普通の日常
「涼音、お昼休みだよ。」桃花の声がする。
「涼音さま、購買が込みますよ。」キャラの声もする。
「うぁ?」だらしない顔を上げると、二人が顔を覗き込んでいた。
「うぉ。」とっさに身構える。
「涼音、お昼だよ。」桃花の声で覚醒する。
「へ、あれ?」
「涼音さま、購買が込みますよ。」キャラの声で完全に覚醒する。
「ねぇ、二人とも、お弁当を作ってきたから、屋上で一緒に食べない?」桃花が言う。
(え? お弁当? え? 屋上で一緒に? なに、その青春イベント?)あたしは桃花の両手を持って、首を大げさに縦に振る。
「おぉ、涼音のツボを押さえた?」桃花が笑いながら言う。
「桃花様、私もそのイベントに参加できるのですか?」人間形態では本来見えないはずの尻尾を、ブンブン振っている幻が見えるキャラを見て、桃花はため息をついた。
「二人の分あるから。」
「桃花、流石はあたしの親友!」
「懐くな、涼音、これは、あんた達への施しだからね。」桃花が、顔を真っ赤にしながら言う。
「桃花、天使?」
「桃花さま、森の中で一生お守りします!」
「ほえ?」
「桃花、キャラは、あんたが森に入った場合、全身全霊をもって桃花を守るってさ。」
「いや、いや、いや、何言ってるの?」
「桃花、森の住人にとって、無償の施しはあり得ないんだよ。」
「ほぇ?」
「いま、桃花がお昼ご飯を提供したことで、キャラはあんたを守る対価を支払ったんだよ。」
「何それ? 重い。」
「気が付いた? うちらの感覚で、何かを提供すると、それに見合った対価が帰ってきちゃうんだ。」
「えっと、その効力はどの位続くの?」
「親愛度によるかな。」
「え? それって?」
「桃花様、あなたが森に入る時には、生涯を通してお供します。」
「すごく重いの来た~。」
「はい、どうぞ。」桃花が蓋を取って言う。
定番の卵焼き、たこさんウインナー、唐揚げ、野菜炒め、ほうれん草のお浸し、鮭の塩焼き、生姜焼き、野菜サラダ、そして俵のおにぎりと三角おにぎり。
「えへへ、頑張った!」桃花がにっこり微笑んで言う。
「桃花、嫁になってくれ!」涼音が本心で言う。
「そういうのは良いから、食べて、食べて~。」桃花は涼音を押しのけて言う。
「では。」キャラは唐揚げにフォークを差し、口に入れ、固まる。
「え? キャラさん?」
「キャラ?」桃花とあたしが同時に問う。
「ふふふ。」
「キャラさん?」
「ふふふ、桃花殿。」
「はひぃ?」
(お、盛大に噛んだな?)
「私が桃花殿のそばにいる限り、桃花殿の安全を保障しよう!」
「お~、大きく出た~。」
「ほぇ? キャラさん?」
「このようなもの、初めて食しました!」
「ほぇ?」
「私が、全身全霊をもって守るのにふさわしい!」
「あ~、キャラ、早く食べないとなくなるよ。」2個目のおにぎりを頬張りながらあたしが言う。
「な、涼音さま、私の分を残してください!」
「早い者勝ちだよ。」
「むぅ、では本気で行きます!」そう言うと、キャラは両手におにぎりを持って頬張る。
「ぬぉ、酸っぱい!」
「あ~、それ、うちのおばあちゃん特製の梅干し、10年ものだよ!」桃花が言う。
「10年前の物が食べられるのか?」キャラが驚愕する。
「え? 梅干しは50年前のものも食べられるよ。」
「なんと。」
「うん、実際に60年物の梅干しが売られたこともあったよね。」桃花がニコニコして言う。
「これが?」キャラはまじまじと梅干を見る。
「でも、あたし、梅干しを腐らせたことあるんだよね。」涼音が言う。
「え?」
「なんと?」
「夜店ですくった金魚が、昼の熱さで煮え死んだ部屋で、普通にかびた。」
「ほぇ?」
「涼音さま、壮絶な・・」
「は・は・は、通常運転だよ。」そう言いながら、唐揚げを食べる。
「桃花、本当に料理上手いね。」
「えへへ、色々頑張った結果です。」
「でも、この事を知った、シャイナさんの怒りが恐ろしい。」キャラが言う。
「キャラ、言わなければ知る由もなし。」
「あぁ、そうですね。」そう言いながら、嬉しそうに生姜焼きとおにぎりを頬張るキャラ。
「何だろう? フラグ?」涼音が思う。
キャラが、シャイナに対して、盛大にやらかしそうな?
「あははは。あたしはノータッチで良いよね?」涼音が独り言のように言う。
フラグは、回収するからフラグなんですよ~。
「誰の声だろう?」涼音が嫌な顔をする。
「桃花、とりあえず今のままだね。」
「うん。」
「色々あるのはこれからだ。」
「とりあえず、あたしは今のままを楽しもう。」涼音が思う。




