柔和
「おじいさま、ただいま!」
「おぉ、ユエルか、ファウルスさんには会えたか。」
「えぇ、あちらに。」
入り口でたたずむ、俺たちを中に案内した。
「よかった、よかった。今日はここで休んでいくとよい。お主の村の者もそれぞれ別の家で休んでおる。自分の家じゃと思って、くつろいでくだされ。ユエルや、晩御飯の支度を手伝ってくれ。」
「ありがとな、じゃあお言葉に甘えて休ませてもらうよ。」
「ありがとう、ジール村長。私も手伝うね。ユエル、何か手伝えることない?」
「そうですわね、でしたら……。」
二人は台所で何か話をしながら料理を作っている。俺は、あぐらをかきながら、剣の手入れをしていた。
「ところで、ファウルスさんの持っているその剣は神器ではないのかのぉ?」
「正直、わからないんだ。みんな不思議な形だから神器かも、って言うんだけどな。親父がくれた剣だし、わざわざ神器を預けるかって考えると違う気もするんだよな。」
「ふむ、どれ、少し触れてもよいかの?」
「あ、あぁ。いいよ。」
ジールは剣に触れると目を閉じた。しばらくして目を開ける。
「ふむ、どうやら神器のようじゃが、お主の物ではなさそうじゃ。」
「わかるのか?」
「なんとなくじゃがの。あの筆リルアートもわしが若い頃に不思議な気を感じて古物商から買ったものじゃ。能力まではわからんが、その剣も同じような気を感じるぞい。」
「そうか、じゃあ適合者が見つかるまでは俺が大事にしないとな。」
「ごはんできたよー!みんなで一緒に食べよ!」
エディナはテーブルに野菜のたっぷり入った鍋を置き、ユエルが配膳をする。
「ファウルスも何か手伝いなよ。ずっとだべってないでさ。」
「わかったわかった。で、何すればいいんだよ。」
「もう終わったから片付けはファウルス一人でお願いね。」
「なんで、俺一人なんだよ!」
「ふふ、痴話喧嘩なんてとっても仲がよろしいのですね。」
『えっ?』
「エディナからエルナ村では14歳は立派な大人だと聞きましたわ。お二人もそういう関係じゃありませんこと?」
『なんで、こいつと。どう見たら、そういう関係に見えんだよ。』
「あらあら。」
エディナと顔を見合わせる。
『お前、真似すんじゃねぇよ……。』
『わざとやってるだろ。』
ユエルとジールは手をたたいて、こちらを見ている。
「いや、見世物じゃ……、あれ?」
「あはは、ねっ。ファウルスの言うこと当てるの上手いでしょ!」
「ええ、ごめんなさいね。お料理しているときに打ち合わせしてたんですの。でも本当にびっくりしましたわ。」
「はめられたわけだな。わかったわかった、片付けはしてやるよ。早く食おうぜ。」
みんなが揃って手を合わせる。
『いただきます。』
野菜は甘く、柔らかく煮込まれていておいしかった。スープは澄んでいるがコクがあり、野菜の甘みを引き立たせていた。少量だが肉も入っている。
「美味いな。これ何で味付けしてるんだ?」
「ふふ、岩塩を使ってますのよ。それから、それから魚介類からも出汁をとってますの。」
「へぇー、参考になるな。でも海から遠いのにどうやって調達するんだ?」
「たまに行商人さんが持ってきてくれますのよ。干物ですと長持ちいたしますし。」
感心しながら、箸を進める。食べ終わり、片付けも終えるとユエルと村長は寝支度を整え、それぞれの部屋へ入っていった。俺たちも寝る準備ができると居間に敷かれた布団に飛び込んだ。隣の布団ではすでにエディナが横になっていた。
「おい、寝てんのか?」
「ううん、起きてるよ。何?」
「いや、別に用はないんだけどさ。明日、どうする?」
「私は残るよ。ユエルに神器の使い方もっと教えてもらいたいし。……ファウルスは早くヨシュアに戻りたい?」
「……あぁ。そう考えてたんだけどな。でも、カイナの言葉を思い出してな。そんな焦らなくてもいいのかなって。それに、ここでも修行くらいできるしな。」
「そう?別に戻ってもいいんだよ。」
「まぁ、明日考えるよ。おやすみ。」
「おやすみ。」
静かに夜は更けていった。