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桃源の乙女たち  作者: 星乃 流
八章「魔窟」
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第二話(第二十七話)

 何かに呼ばれた気がした。

 ラスタが詳細に昨日のことや今までの経緯などを説明している様子をライラは壁に凭れ掛かったまま、ぼっーっと眺めていた。

 (……あれ?)

 何かの気配を後ろに感じた。戸を開けて廊下を覗いてもみても誰もいない。でも、確かに今も何かを感じる。

 (……私を呼んでいるの?)

 ライラはふらふらと何かを感じるほうに歩きだした。初めて入ったエルの屋敷。その入り組んだ廊下を奥へ、奥へと進んでいく。

 (迷っちゃったかな……)

 この家は迷路みたいだ。もう方向もさっぱりわからない。

 (でも、まぁなんとかなるでしょ)

 何かあればきっとラスタが探しにきてくれて、きっと見つけてくれる。きっとまた怒られるだろうけど、それでもいいや。

 クスッ

 まるで怒られるのが楽しみでもあるかのように、ライラは小さく笑みを零した。

 ライラは楽観し、それ以上深く考えることなく、何かを感じる方向に(いざな)われるが儘にふらふらと歩いていく。

 (……なんなんだろーこの気配……あれ? 近くなっ……)

 突如として左手に激痛が走った。

 ――痛い……痛い……痛い?

 あまりの激痛で声を上げることもできなかった。意識が揺さぶられる。なんとか必死に堪えてその痛みを発しているはずの左手を見た。見ようとした。――そこに左手はなかった。あるべき手首から先がそこにはなく、細腕の断面から血が勢いよく吹き出していた。

 ――あぁ……。

 左手を切り落とされたんだ。

 彼女はその場に力なく崩れ落ち、血で赤く染まっていく木の床にへたりと座り込んだ。もう存在しないはずの左手から激痛が尚走り続けている。もはや痛いなんてものを通り越して、ただただ苦しくて堪らなかった。座っていることさえもままならず、不自然な姿勢で床に倒れ込んだ。

 (私もさよならなのかな……)

 日常の取り留めもない出来事が次々に走馬灯のように頭を過る。

 (あぁ、本当に走馬灯なのかな、これ)

 意識が遠のくなか、二本の足が見えた。誰かがそこに立っていた。

 (誰だろう、あの足……)

 そのまま彼女の意識は闇に落ちた。

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