第6話 相棒と決意
「へー……こいつらってそんな関係だったのか!」
さっそくパッカーの修理を行っていたカルラは、ティラの話を聞いて声を弾ませた。
修理はまず、一番致命的な膝から始められている。壁に上半身を預けているパッカーの姿が痛ましく思え、ティラはしっかりと見ることができなかった。修理にあたり、機能をすべて落としているのもあるのだろう。
傍らで話を聞いていたエルメリアは、しばらく黙考し、やがて心配そうにティラの顔を覗き込んだ。
「【01】……《バルログ》は、まだ生きているってことなのよね……?」
「あの口ぶりじゃそうみたいね」
「“魂”は“欲望”だった、か……。
言われてみると確かにそうだよね。食欲・性欲・睡眠欲は三大欲求と呼ばれているけど、無ければ生命の繋がりが途絶えてしまうし、そのために生きているって言っても過言ではないかも……」
それにエクレアは腕を組み、何度か頭を上下させた。
「パッカーには、意図的に“意思”を持たせなかった。
繰り手がいなければゴーレムと戦えないようにした、と判断も正しいですわね。
第二の《バルログ》になられでもしたら、魔法石がなくとも生きながらえられる“捕食”のシステムが驚異となりますもの」
ティラは顎に手をやりながら、「そうね」と、力なく返事をした。
もしそうなった場合は、【03】――《ゲートキーパー》がどちらも破壊せねばならず、ティラ自身も非情な選択を取らねばならないのだ。
「《ゲートキーパー》を動かすためのコア代わり……が、あの“ブルブル”の開発とはね。
魔法石の供給遮断なんて、私たちをワルモノにしつつ上手く隠れ蓑にしてくれたわ」
「いやー、“ブルブル”はガチで魔法石の供給停止されそうでなー。
それに、《ゲートキーパー》を動かすためのコアはちゃんとあるぞ?
危ないから常時使用できないだけで」
「危ない?」
危険なほど血肉沸き立つドワーフが? とティラは片眉をあげた。
「長時間稼働と一撃粉砕のパワー、を求めてたらしくてなー。
安全性度外視で開発してたら、スッ転んだら大爆発するようなの作っちまったらしい!」
「ドワーフって、何でいつも振り切ったもの作るの……」
「あっはっは! アタシらにとって、“限界”って言葉はハイジャンプで超えるものだからなー。
爆発するなら基準を下げて爆発しないものを、同時に爆発しない技術を。
それで当時の限界をスタンダードに変えて、次を目指すんだ。これが実に楽しい!」
「まぁ、その結果が我々の暮らしを支えておりますので、文句は言えませんが……」
エクレアは深いため息を吐いた。
エルフの里でも広く普及している透明なガラス板やグラス、時計などはこのドワーフがすべて生み出してきた。しかし、そこから輸入した物は少ない。直接技術を請うことなぞプライド許さないため、間に人間を挟み『人間の技術』としてエルフの里に導入したのである。
仲立ちをしている人間がいなければ、あと二百年は邸宅から明るい光が漏れ出なかっただろう、と考えていた。
するとカルラは「金属がなー……」と珍しく弱気な発言をした。
「金属が、どうしたの?」
「うーん……あの《ゲートキーパー》のコアなんだけど、耐えうる金属がないんだよなぁ……。
ミスリルで覆って常に冷却してりゃまだ持つんだが、あれでも馬鹿みたいに魔法石使うしさ」
「そう言えば、パッカーのパッケージも『長時間耐えられない』って言ってたわね」
「おお、あのキャプチャーシステムか!
……って、あれも限界点に達する前に使用止めてるのか?」
ティラは「いいえ」と、頭を振った。
「私がコーティングしてるのよ」
「コーティングぅ?」
ティラは自身の“手順”を説明し始めた。
本来のコーティングは手でなぞるようにして施すものだが、パッカーの魔法吸収のシステムを利用し、必要箇所に“飛ばし”ているのだと言う。
それを聞いたカルラは、突然目から鱗が落ちたかのように膝を大きく打った。
「そうか! 耐えられるように被膜で覆えばいいのか!
熱なら<火鼠の皮>か? いや、<ウンディーネの体液>で熱の上昇を抑える方が……。
でもあれを捕らえるには……」
「あ、あはは……ラクアに帰ったら、気をつけるよう言っておかなきゃ……」
エルメリアが乾いた笑みを浮かべるのを見ながら、ティラはこれまでのことを思い返していた。
目的はここドワーフの国にやって来ることだ。しかしそれも、あと数日でその目的を終える。(尤も、正面でむっちりとした腕を組み、胸を持ち上げている派手な女・エクレアが、心配性の親友・エルメリアと騒動を起こしたことが旅の始まりであるが――)
しかし……と、ティラはパッカーの黒い面を下から覗き上げた。
(アンタの目的は、まだ終わってないのよね)
その時が来るまで眠っていたのだろう、とドワーフの王・ラマザンの言葉を思い出す。
偶然は必要な時に生まれるもの。整備にあたっているカルラの言う通り、パッカーの“能力”に耐えうる金属がない。今も昔もそれは変わっていない。
ティラはパッカーの胸部を撫でた。
――今は耐える“術”がある
だからパッカーはこうして活動できている。
ティラは小さく頷くと、パンッと相棒の胸を叩いた。
突然の乾いた金属音に、周囲の者は少し驚いた目を彼女に向けた。
「パッカー。アンタの目的も果たすわよッ!
そのために、私はタルタニアに帰って“操作術”を学ばなきゃならない――だから、もうしばらく、このエルフの下手くそな操作に付き合ってちょうだい!」
ティラが叩いたのに反応したのか、パッカーの頭部が急に動き出した。
<スプーン カラ ドラゴン マデ 、 ナンデモ パックイタシマス>
ティラはそれに小さく微笑み、頷いた。
「『任せておけ』ってことね」
「あっはっは! なら、メカニックも近くにいなきゃならんなー!
エルフの里……美味い食い物がありゃいいんだが、な?」
「な、何ゆえ私を見るんですの!?
ですが、ティラさんがその覚悟でしたら、わ、私も先輩としてフォローしてさしあげますわ!」
「うん! 私も! 寮は前と一緒がいいんだけど……帰ったら先生にお願いしてみよっと!」
「私は、アンタの心配性が治ってくれることをお願いしたいわ……」
うっ、とたじろぐエルメリアの姿に、皆は大きく口を開けて笑い合った。
パッカーもその様子に、わずかにクローアームを広げたりしていたが、それに気づいたのは遠眼鏡で見ていた者――ラマザンだけであった。
『兄は幸せそうだ』
その背後に居たゴーレム・《ゲートキーパー》はそう発し、ラマザンは笑みだけを浮かべた。




