表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された悪役令嬢は、役割を与えられない場所で静かに生きる 〜尽くしても報われなかった私を、理由も聞かずに受け入れてくれる領がありました〜  作者: 東雲透


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/97

第41話 条件をつけてくる人たち

 王都では、会議の席がひとつ増えていた。


 机を囲むのは、王太子と数名の側近、そして財務と人事を司る官吏たち。


「返事は、やはりありません」


 静かな報告。


 王太子は腕を組み、視線を落としたまま言う。


「では、こちらから条件を示す」


 その言葉に、室内の空気がわずかに変わる。


「条件、とは」


「地位だ」


 即答だった。


「名誉ある役職を与える。王都に戻る正当な理由を作る」


 官吏の一人が、慎重に口を開く。


「役職を用意するとなれば、既存の配置との調整が必要です」


「構わない」


「待遇も、相応のものになります」


「当然だ」


 王太子の声には、焦りが滲んでいた。


 以前は、地位も待遇も当然のように与えられていた。彼女は、そこに立っていたのだから。


 だが今は違う。


 戻ってもらうために、用意しなければならない。


「名誉回復も必要でしょう」


 別の官吏が言う。


「悪役令嬢としての印象を、そのままにするわけにはいきません」


 その言葉に、王太子の眉がわずかに動く。


 “悪役令嬢”。


 あの場で貼られた烙印。


 それを外すことは、彼自身の判断の誤りを示すことにもなる。


 だが。


「必要なら、形は整えろ」


 短い命令。


 王都は、並べ始めた。


 地位。

 待遇。

 名誉。


 条件を。


 一方、その頃。


 私は、辺境伯領の倉庫前で、補給品の確認をしていた。


「この数で問題ありません」


 帳簿を閉じ、軽く頷く。


 役職もない。

 肩書きもない。

 名誉もない。


 けれど、誰もそれを問題にしていない。


 昼前、廊下を歩いていると、若い使用人が言った。


「最近、落ち着いていますね」


「ええ」


 私は微笑む。


「静かで、いいですね」


 それだけの会話。


 王都で、地位や待遇が並べられていることなど、知らない。


 もし、それを差し出されたとして。


 以前の私は、迷わず受け取っていただろう。


 名誉を回復できる。

 正しい立場に戻れる。


 そう思って。


 でも今は。


 肩書きがなくても、息ができる。


 評価がなくても、ここにいられる。


 夕方、執務室の前で立ち止まる。


 中では、辺境伯と補佐官が何かを話している。


 私は、扉をノックせずに通り過ぎた。


 呼ばれていない。


 だから、入らない。


 王都は、条件を並べ始めた。


 けれど、その条件は、まだ私の前には置かれていない。


 そして。


 置かれたとしても、それが私の選択になるとは限らない。


 私は、窓の外の森を眺めた。


 条件のない場所で、今日も一日が終わる。


 それが、今は何より穏やかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ