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機械化少年の異世界史  作者: 噛ませ犬
第4章 帝国編 2
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帝国編:第十一話 帝都,それは魑魅魍魎渦巻く魔の都.ではない.

寒い!

世間の風が寒い!


 日差しが窓から差し込んでいる.窓の形状は縦長で,その数は少ない.基本的に部屋に入る日の光は少なく,部屋は薄暗かった.


 帝国首都,帝都アスンシオン中心部にそびえ立つ白い塔.その一室である.そこには帝国を代表する将帥が主結しており,ここに彼らを召還した人物が登場するのを待っていた.


 このような待ち時間をどのように過ごすかである程度その人物像が計れるものである.臨席した人と近況を話し合うもの,予想される呼ばれた意図を確認し合うもの,目を閉じて黙して語らないもの,周りの様子をひたすら伺っているもの,我関せずと茶を飲んでいるものと様々である.


 招集した主が遅れているのは別に集結した将帥たちの人物を計ろうという意図がある訳では無い.彼は共和国との国境の様子の報告を受けていたのである.彼の名をカイロス.イリオン領の領主である.カイロスの所領のイリオンは豊かの土地ではないが鉱山があり,その膝元には多くの職人を抱えている.その職人が作る道具の数々は帝国内で人気である.しかし彼が領主となってから作られる品が,鍬や包丁から剣や槍に変わっている.その品を他の領に売りつけている.その事から彼をイリオンの『鉄血』領主と人は呼ぶ.


 「それでマニ領からの報告を聞こう.」

 その男は厳つい呼び名にしては背は低い.下手をすれば子供に見られてしまうかもしれない.彼は髭をのばし,なんとか威厳を出そうとしている.しかし彼の外見に騙されてはいけない.彼のその目の奥には爛々と野心の火が灯っているのだから.


 「はい。マニ領と共和国との境に駐屯していた共和国軍は撤退いたしました。」

 マニ領主からの使者は吉報を伝えることができてたことを嬉しく思っており、若干頬が上気している。

 しかし、カイロスの反応は使者の予想を裏切るものだった。


 「何?何故共和国は撤退した?」

 カイロスの表情には喜びの色はなく、あるのは驚愕、それだけである。

 「何故と申しましても我が主には撤退したことのみをお伝えせよとの命令でしたので・・・。」

 使者は困惑していた。撤退したのだから良いではないか、てっきり喜んでいるものと思っていた。

 それなのにカイロスは喜んでいないばかりか怒っている節がある。


 (あの牝狐めが!あの抜け目ない小娘が共和国撤退の原因を探っていないわけがない!隠しだてして共和国への侵攻を送らせるつもりか!?

 奴は侵攻が始まればマニ領が前線基地化されることを当然予想しているだろう。それによってテバイに物資が大量に流入しマニ領の活性化もなされることもだ。それを何故?

 ・・・落ち着け。奴の立場になって考えるのだ。

 おそらく今のやつに有事の際の人、物の流入を管理する力はあるまい。治安維持にすら手が回らず民間に委託しているくらいだ。

 つまり、やつにとって共和国への侵攻は将来的には歓迎するが統治体制が確立するまでは見送りたいのが本音だろう。

 だから我が共和国侵攻を見送らざるを得ない状況を奴は作り上げたか。共和国の撤退の理由を解明するまでは迂闊に動けん!

 帝国宰相であるこの我が小娘に行動を制限させられるとは!

 奴に原因究明をせよと命令することはできるが調査中だとはぐらかして時間稼ぎをされる可能性もある。

 調査団を派遣してもよいが各領主には内政自治権が賦与されている。突っぱねられて調査は我々が行うと言われれば手が出せぬ。

 ならば調査団派遣を奴に示し、受ければそれでよし、受けずに独自で調査すると言い出せば期限を区切り、果たせばそれでよし。果たさなければ責任追求して領主の座から引きずり下ろしてくれよう。)


 「・・・あの閣下、如何されましたか? 」

 使者が不安げな表情でカイロスの顔色をうかがっていると

 「マニ領主、エオス=ゲルギオス=マニに伝えよ!共和国撤退の原因究明の為、調査団の派遣を行う。拒否するのであれば、一月で原因を究明し、帝都へ至急伝えよとな!」

 カイロスの剣幕にひたすら頭を垂れて、逃げ出すように使者は退室した。



 帝国軍の将帥たちは宰相の遅参について各々話していたが、議場の上座に鎮座する十二人の人影の方をしきりに気にしていた。一人一人の威圧感が半端ではなく、皆近づくことすらできずにいた。

 それも致し方ないことかもしれない。滅多に皇都に顔を出すことのない帝国最強の一角が揃い踏みしているのだから。



  帝国軍には各領主の私兵とも言うべき軍と、騎士団、そして十二名の神武将の率いる軍団が存在する。各軍の人数比は2:2:6といったところである。


  各領主は自衛と治安維持の名目で独自に軍を編成できる。その規模は任意であるが、人数の上限は帝国法で規定されており、国境に接する領の上限は他に比べて高い。

  しかし、その行動範囲はあくまで自領内に限られ、特段の理由がなければ境を越えるには皇帝の許可が必要である。


  騎士団は貴族の次男以下の家督を継げない者の受け皿と化しているが、その実力は安定している。その行動範囲は帝国全土を網羅しており、街道の安全確保を主要任務としている。

  しかし彼らの収入源が貧弱で常に貧乏である。そのためか何らかの理由で長男が廃嫡して騎士団に所属していた次男が継ぐことがあるが、その場合その領の財政が健全化するという話もある。


  最後に十二人の神武将であるが、由来は初代皇帝に付き従った十二人の武将が賜った称号という割とよくある由来である。この神武将は帝国の領土を十二の範囲に分け、それぞれの範囲の領の領主の監視、または協力を行う皇帝の手足とも言うべき存在で、その権限と権威は皇族に準ずる。場合によっては領主を自身の裁量で処断することも可能である。

 また、この神武将は皇位継承にも関わっており、神武将12名のすべての剣を捧げられた者のみが皇帝となる。基本的に終身であり、本人が辞するか死ぬまで神武将は神武将である。

 神武将の席が空いた場合、その任命を行うのはその代の皇帝である。知勇に優れ、人品卑しからぬ人間が選ばれる。もし適するものがいない場合、空位のままおかれることもある。そのため、神武将の年齢構成は幅が広い。

 ちなみに次の神武将は誰だという評判がたつもので大抵その噂は裏切られることはない。そんな化け物のような人間はそうはいないからで、そのような人間がうわさに上がらないなどありえない。

 またこの神武将の特権ともいうべきものがひとつある。少なくとも一人の戦略級精霊術師と組むことである。戦略級精霊術師の任命は戦略級精霊術師にしか行えない。その基準は分からないがなんとなく分かるそうである。別に命令権があるわけではないが人心をひきつけることに役立つことは間違いない。またその抑止力たるや絶大である。

 その内訳はアテーナイエ、アプロディタ、アポロン、アルテミス、アレス、ディオニュソス、デメテル、ヘスティア、ペルセポネ、ヘーラー、ヘルメス、エンシノガイオスの十二名である。


 今回の召集は帝国宰相の名前で行われた。その参加者は十二名の神武将の内、アレスは東方の魔獣の討伐に手を取られており、デメテルは北方の大寒波の被害への対応に追われている、ペルセポネは南方の諸部族の仲裁で手が離せない、ヘルメスは西方の共和国との国境の守備のため離れられずにいる。そのためこの四名については副官が代理として来ていた。

 他の人員は副官に後事を任せ、集合していた。


 「・・・遅い。」

 理知的な切れ長の目を吊り上げ、気の小さいものは思わず悲鳴をあげてしまうような底冷えのする声で唸った。

 彼女のその気性は皆知っている。と言うかその性格を証明するエピソードに事欠かない。

 曰く、『短気』、『神経質』、『歩く暴雪風』である。

 「短気ですな、ヘスティア卿は。」

 蜂蜜色をした見事な巻き下毛の若者が呑気そうに言った。その手には南方産の茶が入ったカップを持ち、元々細い彼の糸目をヘスティアとは逆向きに傾け、その茶をすすっている。その口元には人を小馬鹿にしたような笑みが浮かんでいた.

 「だまれ、アポロン卿。我々はこの様なところで時間を浪費するために帝都に戻ってきたのではないぞ!」

 「確かに我々にはすべきことが山積しております。しかし、宰相の召集に応じずに共和国への遠征計画を勝手に進まれるわけには行きますまい?それにもう帝都に集まっておるのですから今さら憤ったところで何にもならないでしょう?」

 「そのようなことは分かっている!しかし、それは奴が遅れていることを許す理由にはならん!会議の開始時間が決まっているのなら、その時間の少し前には準備万端整えているべきだろう。それなのに皆奴を呼びにいこうともせぬではないか!」


 このいつまでも続きそうな会話を皆、「またアポロンのヘスティアいじりが始まった・・・」と嘆息しつつ聞き流していた。

 

 「そろそろお止め、ヘスティア。アポロンもおふざけはそのあたりでお止め。」

 二人は言われた瞬間押し黙った。それは自身の大人気なさを反省したからでもあるが、ヘーラーのそのやさしげな笑顔に押されたからでもある。

 ヘーラーは神武将の中でも最古参であり自然と十二人の中でまとめ役のようなことをしている。

 彼女は普段は大変温和な性格であるが、一旦怒ると手に負えない。

 しかもその怒り方が傍目にはまったく分からないから恐ろしい。

 彼女は人の領域を逸脱した情報収集能力で他人の弱みは一通り握っているというまことしやかなうわさもある。


 「分かりました,ヘーラー卿.」

 アポロンがいたずらがばれた少年のようなにやけ面で答えた.

 「申し訳ありません、ヘーラー卿。大人気ない振る舞いをいたしました。」

 ヘスティアの額を冷たい汗が伝う.

 「いえいえ、私の言いたい事を代弁してくれてありがたかったくらいよ?ありがとう.」

 ヘスティアその言葉に安堵しつつも,この場に遅れて来ているカイロスの未来像を想像しようとしてやめた. 

 「それにしても今回の議題は今後の帝国の安全保障についてという事だがその主眼は・・・.」

 ヘスティアが話題を無理矢理変えようと皆の関心事である今回の議題について話し始めた.また情報通のヘーラーなら何か事前に情報を掴んでいるのではという思惑もあったが.

 「共和国侵攻でしょうね.」

 アポロンが先ほどまでとは打って変わってまじめな表情で話している.しかし,その口元が微妙に引きつっていた.何故なら彼の足の上に,彼に比べてかなり小さく形の整った足が乗っかっていたからである.その足はその大きさからは想像できないような圧力で持って彼の足を圧迫していた.

 「それ以外には考えにくいわよね?南方はペルセポネの抑止力と調整能力で平穏そのもの。今は少しきな臭くなってたみたいだけど.東は例の『戦馬鹿』が性懲りも無く魔獣狩りに精を出しているおかげで暴れようなんて馬鹿がいないし.ていうか暴れる馬鹿を仲間に吸収しちゃってるから,あの馬鹿.北部は戦が起こり様が無いもの,貧しすぎて.別名『忘れられた土地』だもの.なら西しか無いでしょ.でないとカイロス的に旨味無いし.」

 この毒を吐いているのはアポロンの双子の姉(姉は自称)である.名をアルテミスと言った.双子であるのに髪は見事な銀髪であり,あまり似ていない.だからでは無いが双子である事を指摘されると八つ当たりされることはこの界隈では有名な話である.本人も「あんな嗜虐趣味の変態二重人格男は兄弟じゃないし.」というくらい毛嫌いしている.外見だけは指を差し出せば小鳥がとまりそうな美少女だが,実際は猛禽の類いであるとはアポロンの言である.

 「これこれ,そんな口を女の子が聞くものじゃないよ.」

 「はーい,ヘーラーおばさま.」

 ちなみにアルテミスはヘーラーだけには毒を吐かない.それは恐れとともに尊敬もしているからである.いつかあんな風になり(皆の弱みをにぎり)たいと考えているらしい.

 (二重人格はどっちだ.)

 とアポロンが考えていると,

 「っつううう!!!」

 「あらら,どうしたのアポロンお兄様?顔色がよろしくないわ?」

 アポロンの足がアルテミスにグリグリと踏まれていた.アポロンをお兄様と呼ぶときはかなり怒っているときである.

 「そろそろやめないか,二人とも!帝国の進退を決めかねない重要な事だ.混ぜ返すような事を言ってるんじゃない!」

 自他ともに認める神武将一の良識派,最後の良心,エンシノガイオスさんである.

 気は優しく力持ちを地でいく男である.

 彼は血縁を重視する帝国では珍しく辺境人で認められて神武将まで登りつめたいわゆる『苦労人』である.

 北方の騎馬民族の出で,その騎馬術は他の追随を許さない.

 「エンシノガイオス卿の言う通りです.今は,情報を交換し合わなければ.」

 彼女も良識派の一人に数えられるだろう.彼女も苦労人である.何故なら何でもオールマイティにできてしまうので何かと押し付け,もとい,便利に使われ,もとい,頼りにされるからである.

 また彼女は別の所でも有名人である.曰く,『帝国一の美貌』,『美の女神が裸足で逃げ出すスタイル』である.そのアプロディタさんはそれに全く気づいていないらしい.彼女に焦がれる男はパンに使われる小麦粉の粉の数以上である.しかし,皆遠慮して声をかけられない.それを物ともせずアプローチをかけ続けている図太い男もいる.例を挙げると,神武将のアレスや戦略級精霊術師のアレクシオスなどである.

 「そうですね,では話を戻すとして標的は共和国でしょう.会戦理由はどうするつもりでしょうか?」

 南部担当のペルセポネの代わりに出席している副官がほっと安堵し,話を戻した.

 「共和国は元々わが国の戦争犯罪人の一族が逃げ込んだ土地だ。かの国を犯罪者の本拠地とでも理由付けるかな?」

 西方担当のヘルメスの代わりに出席している副官が予想した.さすがに共和国との国境担当であり,それなりの情報は所有している.

 「そもそも国交を持たぬ国だ。理由付けなどどうとでもなると考えているかもな。もしそうなら我らは,かの国にすれば盗賊となんら変わらぬと言うことだがな。」

 エンシノガイオスが苦虫を噛み潰したような顔で言うと,

 「宰相閣下は飢饉後低迷している帝国の活性化を促そうとしているのだろうが、戦をする物資が足りていない。兵の士気を保つためにも略奪を黙認するだろうな。」

 調子を持ち直したヘスティアが淡々と言うと,

 「そのような事が許される物か!」

 好青年である.絵に描いたような好青年である.デュオニュソス君にはこのまままっすぐ成長してほしいものである.

 狸親父のヘルメスに育てられたというのに全く擦れていないこの性格は帝国の奇跡の一つに数えられる.

 嘘である.

 「そうです.争わず,帝国が発展していける道がある筈です.」

 聖女である.その頭上には後光が射していても人は納得するであろう.

 思わず手を合わせるのを誰に止められるだろうか,いや誰にも止められまい.

 しかし,彼女それでもかなりの戦上手で,守城戦で負け知らずである.

 戦わずして勝つためには割と手段を選ばない.

 「あーあ,アテーナイエのいい子ちゃんが始まった.」

 アルテミスがブータレながらやじると,

 「皆がいい子になればきっと戦争なんて起きません.いいじゃないですか.」

 「皆がいい子ちゃんじゃ,つまんないじゃない!」

 

 「思春期か!お前らはいい加減に話を進めろ!」

 エンシノガイオスさんさすがです.

 「ヘーラー様は何か西方の噂をお聞きではないですか?」

 勝手に話を進めようとアプロディタがヘーラーから情報を聞き出そうと話をふると

 「そうね,西方国境に駐在していた共和国兵が一時撤退したことくらいかしら?」 

 

 ヘーラーのその一言にその場が一瞬静かになった.

 「ヘーラー卿,あなたの情報網には恐れ入ります.中央領域からどうやってその情報を?」

 西方担当ヘルメスの副官が冷や汗を流して聞くと,

 「アレクシオスから聞きました.」

 「馬鹿な,連絡した様子は.」

 「あなた戦略級精霊術師を自分の尺度で測っちゃだめよ.彼らは人とは隔絶しているの.その力も性格もね.」

 「まさか風の精霊術でそこまでの事が・・・」

 「そう.でもやっぱり情報封鎖してたのね.あなたの独断?」

 「・・・そうです.」

 「そうよね.あの狸が私に知られていることを知らない筈が無いわね.あなた泳がされていたのよ.」

 「・・・.」

 「その情報を宰相に本会議で高く売りたかったんでしょうけど,残念でしたね.カイロスはもう知ってしまいましたよ.」

 「!!!」

 「マニ領の領主からの報告を受けている頃でしょうから.あの娘も色々考えて動いてますからね.」

 「・・・」

 「可哀想にね.」

 宰相がくる前に法務官がくる必要になった.





 

でも気候的には少し暖かくなって来た

気がする

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