第124話 逃げ場を、閉じる
レオンハルトは、私の案を前に長いあいだ沈黙していた。
「これは」と、彼はようやく言った。「私の作った制度への批判だな」
「補いです」
「同じことだ。私は『制度で負う』と言った。それが逃げ場になっていた。……お前は、その逃げ場を閉じようとしている」
「はい」
「私自身の、逃げ場も、だ」
彼は、自嘲するように言った。
カイルという名を捨てて、レオンハルトになった彼にとって、それは二重の意味を持つ言葉だった。制度の逃げ場。そして、名を変えるという彼自身の逃げ場。
「認めよう」
彼は、目を閉じた。
「『制度で負う』は、正しかった。だが、足りなかった。制度は、顔を持たない。だから、その後ろに皆が隠れた。私も。……名を賭ける個人を置く。逃げ場を閉じる。――やろう」
彼は、目を開けた。
かつて、あの場で私を見なかった目が今は、まっすぐに私を見ている。人は、これほど変われるのか、と私は少しだけ思った。
「一つ、聞く」と彼は言った。「名を集めた帳簿は、誰が持つ。お前が持てば、お前はこの国の失策をすべて辿れる者になる。匿名でない代わりに、すべてを握る一人だ」
私は、すぐには答えられなかった。
「開かれた機構に置きます。私が抱えれば、次の黒塗りは私になります」
彼は頷いた。頷いたが、その顔は答えがまだ足りていないことを知っている顔だった。
「ただし、一つ」
「なんでしょう」
「最初に名を賭ける者は、私だ」
私は、彼を見た。
「王太子として、この国で最初に名を賭ける決裁をするのは、私にさせてくれ。制度を作った者が、まず自分の逃げ場を塞ぐ。……それが、筋だろう」
私は、頷いた。
この人は、変わった。それは、本物だ。
でも、変わることと、清算することは、違う。
彼が本当に清算しなければならないものは――まだ、一つ残っていた。
「最初に、名を賭ける者は、私だ」
変わることは、本物でした。
けれど、清算は、まだ残っています。
次回、発生源との、決着です。




