第3話 変なのが出てきたぞ……
俺は、チャイムが倒したプリーストスタッフを拾い上げるのを待って話し始めた。
「チャイム。お前も転移者だろ?」
「はい」
――神様曰く、現代日本の時空軸ゲートから引っ張り込んでいるらしい。この世界との親和性の高さから日本にゲートを開いているとのことだった。
日本語を話す黒髪に黒い瞳。かなりの確率で日本出身だろう。となれば、この世界では転移者だろうと推定はできる。
「わたしは、志戸鈴実、といいます。こちらの世界ではチャイムって名前です。17歳です」
「え。17歳ぃ? てっきり小学生かと…………あ、いやなんでもない」
ジワっと悲しそうな顔をしたので慌ててごまかす。
「17歳なら先輩だな。既に知ってるみたいだけど、プラウドって名前でこちらに来た。16歳だ」
「年下さんですかー! 私より年下の転移者は初めてなので嬉しいです。後輩くんかぁ……」
ぱあっと笑顔になるチャイム。機嫌は直ったようだ。しかしまさか……年上とは……。
「わたしも神様に頼まれちゃいまして、魔王を倒すお手伝いをすることになったんですけど、いろいろとありまして勇者パーティには入ってなくて……」
なんとなく想像つくけどな。
「俺もいきなりこちらに召喚されてな。通学バスの出口から降りた瞬間に変な空間に出ていた。そこでこの世界の神様ってヤツに頼まれたのは同じだ」
そして、つまらなさそうに首をコキコキしながら、続ける。
「嫌なら記憶を消して召喚取り消しするけど、どこへ帰還するか座標指定が難しいとか言い出すし、神様が業を煮やしたらしくて、今回は結構凄い能力やアイテム渡すから、何とかしてくれって何度も言うしな。仕方なく召喚を受け入れたんだけどな」
コクコクと頷くチャイム。
「で、この世界に出てきたら、何にも持ってないときたもんだ。詐欺で訴えるぞ、クソ神め」
「ええっ!?」
「言葉は通じるけどな。ま、そんなわけで、俺は最初に現れた町の片隅で、自力で一人、バイトしたりして何とか生きているわけだ」
「……ひぇぇ……」
「クソ神にはあれから連絡できないから、文句一つ言えてない。今度見かけたらぶん殴って元の世界に戻させてやる。魔王討伐なんてクソ食らえだ」
「……ふにゃ……」
先ほどから奇声で合いの手を入れるチャイム。
「あ、あ、あの……元の世界に戻る方法で……」
「知ってるぞ。魔王という存在が居なくなると、この世界の因果律が元に戻ろうとする。その因果律が変わる事を利用して戻る事ができる。クソ神から聞いた」
「ですです! なので――」 チャイムの表情がぱあぁっと明るくなり、
「それで、いたって普通の俺がどうやって魔王を倒せるかってわけだ。こうなりゃ、俺は普通に生活する」
「あのののぅぅぅ……」 再び動揺するチャイム。
「神様からのアイテムはこの世界の人には使えなくて、転移者しか使えなくって……」
虹色の塊をこねくり回しながら何とか説得を試みようとする。
「プラウドさんなら……何とかしてくれるかもって……」
「だから誰だよ、俺の名前出してるのは」
その時、チャイムの持っている奇妙な塊が、不可思議な色に輝きだした。
そして、出し抜けにその光が消えたかと思うと……チャイムの手のひらに――
妖精が、正座をして、そこに居た。
プラチナシルバーの髪が腰まで流れ、小さいながらも気品のある整った顔。お姫様人形のような美しい姿に虹色に輝く翅がフワッと開く。
前髪に少し隠れた切れ長の目がスッと開くと、グリーンの瞳が現れた。
プラチナシルバーの前髪越しにその瞳がジッと俺を見つめると、小さな小さな口を開いた。
「あーもー! 一体なんなん? 自分!?」
■
俺は呆けていた。
チャイムはコケていた。
手のひらの妖精を絶妙なバランスで支えていたのは、チャイムにしては頑張ったと思う。
手のひらに現れた妖精は、ふんすと立ち上がると俺に向かってビシッと指差した。俺の顔程度の身長だが、居丈高な態度だ。
そして、少々高めで涼やかに通る声でもう一度言った。
「ちょい、聞いてんのん? なんなん、自分!?」
「大阪……弁だな……」
「大阪……弁ですね……」
「無視しなやっ!」
思わず漏らした俺とチャイムの声に、すかさずツッコミを入れる妖精。
「あ。あれやね? 羽はえて虫みたいやからって無視してるんやねっ! 虫だけに!」
「ああ、こいつは大阪だな」
「大阪の人ですね……」
「ちゃうわっ!」
小さな手で俺の頭をはたく。
また変なのが出てきたぞ……。
ノリと勢いとアドリブで突き進んでおります。
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