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第十話 救世主の存在意義とは

「異世界人を招く扉……それを、世界が危機的状況に陥っているタイミングで使うことにした……ってことはつまり、異世界人はこの世界にとっての救世主になってくれるってことよね?」


 などと俺が首をかしげる中、金髪少女もまたピンク髪少女によるこれまでの説明から、異世界人がこの世界における救世主になり得るという可能性に気付いたようで、確認するようなニュアンスでピンク髪少女にそう尋ねていた。


 しかし、俺がその招集理由に疑問を覚えているのに対して、彼女は"救世主"という単語に何かピンとくるものがあったらしい。どことなく納得顔を浮かべているように見えた。


 ……救世主が呼ばれた理由に思い至ったのかもな。よく考えたら、彼女たちはこの世界の住人だ……そりゃ、世界の危機とやらが何なのかくらい知っていたって何らおかしいことではないか。


 だが……何でだろう? 何かに思い至ったと同時、彼女はほんのりと頬を紅に染めてしまっていた。しかも、チラチラとこちらに視線を送ってきている……。どことなく、先ほど発情してしまったときの様子に似ているような……気のせいか? うむ……、少しばかり気になるな。


 そんな、少しおかしな様子の金髪少女からの確認の言葉に、ピンク髪少女はあっけらかんとした様子で肯定の意思を見せた。


「そうなるわね。……もしかして、ラフィは何か気付いた?」


「か、確証はないけど……多分」


 それどころか、今見せている金髪少女の反応も理解できる……とでもいうかのように、ピンク髪少女は小さな苦笑を浮かべていた。そんな彼女の頬も、金髪少女につられてか少し紅い。それに……やはり彼女も、ちらりと俺に目配せをしてきていた。


 俺の推測が正しければ、二人の話している内容は救世主が呼ばれた理由で間違いないだろう。……となると、二人が思わず顔を赤らめるような理由で救世主が招集されたっていうのか?


 ますます分からない……。彼女たちが頬を染めるような世界の危機って、一体何なのだろう……? それに、その打破のために異世界から救世主……つまりは俺を呼び出したのだろうが、そんな危機を切り抜けられるような力が俺……というか異世界人にはあるとでも?


 ……もう少し考える時間が必要そうだな、俺には。というか、いっそのこと答えを教えてもらった方が早いような気もするな。


「アーナはどう? 何か分かったかしら?」


「うーん……、救世主かぁ……。救世主……って、この人のことなんだよね?」


 金髪少女とは対照的に未だ頭を抱えている銀髪少女。そんな彼女に、ピンク髪少女から声がかかる。


 だが、彼女は力なく項垂れるだけで、ピンク髪少女からの問いかけに頷くことはなかった。……かと思ったら、ここにきて俺の存在について確認するように、俺へ視線を向けながら、この輪に対してそう尋ねてきた。


「そうね、そうなると思うわ。不具合はあったみたいだけど、あたしたちの前に現れたタイミングとか、持っている常識の違いとか……そういう根拠もあるわけだし、間違いないと思って良いはずよ」


 それに対し、瞬時に首肯を返すピンク髪少女。


 しかし……不具合? それって、一体どういうことなのだろうか……。


「不具合? 何かあったの?」


 金髪少女も同じ部分に引っ掛かりを覚えていたようで、俺が問いを口にするより早くそうピンク髪少女に問いかけていた。


「あたしね、今朝にも教会に顔を出してきたんだけど、行ったらね……昨晩とは別種の騒ぎになってたのよ。神父様曰く、呼び出しに失敗したって」


 失敗……? どういう意味だ? 少なくとも、俺はちゃんと……って言い方は変だが、この世界に連れてこられたわけだし……その時点で成功なのではなかろうか?


「で、でも、そしたらわたしたちの前にいるこの人は……」


「そうよね。この方が現れたってことは、失敗ってことには……。それに、異界の扉は反応していたわけでしょう? そこから失敗に至るなんてこと……あるのかしら」


「ええ、そうね。過去の事例を見ても、異界の扉が反応を示したうえで失敗するケースはなかったらしいわ。……でも、普通異世界から招かれた人は扉の前に現れるらしいのよ」


 俺と同じことを考える金髪少女・銀髪少女からの疑問に、ピンク髪少女はその気持ちも分からなくはないというように頷きながらも、淡々と今朝教会で聞いた内容を俺たちに語り聞かせてくれる。


 そんな彼女が口にした"異世界から招かれた人は扉の前に現れる"という言葉を聞いた瞬間、俺は教会関係者が今回の招集が失敗に終わったと誤認したその理由について何となく察することができた。


「……自分が異界の扉の前にいなかったから、失敗したと誤解されてしまったわけですね。確かに、目覚めた時にはこの森の中にいましたから。その様子だと、寝ている間に誰かに連れてこられたというわけでもなさそうですし」


「うん、少なくとも神父様は扉の反応が消えるまでずっと見張っていたらしいから、誰かがあなたを持ち出すことは不可能だったと思う。だから、不具合でしょうね……、訳までは分からないけど」


 結果的に助かりはしたものの、獰猛な野獣が闊歩するような森の中に放り込まれてしまうとは……不具合とは恐ろしいものだ。


 そういえば、今の話で思い出したが、俺の身体が頑強になっていた理由についてもまだ分かっていなかったな。


 異世界に連れてこられたという、これ以上ないほどの超常現象を肌で体験してしまったわけだし、これについてももしかしたらぶっ飛んだ理由があったりするかもしれない。


 それこそ、突然別の世界にやってきてしまったことによる副作用で、簡単に傷の付かない身体に変わってしまった……とかな。


 ……っとと、話が脱線してしまった。というわけで俺は、再度ピンク髪少女の話に耳を傾け直す。


「実はあたし、最初は扉の反応を見ても半信半疑だったのよ。なんせ、昨晩初めて異世界の存在を聞かされたわけだからね。だから、今朝失敗したことを伝えられた時も、何かの偶然で扉が光っただけで、異世界から人が呼び出されるなんていうのはただの作り話だったんじゃ……って考えてたのよ」


「あっ、そういえばさっきも言ってたね、半信半疑だった……って。でも確か、その後二"さっきまでは"とも言ってたよね?」


「覚えていたのね。ええ、そうよ。彼の存在を知ってようやく、あたしも異世界があるって信じられたのよ。いろいろ偉そうにみんなに語ってるけど、実際あたしも現実を受け入れたタイミング的にはみんなとそう変わらないのよね」


 銀髪少女からの指摘に、ぺろりと舌を出しながらそう白状するピンク髪少女。でも、彼女のおかげで多少は状況把握を行うこともできたわけだし、そんな些細なことで小言を言うつもりもない。むしろ、感謝したいくらいである。


「とまぁ、そういうわけで……教会側は失敗って思っているようだけど、不具合で正常な場所に呼び出すことができなかったってだけで、実際にはちゃんと成功はしていたってわけね。……あなたからしたら堪ったものじゃないかもしれないけど」


「いえ、そんなことは……」


 と思ったら一遍、今度は申し訳なさそうにこちらへ目配せをしてきたピンク髪少女。だが、そんな顔をされても困ってしまう。別に、迷惑だとかそういうことは……って、あれ?


 そういえば俺、異世界なんていう摩訶不思議な場所に連れてこられたというのに、それを迷惑に思っていないな……。それに、さっきまでは帰らないとなどと考えていたはずなのに、今は不思議とそんな衝動も湧いてこない。


 別に帰れないと決まったわけでもないのだし、決して諦めたというわけでもないだろうに……謎だ。謎だが……考えても答えは出てこなさそうだし、今は保留にしておくとしよう。


「そう言ってくれるとありがたいわ。……んで、話を戻すけど……アーナ、答えは見つかったかしら?」


「ううん……ごめん、分からないや。やっぱりわたし、考えるのは苦手だなぁ」


「ふふっ、そういえばそうだったわね」


 とりあえず、俺の心情の変化に対する考察は一旦切り捨て、目の前の話に意識を戻す。ピンク髪少女も、俺の反応に多少は気を楽にしてくれたようで、少し頬を綻ばせながら銀髪少女とのやり取りに戻っていた。


 けれど、結局銀髪少女は救世主が呼ばれた理由に心当たりを見つけられなかったようで、困ったような笑みを浮かべながらピンク髪少女に答えを求めていた。


「ちなみに、アーナが気になっていたのは何?」


「えっと、この人がこの世界に呼ばれた理由……かな。世界の危機っていうくらいだから、人口問題か魔獣の活性化のどっちかかなぁとは思ってたんだけど……」


 ……人口問題? それに……魔獣の活性化? なんか、また気になる単語が聞こえてきたな……。


 尋ねたい気持ちもあるが……しかし今は彼女たちが話をしているからな、割り込むわけにはいかない。


「多分、前者だと思うわ、今回の一件については」


「人口問題? でも、それでどうしてこの人を……あっ」


 ひとまず黙って彼女たちの会話に耳を傾けていた俺。……ふむ、人口問題か。となると、爆発か減少か……。


 いやしかし……どちらにせよ、俺が呼ばれた理由がよく分からないな。たかだか人一人が人口問題に介入して解決できるとも思えない。


 だが、銀髪少女は何か分かったらしい。……これで、今分かっていないのは俺だけになってしまったわけだ。


「分かったみたいね」


「う、うん……何となく。……ってことはだよ、わたしたちもいずれはこの人と……ってことになるのかな?」


 一人だけ置いてけぼりを食らってしまったな……などと考えていると、不意に妙な熱視線がこちらへ飛んできた。……銀髪少女のものである。


 彼女もだ……、彼女もまた先ほどの発情時のそれに近い雰囲気を纏い、顔を仄かに赤らめている。


 しかも、そんな彼女の視線に同調するように、再び金髪少女からも似たような視線を向けられてしまう。


「こらこら、落ち着きなさい。そうなるかどうかはお国次第なんだし、変な期待を持たないの。……っとと、このままじゃあなただけ置いてけぼりね」


 しかし、そんな怪しげな雰囲気を纏い始めた両サイドの少女二人を、ピンク髪少女は冷静に手で制した。それから、苦笑がちにこちらへ向き直り、すっと居住まいを正した。


 頭の中の疑問符は減らないが、彼女に倣い俺も静かに背筋を伸ばす。きっと、今から真相が話されるのだろう。


「じゃあ……、流れで後回しになっちゃったけど、そろそろ説明するわね。この世界のこと……それから、あたしたちが今置かれている危機について」


 そう前置きをし、ピンク髪少女は一呼吸置いてから再度その口を開いた。


「この世界は今、深刻な人工減少の危機に瀕しているの」


「人口減少……ですか」


 なるほど、人口減少の方だったか。ただ……それだけ聞いても、やはり俺がここに呼ばれた理由までは思い浮かばない。


 そもそも、人口減少の原因が分からないと、俺が何を求められているのかの当たりすらつけられない。


 まぁ、きっとそこら辺についても彼女の方から説明はしてくれるのだろう。とりあえず、黙って彼女の話の続きを聞くことにしよう。


「そう。というのも……数百年くらい前のことらしいわ、この世界には人族と魔人族の二種族が存在していたみたいなんだけど、その二種族はいがみ合っていて……」


「人族と魔人族……?」


 ……そのフレーズには聞き覚えがあった。その心当たりに関しても、はっきりと思い出せる。


 そう、昨晩バイト先の候補を絞り出している最中に見つけたあのゲームサイトだ。あそこに書いてあったあらすじ……その中に、今彼女が話した内容と全く同じ文言があったはずだ。


 となると……次に彼女から発せられるのは……、


「ある時、世界全体を巻き込んだ人魔戦争が起こったの」


 やはりか……。ある程度予想はしていたが、いざ実際に予想通りの言葉が発せられると、それはそれで少し戸惑ってしまう。


 だが、何となく理解はできた。この世界が今、どのような危機を迎えているのか……そして、俺に何を求めてきているのかも……。


「んで、一応人族は勝ち、魔人族の壊滅に成功したようなのだけど……その時にね、魔人族からある呪いがかけられてしまったのよ……」


「それが、人口減少の呪い……ってことですか」


「はい。正確には、今後生まれてくる子供の男女比を変え、極端に男性が生まれづらくなってしまうという呪いです」


 俺の呟きに、金髪少女がそう答えてくれる。もちろん、男性数の減少というところまで予想はついていたが、ここにきて急に知ったような口を聞くのもおかしな話なので、何も知らない状態を装うことにしたわけだ。


 ……とまぁ、ここまで言われれば幾ら鈍感であろうと気付くだろう。人魔戦争……男性数減少の呪い……これらすべてがあのサイトのあらすじと合致している……ともなれば、考えることはただ一つ……。


 つまり、この世界は求人広告に紛れ込んでいたゲームの世界そのもの……ということなのだろう。思い返せば、"救世主となって今より華やかな人生を"なんていう宣伝文句も掲げられていたな……先ほどまでの会話の中にも、ゲームの内容と繋がる伏線は幾つも鏤められていたわけか、なるほどなぁ……。


 なんて呑気に考えている俺だが、先ほどのように"そんなことあるわけがない"なんていう否定的な思いはどこにもなかった。あれだな、異世界に飛ばされるなんていう超次元的現象を一度体感してしまうと、それ以降何を体験しても簡単に受容できてしまうようだ。


 しかし……そうか、俺があのゲームの世界に……ねぇ。あれだけくだらないと言っておきながら、まさか自分自身が入り込んでしまうとは……。


 というか……待てよ? ゲームの世界と決めつけてはいるが、俺が実際にこうして異世界の空気感を現実のものとして体感しているということはだ、その時点で既にゲームの枠組みを超えてしまっているのでは?


 ゲームとは、即ち創作物だ。だが……、この世界はあまりにリアルすぎる。昨今ではVRという技術も盛んに用いられつつあるみたいだが、灰狼との一件で受けた痛み……たかだかゲームであれほどまでの苦痛をプレイヤーに与えさせるものだろうか?


 今の日本が、そんな危険な技術を一般に公開するのをそう簡単に許諾するとも思えない。たとえ年齢制限をかけたとしてもだ。


 そう考えると……昨晩見つけたあの広告は、初めからゲームの宣伝をしていたわけではなかったのではなかろうか? それこそ、"救世主求む"というこちらの世界の人々の願いが異界の扉越しに俺の世界へ伝わったことで生じたある種の"求人広告"だったのでは……?


 ふむ……それならばいろいろと納得もいくな。そりゃ、求人情報で検索していたはずなのに、急にゲーム広告なんて表示されたりしないわな。今時のネット検索システムは優秀だし。


 そうか……ということは、異世界への招集に俺が選ばれたのも、あの時サイトを開いたのが俺だったから……ってことなのだろう。


 本当、数奇な巡り合わせだったんだな……。バイトを探していたら、異世界で救世主として働くことになりました……ってか?


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