第86話 静かに集まる声
王城南棟、小会議室。
正式な招集ではない。
だが、若手貴族たちは自然と集まっていた。
「王の療養が長引けば、政務は滞る」
「王太子殿下は慎重すぎる」
不安は小さく、だが確実に広がる。
その中心に、カイウスはいない。
あえて。
「第二王子殿下はどうお考えだろう」
誰かが口にする。
それだけで、場が落ち着く。
本人がいないのに、軸になっている。
しばらくして、扉が開く。
カイウスが入る。
驚いたふりをして、穏やかに微笑む。
「議論中だったかな」
「申し訳ありません、殿下」
若手貴族が頭を下げる。
「謝ることはない」
彼は席につかない。
立ったまま、周囲を見渡す。
「王太子殿下は正統だ」
「それは揺らがない」
まず前提を置く。
対立を煽らない。
「だが、今は不安定だ」
「不安定な時に必要なのは、迅速な整理だ」
整理。
支配とは言わない。
「政務の決裁を一時的に集中させる」
「臨時の枠組みを整える」
具体性を出す。
だが王位には触れない。
それが賢い。
「殿下が摂政に?」
誰かが問う。
カイウスはすぐ否定する。
「父上はまだ御存命だ」
「そのような話は早い」
拒絶。
だが視線は逸らさない。
否定はしても、否認はしない。
その微妙な距離が、支持を生む。
「国家は迷っている時間が一番危険だ」
静かな言葉。
強くない。
だが、残る。
その頃、王太子宮。
レオンハルトは報告を受けていた。
「若手貴族の間で、臨時決裁集中案が議論されています」
「第二王子は?」
「否定も肯定もしていません」
レオンハルトは目を閉じる。
「動かずに、動かすか」
冷静に分析する。
「世論は」
「揺れています」
当然だ。
不安は速さを求める。
その夜。
私は執務机に向かっていた。
資料を並べる。
集中決裁案。
緊急権限集中。
短期的には効率的。
だが。
「責任が一点に集まる」
失敗すれば、一気に崩れる。
辺境伯が部屋に入る。
「動き始めたな」
「ええ」
「どう見る」
私は顔を上げる。
「速さは正しいです」
彼はわずかに目を細める。
「だが?」
「速さには制限が必要です」
完全否定しない。
ここが重要だ。
「集中は効率的」
「ですが、失敗時の責任帰属が曖昧になる」
「握る者が失敗した場合、国家全体が沈む」
彼は短く笑う。
「お前は敵を作らない」
「思想を分解しているだけです」
第二王子はまだ攻めていない。
だが支持は集まっている。
静かに。
確実に。
王は眠っている。
だが王国は目覚め始めている。
速さと持続。
衝突はまだ表に出ていない。
だが、揺れは大きくなっていた。
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