第5話 こんな魔王と戦います。 ……え。戦うの? あー、戦うって言っちゃったよ。
「いや~、ウチの神様がポカやってもてね。ほんまやったら、キミの相方になる予定やってんけどねえ。まちごうて、別の人んところに手配されたってわけなんよ」
しれーっと、トンでもないことを言う妖精ファーファ。呆けている俺とチャイム。
「で、まあ、神様が、しゃーない、かまわん、そのままいけー、言うてね。その人と魔王討伐まで行ったんよ」
「行ったのか……」
「で、魔王とがっちゃんがっちゃんやってたら、魔王に勝ってなー」
「おい。勝った……って?」
「勇者側は負けたって言ってましたよぅ」
チャイムが泣きそうな顔で訴える。
「ああ、今回の勇者は負けたよー」
ファーファが妙なことを言い出した。
「ウチの元相棒、魔王に勝ったんやけど今度は自分が魔王になるー言い出してな。せやからウチ、しばらく魔王の武器もやってたんよ」
…………。
「で、今回の勇者がこの前来てなー。がっしゃんがっしゃん、やってたらエライことになってんよね」
もう、大抵の事には驚かなくなってきたけどな。
「ウチ、半分に折れてもーて。勇者の武器に取り込まれてん」
はああああああ!?
「ま、わざとやけどね。だって、本来の相棒とちゃうんよ? 居心地悪いやん。せやから、どさくさ紛れに逃げてきてん。勇者のみんなはダメージでかくてね、もう魔王相手には戦えん位になってしもてね……」
「で、仕切り直しも兼ねて俺を捜してきたってこと……か?」
「そそ」
驚愕の事実。
「ウチの半分は、魔王が持ったままってわけやね」
いや、ちょっと時間軸おかしくないか。
「おい、魔王がなんで俺の持つはずのアイテム持ってるんだ? 俺、ここに来てからそんな時間は経ってないぞ。魔王は相当前から居るんだろ? お前の話ならずっと前から持ってることになるじゃないか」
「それなんやけどねぇ。魔王っていってもすぐには成れへんやん? で、どうしたと思う?」
ファーファがため息を吐いた。
「時間さかのぼって、成り立ての魔王の時代まで跳んで、弱い時のんを倒したんよ」
「なんだそりゃ!!!!」「なんですかそれ!!!!」
「そいつの能力でね。自分の周囲の時間を少し巻き戻すって力。それをウチを使って、更にパワーアップしてな。なんやかんやで百年単位で巻き戻してから、魔王に成り立ての子に挑んで倒してまいましたあ、いうわけ」
「なんてチート……」
「そりゃ、困ったんよ。本来の超強力な能力に加えて、手違いでキミに渡す神製武器まで渡してしもて。鬼に金棒、言うのはこの事やんな?」
だから、俺に同意を求めるなって。
「今回、なんとかそいつから離れることができてなあ、次の勇者と本来の相棒をチャイムにお願いして捜してもらってたってこと」
「え? え? わたし、そんなこと知らなかったんですけど……」
チャイムは突然話を振られて、オタオタ動揺している。
「チャイムの持ってるスタッフからメッセージが聞こえてくるんやろ? それ、ウチの後輩や」
「えええええええ!?」
身体に不釣合いな巨大さのプリーストスタッフを見上げるチャイム。
「これ、捜し人を集めろって言われて聖バッファの神殿から授かった魔法具で……神殿からの指示や連絡ができる通信機も兼ねてるって聞いたんですけど……」
「で、転移者の居場所の連絡が来て、チャイムはその人らぁにお願いに廻っていた……やろ?」
コクコクと頷く。
「それなー。チャイムの能力とは別に、今回の件でな一人で大変やろなーって、神様がチャイムにぃて授けた神製なる武器やねん。ちなみに、その声、ちょっと年増の女の声やんな?」
コクコク頷くチャイム……がハッと気づき、
「あ。年増というか、優しそうなお声で……」と、ゴニョゴニョごまかす。
チャイムが慌てて、
「で、でも、これは聖バッファ神から授かったもので――」と、弱々しく反論するも
「それな、バッファに言うて、準備させてん」
チャイムが唖然としている。
「名づけて、ライトスタッフ! わかる? 正しいと光の『ライト』と、資質と杖の『スタッフ』を掛けてん!!」
うるせぇぞ、大阪妖精。
俺は、そこでふと気づいた疑問を口にした。
「そういや聖バッファ神も神様だろ? あのクソ神の事なのか?」
「ああ。バッファって、この世界の部門担当の一人やね。創造と生命関連の」
チャイムが目を丸くした。
「分かりやすい言い方やと、創造・生命部の部長ってとこやね。結構人気のある部署やから信者も多いなぁ」
そして、フワリと髪を払ってカッコをつけたファーファが、
「ウチは、さしずめ、社長直付きの秘書みたいな感じ?」なんてことを言う。
今は妖精のカッコしてるけど、ほんまはもうちょっと違うんよ……と続けた。
なんだろう、色々と知ってはいけない裏側が次々と明らかにされている気がする。
ファーファが俺の目の前で、急にしおらしい動きを始めた。
「せやからね、プラウド。あらためて、お願い。魔王討伐してくれへんかなぁ?」
「断る」
「なんでやーーーー!?」
うるさい連中だ。
「なんでこの流れで、時間を巻き戻すチートスキル持っているようなヤツと戦わなきゃいかんのか。なによりあのクソ神のお願いってとこが腹が立つ」
「せやなあ。ここだけの話、クソ神って言うのは、ウチも否定できへんなあ」
おいおい、過激な愚痴をいう直付き秘書だな。
「ウチも一言~……やないな。二言三言、十言くらい、言いたいことあるからなあ」
――魔王倒さんとウチも戻られへんしなあ。このまま現場に出向したっきりとかカンベンやわ……って、全部聞こえてるぞ、アホ妖精。
「魔王を倒せば、また神様の部屋に行けて直接文句も言えるし、みんな元の世界に戻れるはずやよ? どう? どう?」
さも良い提案をしている風な顔をするファーファ。お前が帰りたいから言ってるんだろ。
「あ、あの……私からもお願いします」
おずおずといった感じでチャイムが声をかけてきた。
「魔王のせいで、魔物と人間が戦っているのは事実です。魔物たちも好んで戦っていないかもしれません」
ファーファの表情が変わった。
「わたしは、魔物と人間が戦わなくてすむ世界になるならと思って魔王討伐に参加しました。どっちも不幸なことですもんね」
そして俺を見上げて言ったのだ。
「それに、転移者は皆、魔王討伐を受け入れたからこそ、この世界に来たんですから」
そうだ。魔王討伐に力を貸して欲しいとお願いされ、それを受け入れたからこそ、この世界に来た。本来、受け取るはずの神製武器もこうやって手に入ったのだから、いわば、ここが約束どおりのスタートラインということか。
俺は一つため息を吐いた。
「しゃーない。チャイムの頼みだ。わけのわからんクソ神の頼みだからじゃあないからな」
チャイムの、というところを強調する。
チャイムがふにゃあとした表情になった。ファーファはジッとこちらを見つめている。
確かに魔王の力は俺の想像を超えている。
けど、一度は受け入れた約束だ。
それにここまで来たチャイムを一人で放り出すのも気分が悪い。
「魔王を倒せば、クソ神に会えるんだろう? 何がポカミスだ、こうなりゃクソ神に直接謝罪してもらうためにも、魔王討伐するしかないだろ」
不安を隠すように。
「このムシャクシャを晴らさず、このまま村人Aのまま終わりたくなかったからな! いいぞ、チャイム!ファーファ!! なんだ、渡りに舟じゃないかっ!!」
「……せやなぁ……。面倒なこと、わるいなあ……ありがとなぁ……」
キビキビしていたファーファの表情が一瞬柔らかくなったように見えた。すぐに背中を向けたのでよく見えなかったが。
チャイムが、ふにゃあとした顔から嬉しさ一杯の笑顔になり、
「ありがとうございます! ありがとうございますッ!!」
ペコリっとお辞儀した。
ガシャン
「あああああああああああッッッッ!!!! ごめんなさいぃーーー!!」
チャイム……それ神製武器なんだから、もっと大事に扱えよ……。




