でわかばを消しながら、もう一度俺の目を直視してきた。




