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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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鴨島治の部屋を出た俺とカズオは、目出し帽からキャップとマスク姿になり、スタンドに向かって歩道を歩き出す。

昭和通りからここまでの直線の市道は、この先古い民家が密集した道路の狭い地区になるので、夜遅くになると車の往来は途絶える。

・・・常夜灯のみ点いているガソリンスタンドのプラスチックチェーンを外して、バッグをSRにしばりつけていると、「ちょっと待てよ、兄ちゃんたち」と、不意に声をかけられて2人はギクリとした。暗がりから男が近づいてきた。

「勝手に停めたらまずいんじゃねえのか?」どうやらスタンドの主人らしい。禁煙のはずのスタンド構内で、くわえタバコで寄ってきた主人は多分40代だと思う。

振り向いた俺が感じた第一印象は、どこかカズオに似ている気がした。雰囲気だろうか・・・。

「ああ、すんません」俺たちは声をそろえたように謝った。

「そんなことはまあ、どうでもいいんだが。・・・さっきからお前らを見てたら、その目つきが気になってな」俺たちは顔を見合わせる。

「例えて言えば、開戦前夜の兵士の目というか、・・・いや、もう殺し合いをおっぱじめちまった人間の目をしてる」俺は、(・・・あんたにもカズオと同じ匂いを感じるんだけどな)と思う。

「うちのバイトの若造も、たまにそんな目つきをしてやがってな。ケンカっぱやい野郎なんだが、根は悪いヤツじゃないんだ」主人はビニール製の携帯灰皿で、タバコを揉み消す。

「まあ、お前らもあんまりヤバいこと、しでかすなよ。・・・じゃあな」主人はそう言って去って行った。


SRは一度国道へ出て、南に向かう。大きな橋を渡る手前で左に折れ、東に向かう。無用なトラブルを避けるため、カズオは飛ばしはしなかった。少しするとサイレンが近づき、救急車がSRを追い越していった。

・・・俺はカズオの後ろで長い1日を振り返った。まだ終わってはいないが・・・。

左手首を断ち割られた柴崎はどうしてるだろう。デパートの勤務を終えて部屋に帰ってきた加納綾子は、さぞ驚いただろう。病院に連れて行っただろうか、そして連中は今後どうするだろうか。

カタワになったジゴロを今までどおり養っていくのか、それとも叩き出すか。柴崎が詐欺師を続けていくのは多分無理だろう。左手の欠損もそうだが、ヤツの心はもう破壊されている。

これまでのように、軽妙な調子で女や善人をだますことが出来るほど回復はしないだろう。

・・・鴨島治はどうか。骨を粉々に砕いた右手は、切断するしかないだろう。顔の刃傷は縫合しなけりゃならないだろう。気絶から醒めてヤツはどうしたか。そしてその大怪我の理由は、どう言い繕うだろう。

こっちにマイクロテープレコーダーの記録があるだけに、病院にも家族にも、ましてや警察には真実を話すことはないだろう。いづれにしても教育者を続けていくことは不可能に思える。

・・・真由美と真奈美はどうしてるだろう。真由美はまだ病院にいるのだろうか、少しは回復したのだろうか。真奈美の悲しみは、少しは癒えたのだろうか。無性に真奈美の顔が見たくなった。

・・・『襲撃屋』俺たちがチンピラたちを潰す前に、カズオが言った言葉が不意によみがえった。そんな言葉ははじめて聞いたが、カズオは「・・・それが襲撃屋のルール」と言って、携帯灰皿を出した。

俺とカズオは、今や双子か兄弟のように襲撃を繰り返し、対峙した相手はほぼ再起不能にした。カズオは俺を『気の合うヤツ』と言った。俺もカズオとは気が合うと思っている。

だが俺は、本当のヤツの姿は何も知らない。東京のことも結局うやむやで知らないままだ。・・・カズオが善人なのか悪人なのか、天使なのか悪魔なのか、皆目見当もつかない。

・・・あれこれ考えたが、やめた。今は鴨島勇をぶっ潰すことが、最大の目的だ。その後のことなどどうでもいいし、考えるつもりもない。


「アダルトビデオショップ、あれだ」カズオが顔を少し右に向けて言った。

南北に走る県道沿い、周囲は店舗や事務所や工場が混在する地区。祝日の午後11時過ぎの現在は、街路灯以外には明かりがない。・・・ビデオショップのみが煌々と明かりを灯している。

鴨島兄弟の兄、勇は2年前からこのアダルトビデオショップを経営している。それ以前は柴崎と同様、東京で胡散臭い商売をしていたらしい。


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