表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/28

人魚⑤

 翔はいつものように部屋の奥、窓の下に座って壁にもたれかかって、3人を見ている。足はだらりと投げ出しているのに、腕は固く組んでいた。


「大体な。フリュー、お前何しに来たんだよ?」


「えっと、あ、貴方と子供を…」


「俺は自殺の手伝いなんか御免なんだよ」




 言葉に詰まったのは誰だろか。フリューは顔を強張らせ、リュミエールは驚きに目を見開かせた。


「流石にね、私達そこまで察しが悪くないんだよ?」


 佳子は悲しい顔をした。何時だって佳子は、誰かが間違った道を選ぼうとしている時、そんな顔をした。


「吸血鬼の前に立つのは死神の前に立つより死に近いからね。強い子供を産みたい、よりよっぽど納得出来る理由だもん」


「俺が本気で頭掴んでも抵抗がなかったしな。やめてぇ、なんて一応は言ってたけど」


「ルゥには私という『保護者』がいる。子をなせれば良し、死んでも良し…だろうね」


「王女なんて言っちゃいるが、その『死にかけ』を見るに、王族の証は刺青とやらだけなんだろ?というか、だ。お前人魚という感じじゃない。歪に色々混じってる」


 リュミエールは『珊瑚の朱い髪』『淡く7色の光を放つ肌』『豊かな海の香り』だ。一方フリューは『海と同じ色の髪』『真珠色の肌』『死んだ魚の臭い』だ。言ってしまえばリュミエールの劣化版。むしろ普通の人魚にも劣ると言えた。


 それなのに。翔の怪力に対応し、立派な足を持ち、中世の礼を取ってみせた。常識はなくとも教養はある。


「私も不思議だった。初めは人魚の肉を食べた人間かと思ったんだけど、人魚の特徴はあるしね。王家の刺青は王の直系にしかつけないから、例え養子になろうと刺青までは入れないし。そこで考えたのは、フリューは人魚と人間のハーフ」


 そして、と佳子は悲しい顔をして言った。


「王と八百比丘尼を食べた」





 普段、どんなに残虐な話を聞いてもむしろ楽しそうにする翔だが、眉を寄せて嫌悪を露わにした。

 それは、親を食べたという事。


「何があったかまではわからないけど、死に直面したんだろうね。人魚の王の肉は強力な不老長寿を。八百比丘尼の肉は成長出来ない呪いを与える」


「…八百比丘尼って言うのは何なの?成長出来ないのは不老に含まれるんじゃねぇの?」


「八百比丘尼は人魚の肉を食べた人間でね、その肉を食べると精神が成長しなくなるの。不老は見た目老けないだけで、中身は成長出来る。でも、本当は厄介なその成長しない呪いで助かる病気がある」


「フリューは、三十代前の王の子なのです。王は人間である王妃とフリューを愛していました」


「何があったかに興味はねぇよ」


 リュミエールが話を補足しようとしたが翔は切り捨てた。その不機嫌な様子は並の者なら怯んだだろうがリュミエールはしっかりと怒れる吸血鬼を見つめて言った。


「私達は今でもフリューを愛しています」


 人魚という種族からの言葉だった。





「なんでっ…なんでなんですか?私にそんな価値なんて無いのに!海でも陸でも不格好にしか生きられない!何をやっても上手く出来ない!どんなに悩んでもすぐに忘れてしまう!こんな私になんの価値が…」


「誰かを好きになるのに価値なんて必要ない」


「誰かに愛されるのに価値なんて必要ない」


「必要なのは覚悟だけ」


 翔と佳子は詠うように揃って言った。二人はずっと、もうずっと前に覚悟を決め誓い合ったのだ。そんな二人の愛は、どこにでもある誰のものとも変わらない。


 フリューは泣いた。ああ、きっと私はまた何か同じように失敗したのだ、と。何度失敗しても繰り返す。それが嫌だと思い、また失敗したのだろう、と。










「とりあえず、これで海でも何とかなるよ」


「流石、仙女さまですね。力がなくともここまで治せるなんて」


 佳子は苦笑するしかない。下半身は裂けたままだし、尾ヒレは人口の水掻きを着けただけだ。血はにじまないが、全ての鱗が復活した訳じゃない。


「つうか、二又になった両方にちゃんと骨があるのな」


「人魚は人間に近いからね。元から二股の人魚もいるくらいだし」


 佳子は治療に使ったガーゼやタオル、古い包帯なんかを台所で焼いていた。


「だから、血の匂いが辛かったでしょ?リュミエールに近づいてなかったもんね」


 翔はまあね、と言った。人間の血に近いなら、吸血鬼には美味しそうに感じるだろう。佳子が折角治療しているのに、翔が理性を無くして襲う訳にはいかない。


「そんな風に見てたんですか!ヤラシイですね!」


「おう、フリュー、復活したのかさようなら」


「ちゃんと泣き止んだんですから殺そうとしないで下さい!」



 フリューは泣いて泣き叫んで翔に怒られ、落ち着いてからリュミエールと話しをした。

 何度失敗してもフリューは成長出来ない。だからその度に人魚達は、こうして命を使ってでも伝えるのだろう。フリューは愛されて良いのだと。


 最初は義務感なのだという。大昔の王がした人間と子を作るという罪、病だからと寿命を弄び呪いを施した罪。それを、償うという義務感。でもフリューといると自然と好きになってしまうのだとリュミエールは言った。容易く命を投げ出せる程に、皆が愛するのだと。だから、いつまでもフリューは王女で居る。



「暫くはリハビリがいるね。国に帰るのは最低でも一ヶ月はかかるよ。そこから自由に動きまわるのに三ヶ月、違和感が無くなるのにはいつになるかわからないからね?」


「…………待て。まてまて!まさかその間ここで飼う気じゃないだろうな?」


「…だめ?」


「無理だ!そんな可愛いく言っても無理だ!」


「飼うって言わないで下さい!ペットじゃないんですから!」


「ペットのがマシだろ!猫飼ってやろうかコノヤロウ!」


「私は犬がいいな〜」


「佳子さん!?そうじゃないです!」



 リュミエールはクスクスと忍んで笑った。やはりフリューは皆に好かれる。リュミエールはとても誇らしく思った。


「ルゥ。大変です。そんな事より重要な案件があります」


「あ?」


「只今、5時48分です」



 時報のように佳子が言って、フリューがそんな事よりなんてヒドイですと言って、リュミエールはもう隠そうともせず笑って。翔は、


「くっそ面倒くせぇ」


 本心を漏らした。


翔さんは本堂のお義父さんに怒られに行かないといけませんが、人魚の話はこれにておしまい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ