第75話 同行
王都出立まで、あと三日。
城館は慌ただしいが、浮き足立ってはいない。
港は第二便の準備を進め、内部流通も安定し始めている。
構造は、回っている。
執務室で最終確認が行われる。
「王都では公開協議になる可能性が高い」
補佐官が言う。
「宰相派は財政と統制を軸に攻めるでしょう」
「軍部は中立寄り」
ガルドが腕を組む。
「だが、理論戦になる」
辺境伯は短く答える。
「分かっている」
沈黙。
そして、彼は私を見る。
「一人で行くつもりはない」
その一言で、空気が変わる。
ガルドが目を細める。
「まさか」
「設計者は彼女だ」
迷いなく言う。
「港再構築の理論は、彼女が最も説明できる」
私は一瞬だけ息を止める。
王都へ行く。
かつての場所へ。
だが。
今は違う。
「同行する」
私は即答した。
迷いはなかった。
怖さはある。
だが、逃げない。
辺境伯が確認する。
「後悔は」
「ありません」
同じ言葉を、もう一度。
今度は、よりはっきりと。
ガルドが小さく笑う。
「王都で暴れないでくれ」
「暴れません」
私は静かに返す。
「整えるだけです」
それで十分だ。
夜。
荷造りは簡素だ。
豪華な衣装は持たない。
必要なのは帳簿と契約書、試算表。
かつて王都を出たとき。
私は何も持っていなかった。
今は違う。
構造を持っている。
港は回っている。
第二便は予定通り出る。
私は、留守中も揺らがないように整えた。
廊下で辺境伯とすれ違う。
「王都は変わっていない」
低い声。
「分かっています」
「お前は」
一瞬だけ言葉を選ぶ。
「変わった」
胸の奥が熱くなる。
「隣に立つと決めました」
あの日の言葉。
彼はわずかに頷く。
「ならば、隣に立て」
囲わない。
支配しない。
対等。
王都へ向かう。
今度は、追われるのではない。
呼ばれてもいない。
立って行く。
馬車の車輪が軋む。
風は北から吹いている。
第六章は、王都で幕を開ける。
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