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俺は胸にわだかまる黒い憤りと憂鬱な気持ちを抱えたまま、町の裏通りを歩いていると、『さえない生徒』バージョンのカズオに出くわした。
俺に気づいたカズオは、ゆったりとした足取りで近づいてくると、「浮かねえツラしてんじゃねえか、コウジ」と唇の端をゆがめる。
おとなしそうな、さえない見た目と柄の悪いセリフのちぐはぐさが、奇妙で滑稽に感じた。
「・・・まあ、ウチに来いよ」俺の心情を察したように言うので、カズオの家について行った。
・・・玄関左に停まっているSRのナンバーが『長野』ナンバーに替わっているのに気づく。
「あれ?ナンバー替わってんな」言うと、カズオはニヤリとして、「今ごろ気づいたのか。・・・偽造ナンバーだよ。チンピラを襲撃する前に替えた。品川ナンバーじゃ目立って仕方ねえ」
居間のカーペットに座ると、カズオはテーブルの上に眼鏡を放り出して、冷蔵庫から缶ビールを2本持ってきた。どうやらいつもの日課のようだ。・・・俺は缶の半分ぐらいを一気に飲む。
カズオは喉を鳴らして一気に飲み干すと、バカでかいゲップをした。
「で、どうした?話を聞こうじゃねえか」・・・ビールを飲み終えた俺は、河川敷で聞いた真奈美の話をカズオに伝える。
最初は「うん、うん、」と相槌を打っていたが、表情がだんだん険しくなってくる。最後まで聞き終わると、短いピースに火を点け煙を天井に吹き上げると、「叩き潰すしかねえな、そいつら」と呟いた。
「これが真奈美の姉貴と、川村だ」俺はポケットから取り出した写真を、テーブルの上に置く。眺めたカズオは「・・・ん!?」と、大きく目を見開いた。
「・・・コウジ、こいつは川村なんて名前じゃねえ。柴崎だ・・・」そう言ったまま黙りこんだ。
「柴崎?いったい何者だよ?」聞くと、「東京の詐欺師だよ、結婚詐欺から取り込み詐欺、寸借詐欺や代理人詐欺。てめえの見た目の良さと口のうまさを利用して、相当稼いでるらしい。薄汚ねえ野郎さ。・・・まさか長野にまで来てたとは」そう言って、また黙りこんだ。
「俺はヤツら3人を潰す!真奈美の姉さんが泣き寝入りしなきゃならねえなんて、許せねえ!」俺は声を荒げた。
「まあ、そうあわてんなよ。まずは川村、いや柴崎の居所をつきとめなくちゃな。・・・東京の情報屋に当たってみるからよ」カズオはそう言って、ニヤリとした。
2日後、世の中はゴールデンウィークに入っていた。・・・午後10時すぎ。
俺の離れ部屋の窓に「コツン」と小石が当たったような音がしたので、カーテンを開け窓を開けると、庭の物置の陰にカズオがひっそりと隠れているのが見えた。
どっか遠くにSRを置いてきたのだろう、さっきまで何の物音もしなかった。俺は手招きして呼ぶと、カズオは猫のように足音を消して部屋に入ってきた。
カズオがショートピースに火を点けたので、灰皿を出す。ついでに俺もロングピースに火を点ける。灰皿はセンターに黒い棒状のボタンがあって、そいつを押すと下の円盤がくるくると回って、吸殻が下に落ちる仕組みのものだ。
「情報屋から連絡があった、柴崎の居所がわかったぜ」煙を吐きながら言う。
俺はカズオのネットワークに驚いた。いろんな手段や人脈を持っていること。・・・俺が現在知ってるカズオの姿など、ほんの氷山の一角なのかもしれない・・・。
「情報屋には、当然金は払うんだろう?」素朴な疑問をぶつけてみると、カズオはニヤリとする。
「場合による。今回は貸しがあったから、これでチャラだ。持ちつ持たれつの関係だからな」ピースを灰皿で消す。
「そいつはありがたい、恩に着る。・・・だが、悪党同士の貸し借りか」俺がからかうと、「なに言ってやがる。お前も充分悪党さ」と言って笑った。
「柴崎は○△町の、加納綾子という女のマンションに転がりこんでヒモみてえな暮らしをしている。女は街のデパート勤務だから、野郎は日中ひとりでブラブラしてるらしい」
「そうか。今はゴールデンウィークだから、デパートは休みじゃねえな。昼間マンションに行けば、ヤツに遭える可能性は高いな」
俺とカズオは、夜おそくまで作戦を練った。
翌日の午前中、俺は自分の道具箱と、物置にある親父の道具や材料を見繕ってバッグに詰める。マイクロカセットレコーダーも入れる。
11時すぎ、ポロシャツ・ジーンズにキャップをかぶって家を出る。・・・家族はどこかに出かけたようで誰もいなかった。
坂道を下ると、カズオはこないだ待ち合わせた三叉路で待っていた。「爽快な天気じゃねえか、こう気持ちいいと世のため人のために、良いことをしたくなるぜ」そう言って、クックッと笑った。
・・・実際、空には雲ひとつない五月晴れ。暑くも寒くもない快適な休日だ。
SRにまたがって出発する。今日は目立ちたくないので、カズオは国道でも飛ばしはしない。『三河』『尾張小牧』『名古屋』・・・愛知県ナンバーが多く走っている。・・・この田舎町を縦断する19号の果ては、名古屋なのだ。
SRは法定速度で走る車の群れに混じって、モタモタと市街地を目指す。




