第三話(第二十八話)
アルの屋敷の居残り組はナルザを中心に、ひとまず二、三人ごとに固まって安全性の高い家の屋敷に泊まることで話を進めていた。できるだけ一人でいる時間を減らし、十四番に対する備えとする。
そしてナルザは敢えて口にはしなかったが、これは互いを監視するためでもあった。きっと他の何人かもその意味は分かっていただろうが口にはしなかった。それぞれが監視し合うことができれば、もしこの中に十四番が紛れていたとしても動きを封じることができる。いなかったとしたら、次に現れたときに「あれはやはり十四人目だ」ということで、身内で変に疑い合う余地を減らせる。
各家の人間とも連絡を取り合いつつ、大体の組分けは決まった。
まずカルナの家にセラ。いつものパターンだ。今いる面々だと他には誰も行きたがらないし、それはエル家訪問組が帰ってきても変わらないだろう。こちらとしても彼女らは二人だけのほうがバランスがとれて良い気がする。
あとは……まずラスタの家。始祖八家の一角であるウォル家であり、彼女の母はとても変わり者だが非常に秀でた術者だ。異名をも持つ彼女がいる以上、安全性は高い家だろう。そこにまずはライラは確定だ。二人共この場にいないが、おそらく反対するまい。
そして三家目はナルザ自身のウェル家の別邸。ウェル家も始祖八家の一角であり、守りは強いほうだ。――そのはずだったのだがあの様で、今は近くの別邸で暮らしている。一度放火の被害にあったことで、守りはより固くしてある。とりあえずイマリは最初から来る気満々だった。できればエリンもうちで預かりたい。彼女に直接そう言うとコクリと頷いて了承したが、相変わらず表情は変わらなかった。
あとはアズミとカナミはどうするか。アズミはカナミが決めたあとに最後に決めると言っている。そしてカナミがどこにいくかが……わからない。どちらかがカルナの家にいってくれれば数としてはちょうどいいのだが……。
どちらにしろ、あとはエル家に出掛けている三人が戻るのを待つことにした。昼過ぎには帰ってくるだろう。急げば昼餉までに帰れなくもないだろうが、おそらく正午を少し過ぎて帰路中に誰かの家でお昼を頂いてからこちらに戻ってくる、といったところだろう。なんとなくお昼をエル家に厄介になってくる気はしなかった。
(さて、やるべきことは決めた)
各家、付き添いに泊まり込んでいた大人たちのうち、それぞれの家に最低一人は事の次第を伝えに帰っていった。後でまた迎えに来て、泊まり先まで同行する予定だ。過剰かもしれないが、十四番の実力が未知数である以上しょうがない。どれだけ警戒しても足りない程だ。
そろそろ昼餉にしようかと面々が集まりだした頃、なにやら外が騒がしくなった。
「……またなんかあったのか?」
カルナはぎろりと玄関のある方向を睨んだ。そしてあまり間をおかず、バタバタと大きな足音をたてて一人の女性が飛び込んできた。
(あれは……ラスタの家の側妻だったか)
「エルの……エルの屋敷で……ライラが襲われました」
息も切れ切れに、彼女は必至に、絞り出すような声でそう伝え、そのまま蒼い顔をしてばたりと床に倒れ込んだ。
慌ててセラがその介抱を行う。大人たちの声が飛び交う。
――私のせいだ。
迂闊だった。もっと警戒すべきだったんだ。エルの家を。
エルのあの薄幸の少女に害はないと私はなんとなく思っていた。――だが、そもそもがエルの家だ。
彼処は魔窟だ。
里の中に在りながら、里の中に無い存在。何が潜んでいてもおかしくない。
――私のせいだ。行かせるべきじゃなかったんだ。




