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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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教員住宅から20mほど手前の、営業を終えたガソリンスタンドの隅にSRを停める。『玉井給油所』という看板が出ていた。

俺はバッグを提げてカズオと一緒に、教員住宅に引き返す。辺りはだいぶ暗くなってきた。

建物の手前は、砕石敷きの広い駐車場になっているが、草だらけの庭に車は1台も停まっていなかった。

俺とカズオは建物の左側から、奥に回り込む。向こう面に各世帯の玄関があるからだ。

明かりの点いていた『103』から順に表札を見て歩く。一番奥の『101』の表札に『鴨島』という名前が書かれていた。

・・・駐車場に車が停まり、ドアの閉まる音が聞こえてきた。ザクザクと砕石を踏んで歩いてくる音がしたので、俺とカズオは建物の陰に隠れて、様子を窺う。

やがて大柄な腹のつき出た男のシルエットが見え、101の玄関ドアの施錠を解いて中に入っていった。・・・2人は目出し帽をかぶって、飾り気のない鉄扉に近づく。内側から施錠した様子はない。

「コウジは表に行って、窓に小石をぶつけろ。ヤツが外に気を取られてる間に俺が潜入する」カズオが耳元でささやいた。

俺は表に戻り、明かりの点いた103の窓の外に立つ。足元の砕石を拾い上げ窓に投げる。・・・カツンと音がして、しばらくするとストライプのカーテンが引かれ、ガラガラと音を立てて窓が開いた。

太った男は首を突き出し、キョロキョロと辺りを眺めている。・・・その内、弾かれたように室内の方を振り向いた。俺は光の届かない死角からそこまで見届けると、玄関の方に走る。

103の玄関先に手ごろな角材が落ちていた。それを拾って重いドアを開けると、目出し帽のカズオの向こうに、黒いジャージを着たデブが身構えているのが見えた。

35歳ぐらい、天然パーマの短髪で、べっ甲風の大きなフレームの眼鏡をかけた男だ。

男はあとから入ってきた俺とカズオを交互に見つめ、「なんだお前たちは!強盗か!」と怒鳴った。柴崎にくらべると威勢がいい。普段生徒になめられないために、ハッタリをかましているからだろう。

「ふん、威勢がいいな。・・・てめえも覆面かぶって強盗以上のことをしてやがるくせしてな」カズオはポケットからバタフライナイフを出すと、一度ジャラリと回した。

「なにを言ってる!貴様らはいったい何者だ!」デブは威厳を保つためか、顔色を変えずに言った。

カズオと並んだ俺が言う、「スケさんとカクさんだよ。・・・こいつがスケこましのスケさん、俺が角材のカクさん・・・」

そう言うと俺は一歩踏み込み、持っていた角材をデブに振り下ろす。デブは意外な敏捷さで、角材をかわしざま拳を飛ばしてきた。俺はのけぞったが、デブの重たいパンチは顎にヒットして、吹っ飛ばされた。

右肩を壁にしたたか打ちつけたが、すぐに体勢を立て直す。・・・口の中が切れて血の味がした。

俺は角材を放りつけて身構える。デブの眼がギラついてきた。にらみ合う、空気がピンと張る。俺もデブもジリジリと自分の足場を確かめ、相手との距離を確認する。

・・・緊張を破ったのは俺だ、右拳を構えたまま体当たりのように突進する。ガードしたデブの左腕と衝突する、デブは押されながらも拳を出してくる。

俺は身体を捻ってかわしざま、腰のひねりを利用した膝を突き上げる。タイコ腹にきれいに決まった。デブは呻きながら身体を折る。後頭部に拳を叩き落す。デブはうつぶせに倒れた。

気配を消して立っていたカズオが、またナイフをジャラリと回して唇をゆがめた。「やるねー、コウちゃん」


グッタリした鴨島を2人で起こして、ササクレ立ち黄ばんだ畳の上に座らせる。ヤツはされるがままにしていたが、充血した眼は俺たちを見据えていた。

カズオが「いいもん聞かせてやるから、よく聞いてろ」と言って、マイクロレコーダーの再生ボタンを押した。

・・・柴崎は最初に苦しそうに咳き込んだあと、自分と鴨島勇、鴨島治の3人で実行した悪事のすべてを、事細かに白状した。・・・鴨島治は次第に落ち着きをなくし、息遣いが荒くなってくる。

柴崎は意外に詳細まで覚えていたようで、光景を想像できるような話し方をしていた。・・・柴崎の話が終わり、テープを止める。

「現役の中学教師が、強姦・ビデオ撮りの常習犯とはな。・・・てめえはどのツラさげて、生徒の進路指導なんかしてんだよ」カズオが聞いても、鴨島は顔色をなくして、うなだれたままだ。

「ビデオテープはどこだ?・・・レイプのビデオがあるはずだ」俺が聞くと、鴨島は顔をそむけて、「ない、ここには」と答えた。

俺とカズオは室内を物色する。オーディオラック、本棚、ベッドの下、押入れの中、テレビの下、台所や食器棚、下駄箱にトイレ。大して物がある部屋じゃないが、物色には時間がかかった。・・・だが見つからない。

「見つからねえ、おかしいな」カズオがためいきをつく。・・・俺は不意に鴨島の方を見る。鴨島はほんの一瞬、押し入れに視線を移した。

「・・・押入れ、もう一度調べよう」俺は押入れの中のものを全部出して調べる。

「やっぱりねえな、こうなりゃ拷問で吐かすしかねえな」カズオが言った時、ふと押し入れの中の天井板が少しずれているのに気づく。

「・・・ここだ」俺は押し入れの中段に登り、天井板をずらして箱を見つけた。重い箱を下ろしてカズオに渡す。


箱の中から12本のベータのビデオテープと、おそらく数十万円もするベータビデオカメラが出てきた。・・・テープの背には地域名と女の名前が、ワープロのタイピング文字で書かれている。

中に『長野市 真由美』というテープがあった。・・・真奈美のしゃくり上げる泣き顔と「お姉ちゃんが手首を切ったの」の言葉がよぎって、俺は胸がつまった。

沸騰する怒りを抑えて、テレビの下のビデオデッキの電源を入れる。


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