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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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長野駅近くの、鳩が群がる公園の脇の『ダラス』というカフェバーに入り、テーブル席に座る。

店の奥に大きなテレビがあって、レーザーディスクと繋がった画面には、ブルース・スプリングスティーンのライブ映像が流れていた。

あずき色の革ベストを着た、チャーリー・ワッツ似のマスターが水のグラスを持ってきて、テーブルに置く。田舎町では珍しい『クアーズ』がメニューにあるので、それを2本とミックスピザを頼んだ。

俺もカズオも無言のままクアーズを飲みながら、スプリングスティーンの動きを目で追っている。

・・・12インチのピザとタバスコと小皿がテーブルに届き、ひと切れずつ取り上げた時、カズオがやっと口を開いた。

「・・・しかし、コウジはいよいよヤバいヤツになっちまったな」呟いた声は妙にザラついている。俺は黙ったままピザを食う。

「鏡を見てみろよ、獣みてえな眼になっちまってるぜ」

「そうか?・・・だとしたらカズオのせいさ。お前が来なけりゃ、俺は平凡な中学3年生のままだった」聞いたカズオが、ガラガラ声で笑う。

「それはどうかな?・・・お前はもともと自分の中に獣を飼っていた。早かれ遅かれ、いつかは獣は目を醒ましただろうさ」カズオもピザを頬ばった。

俺はカウンターでマルボロをふかしてるマスターにクアーズの缶を見せ、指を2本立てた。


午後7時、ダラスの窓外がようやく薄暗くなってきた。俺たちは店を出てSRにまたがる。

駅前の大通りに合流する。いつもは混んでいるこの通りも、今日は車もまばらだ。サンデードライバーらしい遅い車の後ろについて、昭和通りを右折する。

と、突然ハイビームにしたセダンらしい車が、SRを追い上げてくる。派手にクラクションも鳴らしている。バックミラーを見ると『角目4灯』のようだ。

「武井のクレスタだ」カズオが言った。・・・俺たちにぶちのめされて組を破門になった仕返しだろう。追い上げ方に充分怒りが感じられる。

「ふん、ちょっと遊んでやるか」カズオは言うと同時にアクセルを開き、前を走る車を次々に追い抜いていく。

クレスタも執拗についてきた、運転は上手いようだ。

・・・目の前の信号が赤に変わる、カズオはアクセルを全開にして駆け抜ける。クレスタもアクセルを踏み込む。交差点を青信号で出てきたサバンナRX-7が、急ブレーキを踏んでクラクションを鳴らしまくった。

18号までは2車線のストレートだ。SRとクレスタは気が狂ったように疾走する。危険を感じた前方の軽自動車やトラックは、救急車が迫ってきた時のように道を空ける。

カズオはクレスタの前でジグザクを切る。まだ余裕のようだ。

突然サイレンが聞こえてきた、「前のセダン、停まりなさい!前のセダン、停まりなさい!」と声も聞こえてくる。白バイのパトライトがミラーに見え隠れしている。

次の交差点の先に、モタモタと並走している大型トラックと4tトラックが見えた。カズオは減速せずに、並走するトラックの真ん中の隙間にSRを突っ込む。

前方がふさがっているのを察知したクレスタは、高速のままいきなり交差点を右折する。タイヤは派手な悲鳴を上げ、右側のタイヤが浮き出す。明らかにオーバースピードだ。

クレスタは曲がりきれず車体は横倒しになりながら、歩行者用の信号の柱をなぎ倒して、歩道橋の手すりに叩きつけられる。クレスタは完全にひっくり返った。


SRは18号を横切り、住宅地に入る。しばらく走ると目的の建物が見えてきた。歩道に乗り上げる。

・・・相当古い集合住宅だ。壁のモルタルは色あせひび割れ、外付けの鉄階段は赤錆びていた。窓はアルミサッシではなく、鉄枠がはまっていた。

俺の頭に、柴崎の言葉がよぎった。


―――弟は『鴨島治』30代半ば。市内の中学校教師で、妻と子供がいるが現在単身赴任中。市内の教員住宅にひとりで住んでいる。

数学が専門で、進路指導も担当しているという。

・・・住宅に明かりがついているのは、1階の左端の部屋のみだ。


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