八話 疑惑の日常
琴華の初めての仕事の同時刻―――――
死神界。
そこには、死神の10倍にもなる大きな椅子に腰掛ける死神大王の姿があった。鎮座ましましているそれにナディスは深々と頭を下げていた。
「貴様!何故仕事をこなさない!禁錮の刑300年に処すぞ!」
「す、すみませんっっっ!」
他の死神がクスクス笑う中、ナディスだけは叱られていた。気にしたくはないが、悲しくなる。
「貴様。あちらの世界で何をしていた。人殺しでもしていたのか?そんなことをもし、してみたとしろ!ただじゃおかんぞ!」
「そんな事してません」
「では、何をしていた?」
「と、とある人間と・・・・・」
辺りがやけに静かになる。みんなが聞き耳を立てていると考えられる。余計に居ずらくなる。
「し、死神契約6条を交わしていました!」
僅かな沈黙がはしる
「6条…」
少しの沈黙の後、何やら怪しげに、近くにいた死神大臣と話始めた。
「貴様。下がってよいぞ」
「? はぁ…」
これ以上なにか言うと、また叱られそうだったので、素直に身を引いた。何があったんだろう。そんなにダメだったのかな?契約6条が、そんなにいけないことだったのかな? やだなぁ。磔にされるのだけは…
数十分後―――
「貴様。人間界に帰ってよいぞ」
「あ、ありがとうございます」
さっきの出来事に疑問を持ちながらも、琴華のもとへ向かおうと思った。丁度その時、友人が話かけてきた。
「なあ、お前人間界で何してんのよ!死人運び以外って、やることなくね?」
「本当はないけど、僕は人間と契約を結んだからね。色々あるよ…」
「契約…。お前が人間と話す時って、媒体って何にしてんの?」
「前はペンに宿ってたけど、今は琴華ちゃんっていう人間だよ。」
「やっぱりか…」
「どうかしたの?」
「いや、普通、俺達の魂分の隙間が人間の器・・・つまり、人間には俺達を維持できるだけの能力は備わってないんだよ!」
「え?」
人間界に着いて、魂の空間が解けてるのに気付いた。つまり、対象の人間が逝ったということなんだ。僕はすぐに琴華ちゃんの所へ向かった。
「琴華ちゃん………」
「…………」
「気に病むことはないよ。なにぶん初めてだったんだし…」
「わたし…今まで、あなたのこと、どこかバカにしてた。なんでそんなんでクヨクヨしてんだって。でも、本当ね…自分の無力さをかんじる」
「分かってくれたのは嬉しいよ…。でも、僕は死神。君は人間。君の運命は君自身で変えられるハズだよ。」
少しでも元気づけてあげたかった。けど、いい言葉が出なかった。
「でも、これも一期一会だよ。」
「もうやだ!こんな事、二度としたくない!!」
嗚咽をもらしながら、泣く琴華ちゃんを黙って見てはいられなかった。
「琴華ち」
「なんで! もう…なんで。 あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ。」
これは、琴華ちゃんの心叫び声なんだろうか。本当のきもち。
「立ち直ってよ。あの時、出会って教えてくれた、立ち向かい、恐れず前に進むこと」
「・・・」
「僕は、忘れないよ」
「ありがとう。ナディス」
この時見せた笑顔が、1ヶ月後見れなくなるなんて。思ってもみなかった。
―――――
少ししてまた、変わらない日常がやってきた。(普通じゃないけど)あれからは二人で、仮死人を説得したり、たまには死神界に運んだりしている。たまには辛いこともある。でも、それでも。なんとか二人でこなしていった。
「最近、死人が少なくなってきてるね。僕、嬉しいよ!」
「当たり前でしょ。私が説得してるんだから」
「で、どう?謙二君とは?」
「う、うるっさいわね!」
魂の空間が解けた後、数日経ったある日、この前事件時、時系列のせいであやふやになっていた謙二との交際を認めたんだ。だから二人は、この世界て言う…
リア充?みたいな関係なんだ。
「聞こえてるわよ!ナディス!」
…そう。死神契約6条(この契約を交わした者は、魂の器を半分を引き渡すと同時に、死神代行人として相応の力を手に入れる。)を交わした琴華ちゃんは、普通の人間には成し得ない芸当ができる。あの橋の事件。焦ってまで契約を交わしたのは、川に激突しないために、身体能力を上げたかったからなんだ。今みたいに人の心の声を聴いたり、魂の結界を張れたり……
ただ、琴華ちゃんにはこの力が、どうも性分に合わないらしい。だけど、本当の所、人間離れするのが怖いらしいんだ。なので、今こうしている間の心の声は琴華ちゃんには聞こえてないんだ。
でも、、、
どうやって器の半分を与える隙間があるんだろうか・・・。
そういう謎は、まだ解けてない。
数日後―――――
ある日、僕(僕達)は某駅に向かった。僕達が住んでる家の近くの駅から2駅離れた場所。そこで、琴華ちゃんと謙二君がデートをするらしい。
「ねぇナディス!こっちの服と、こっちの服。どっちがいい?」
「………こっち?」
「だよねぇ、でもこっちも捨てがたいし…...」
じゃあ聞くなよ!とも思いつつ、女の子って、いや、人間って大変だな~。僕達死神には服なんて、ましてや虫歯然り、睡魔、お風呂、基本的な欲などが、無いし。と、思っていた。
電車の中―――
「ナディス。聞いてる?」
「なに?」
「この前、私と謙二君と、二人で下校したときね」
「のろけ話?」
「違うよ。その時の不思議な話よ」
「不思議な話?」
「そう。あの時、二人で帰ってる時、転んでる子供がいたのよ。その時、謙二君が近寄ってたのよ」
「カッコいいね。」
「そうね~… って違うよ!! いや、まぁカッコいいけど。その子、怪我してて。そしたら」
「そしたら?」
「謙二君が、その子の怪我を、なおしたの!」
「えええ!?」
電車の中ということをすっかり忘れていた僕は、上下に揺れる車体の中で大声をあげてしまった。ただし、前回と同じく、魂の空間内なので、車内で響くことはなかった。
――――――――
某駅のロータリーにて
「お前をみたら、びっくりするぞ」
「びっくりですむのか?」
「そん時は…そん時だ!」
「……そうか」
待ち合わせの場所に来た僕達は、多分。謙二君が予想したのとは、同じようで違う意味で、腰を抜かした。
そこにいたのは、死神だった。