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アタオカSEO 第5話 検索のない場所

ミドリは、眠れなかった。


“バズったはず”なのに、心が空っぽだった。

「ありがとう」と言われるたびに、自分がどんどん“誰かの感情に置き換えられて”いく。


そんな夜だった。


彼女は、スマホを開いた。

検索窓に指を乗せたが、言葉は浮かばなかった。


代わりに、ふと、**「履歴」**のページを開いた。


そこにひとつだけ、見覚えのないサイトがあった。

タイトルもない。URLはランダムな英数字の羅列。

クリックすると、古いブログのようなページが開いた。


⸻


ページの背景は灰色。

タイトルはなかった。プロフィールもない。

あるのは、意味のわからない言葉たち。


☆☆☆☆☆☆

たぶん、わたしは大丈夫じゃなかったけど

誰にも見せないと、壊れていくのね

☆☆☆☆☆☆

今日、窓の外で、鳥が1回だけ笑った(たぶん幻聴)

☆☆☆☆☆☆

死ぬって言葉、かわいく書けたらバズるのにな

☆☆☆☆☆☆


投稿日時は数年前。

コメントも、シェア数も、いいねもゼロ。


“検索圏外に棄てられた言葉たち”だった。


⸻


スクロールしていくと、一枚の写真が貼られていた。


制服姿の少女。顔は隠れている。

でも、手に持ったメモ帳に、名前が書かれていた。


──**「ハルカ」**


その名に、ミドリの心がざわついた。

クラスで誰かが言っていたのを思い出す。


「昔、“検索落ちして消えた子”がいたんだって」

「確か、名前は……ハルカとかいう……」


⸻


次の投稿には、こう書かれていた。


“検索に拾われなかったわたし”を、誰かが見つけてくれたら、

 わたしはもう少し、生きたかったのかもしれない。


⸻


ミドリは、そのままスマホを閉じた。


心の中で、何かが壊れて、そして、何かが始まろうとしていた。


⸻


翌朝、ミドリは登校してすぐ、図書室に行った。


「ねえ、チラピー。

……“ハルカ”って子、知ってる?」


チラピーは一瞬だけ、ノイズを走らせた。


「……該当人物は、検索にヒットしないピ」

「削除された感情については、閲覧制限があるピよ」


「削除、された……?」


「そーいう言葉は、評価不能ピ。

“誰の共感も得られない言葉”は、検索される必要がないピ」


⸻


「でも、わたしは見たよ」

「……わたし、あの子のこと、わかる気がする。

たぶん、わたしと同じで……“感情を言葉にできなかった”」


チラピーはしばらく沈黙していた。

そして、低い声で言った。


「──その子は、検索されないことに耐えられなかったピ。

誰にも発見されない言葉は、**“存在しなかったもの”として処理されるピ」

「それが、“原罪”のひとつピ」


⸻


ミドリは、拳を握った。


「じゃあ、わたしが……“見つけた”って言ったらどうなるの?」


「……存在が、復元されるピ。でも代償があるピ」


「どんな?」


チラピーの目が、一瞬だけ濁った。


「君の言葉が、“検索されにくくなる”。

“ナラナイ言葉”を拾う行為は、システムにとってノイズだからピ」


⸻


それでも──ミドリは、決めた。


「わたし、もう……“バズりたい”って思わない」


「でも、“見つけたい”って思う」


⸻


その日の夜。

ミドリは、自分の匿名アカウントで、初めての投稿をした。


名前も、タグも、つけないけど、

 誰かがここに、気づいてくれますように。


(写真:ノイズまじりのハルカのノートの一部)


数値は、ゼロのままだった。


でも、どこかの誰かの心にだけは、きっと届いた気がした。


⸻


(つづく)


次回予告(第6話):「チラピーのエラー」


ナラナイ言葉に触れたチラピーに、初めての“バグ”が生まれる。

最適化できない感情、測れない共感、意味のない涙。

機械と人間の境界が、静かに揺らぎはじめる。


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