第41話 条件をつけてくる人たち
王都では、会議の席がひとつ増えていた。
机を囲むのは、王太子と数名の側近、そして財務と人事を司る官吏たち。
「返事は、やはりありません」
静かな報告。
王太子は腕を組み、視線を落としたまま言う。
「では、こちらから条件を示す」
その言葉に、室内の空気がわずかに変わる。
「条件、とは」
「地位だ」
即答だった。
「名誉ある役職を与える。王都に戻る正当な理由を作る」
官吏の一人が、慎重に口を開く。
「役職を用意するとなれば、既存の配置との調整が必要です」
「構わない」
「待遇も、相応のものになります」
「当然だ」
王太子の声には、焦りが滲んでいた。
以前は、地位も待遇も当然のように与えられていた。彼女は、そこに立っていたのだから。
だが今は違う。
戻ってもらうために、用意しなければならない。
「名誉回復も必要でしょう」
別の官吏が言う。
「悪役令嬢としての印象を、そのままにするわけにはいきません」
その言葉に、王太子の眉がわずかに動く。
“悪役令嬢”。
あの場で貼られた烙印。
それを外すことは、彼自身の判断の誤りを示すことにもなる。
だが。
「必要なら、形は整えろ」
短い命令。
王都は、並べ始めた。
地位。
待遇。
名誉。
条件を。
一方、その頃。
私は、辺境伯領の倉庫前で、補給品の確認をしていた。
「この数で問題ありません」
帳簿を閉じ、軽く頷く。
役職もない。
肩書きもない。
名誉もない。
けれど、誰もそれを問題にしていない。
昼前、廊下を歩いていると、若い使用人が言った。
「最近、落ち着いていますね」
「ええ」
私は微笑む。
「静かで、いいですね」
それだけの会話。
王都で、地位や待遇が並べられていることなど、知らない。
もし、それを差し出されたとして。
以前の私は、迷わず受け取っていただろう。
名誉を回復できる。
正しい立場に戻れる。
そう思って。
でも今は。
肩書きがなくても、息ができる。
評価がなくても、ここにいられる。
夕方、執務室の前で立ち止まる。
中では、辺境伯と補佐官が何かを話している。
私は、扉をノックせずに通り過ぎた。
呼ばれていない。
だから、入らない。
王都は、条件を並べ始めた。
けれど、その条件は、まだ私の前には置かれていない。
そして。
置かれたとしても、それが私の選択になるとは限らない。
私は、窓の外の森を眺めた。
条件のない場所で、今日も一日が終わる。
それが、今は何より穏やかだった。




