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転校生 ― 十代の衝動 ―  作者: 村松康弘
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○△町は地方銀行の本店や、生命保険会社のビルがあるビジネス街だ。駅から近い一等地なので、高層マンションも立ち並んでいる。

普段はビジネスマンや学生などがひっきりなしに往来する通りも、ゴールデンウィークの中日である今日は、閑散として人影はまばらだった。

2人乗りのSRは目当てのマンションを探して、トロトロと走る。・・・しばらく小路をチョロチョロ回っていると、「あ、あれだ。サンハイツ」とカズオが言った。

保険会社ビルと、建設会社の支店や化粧品メーカーの支店が入っている貸しビルの狭間の、白壁の5階建てマンションだ。・・・外観上は特徴の乏しい、どこにでもあるような建物だ。


SRは一度、マンションの玄関前を通りすぎ、50mほど離れた別のマンションの駐輪場に停める。

俺とカズオはヘルメットを脱いで、グレー無地と黒無地のキャップをかぶり使い捨てマスクをする。

・・・一見不審そうにも見えるいでたちだが、花粉症対策でマスクをしている歩行者は多いので、さほどの不審さはない。服装もカジュアルなので、どこから見ても街を歩いている普通の若者たちだ。

サンハイツまで歩いて戻り、玄関ホールに入る。右側に各世帯の郵便物の投函箱、左側には管理人室があった。だが受付の小窓にはベージュのカーテンが引かれ、人がいる様子はなかった。

「加納の部屋は503だ」呟くカズオの声はマスク越しなので、くぐもって聞こえる。


エレベーターホールに行き『上昇』のボタンを押すと、扉は瞬時に開く。ハコが1階にあったのだろう。

乗り込んで『4F』のボタンを押す。モーターが駆動する音がハコの外の空間に響き動き出した。俺もカズオも無言で、頭上のインジケーターを見上げる。やがて『チン』という音とともに扉が開いた。

・・・廊下の右側の腰壁の向こうには、穏やかな光に照らされた昼過ぎの市街地が見える。左側は等間隔に並んだ各部屋の玄関が見えた。・・・間隔を見ると各世帯は2DKぐらいの間取りだろう。

俺たちはコンクリート床の廊下をつきあたりまで歩く。白い扉を開けると階段になっている。・・・一度の折り返しで、5階の扉にたどり着く。


5階の廊下を歩き出すと、だいぶエレベーター寄りの玄関ドアが開いた。俺とカズオは顔を見合わせて立ち止まる。・・・ドアのこっち側に蝶番があるため、すぐには姿は見えない。

やがて人物が現れる。(・・・!)柴崎だった。ヤツはグレーのスウェットの上下で、素足にサンダルをつっかけている。後頭部はひどい寝癖のまま廊下に出ると、伸びをしながら大あくびをした。

そして左手のセカンドバッグから鍵を取り出し、玄関ドアを施錠してエレベーターの方へ歩いて行く。腰から白い肌着のシャツがはみ出ていた。

柴崎は一度もこっちを振り向かずに、エレベーターに乗り込んだ。

「・・・施錠したってことは、部屋にひとりの可能性が高いな」カズオがコソコソ言う。

「尾行けてみようぜ」俺はボソボソと言う。俺とカズオは階段を2段飛ばしで駆け下りる、折り返しのところは、手すりにつかまり遠心力を利用するので速かった。

1階まで降りる、廊下にもエレベーターホールにも人影はない。廊下を駆け抜け玄関ホールまで来ると、マンション前の道路を右の方向に歩いていく柴崎の姿が見えた。ダラダラと歩いている。

「コウジはヤツを尾行けてくれ、俺はちょっと電話してくる」カズオはそう言うと、柴崎と反対の方向へ走っていった。


・・・柴崎と20mの距離を置いて歩く、相変わらずヤツはチンタラしていた。大きな通りまで出ると右折する。そのまましばらく歩いて、コンビニに入って行った。

俺はコンビニを通りすぎざま店内を見ると、柴崎は寝ぼけたような顔で雑誌コーナーに立ち止まっていた。

コンビニの2軒先の本屋の店先で、俺は雑誌を探すふりをしてコンビニに注視する。・・・5分もしないうちに柴崎は出てきた。

右手に弁当らしき物と雑誌の入ったビニール袋をさげている。またチンタラした足取りで、マンションに戻っていった。

俺は少し足を遅らせてマンションに入ると、エレベーターのインジケーターを確認する。上昇は5階で止まった。・・・カズオが俺のバッグを片手に、玄関から入ってきた。

「柴崎はコンビニに行って、503に戻った。買ったものは食い物と雑誌だ」俺はカズオの耳元で呟く。

「・・・デパートに電話してきたぜ。綾子が自分の売り場で仕事しているのを確認した」カズオの顔のマスクの左半分だけ持ち上がる、唇をゆがめてニヤリとしたのだろう。

「さてと、・・・お宅訪問と参りましょうか」カズオがまた、クックッと笑った。


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