森の中で
「深森まで行ってるらしい。」
「え?それって?」
「森の5階層目。」
「私、無事に帰れる?」
「桃花なら、境森からも帰って来れるよ。」
「桃花殿、我がお守り致します。」
「あはは、アモナ頼もしいねぇ。」
「な、涼音殿、茶化さないで下さい。」
「いや、桃花を守ってあげて。」
「はい、勿論です!」
「おー、頼もしい!」
「んじゃ、いくよ。」
「御主人様、童が先導するのじゃ。」
「うん、ナーガ宜しく。」
「任せるのじゃ。」
(白龍が先導して、魔族の王女が守護する団体かぁ。)
(何も襲ってこないだろうなぁ。)涼音は思う。
そして、実際に何も襲ってこないまま、深森にたどり着いた。
「あたしの今までの苦労は何だったんだろう。」涼音がぼそっと言う。
「涼音、なんか御免ね。」
「え?何で、桃花が謝るの?」
「いや、ここまで来るの、本当は凄く大変なんだよね。」
「いや、その通りだけど。」
「私みたいな半端な人間は来ちゃ駄目な処なんでしょ?」
「は?何で?」
「え、だって、私まだ力の使い方判らないし。」
「何言ってるの、桃花。」
「ほえ?」
「いや、涼音は最上級の5人だよね。」
「桃花は、天に選ばれた存在。あたしもつい最近まで判らなかった。」
「桃花は、最上級の5人に匹敵する存在。」
「ほえ?」
「巫女はそう言う存在。」
「え?え?何それ?」
「桃花は、ひょっとすると、禁忌も超えられるかも。」
「何それ?蘇生もできるって事?」
「巫女が育てば、可能性はあるかもって事。」
「ほぇ~凄いね。」
「桃花、他人事みたいに見えるけど。」
「え~、他人事でしょ。」
「あぁ、桃花、本当に可愛い!」そう言いながら涼音が桃花を抱きしめる。
「ふぇ?」
「な、何?涼音?」
「ふふふ、桃花、巫女の発生率知ってる?」
「え?知らないよ。」
「桃化の前の巫女さんは、50年前に現れた。」
「え?」
「桃花、流石はあたしの親友。」
「こら、涼音、懐くな!」
「なぉ~。」と言いながら涼音が顔を拳骨で拭く。
「くっそ、可愛いな!」
「え~、桃花ほどじゃないよ。」
「自覚してるのがむかつく!」
そう言いながら、ポカポカと涼音の肩を小突く。
「あはは、痛くないのがなんとも。」
「ご主人様達~、あっちは酷い事になっているのじゃが、良いのか?」ナーガの気の抜けた声で二人ともハッとする。
「あはは、そうだった、そうだった。」
「涼音、ひど~い。」
「いや、桃花、何を他人事のように言ってるかな?」
「私は、最上級じゃないしぃ~。」
「巫女って言う存在は、最上級と同等って理解しよう。」
「いきなり言われれも心の準備が。」
「涼音殿、もう少しで全滅しそうですが。」
「おっと、ふざけてる場合じゃなかった。」
「ナーガ、とりあえず攻撃を防いで。」
「それだけで良いのか?」
「良い。」
「分かったのじゃ。」ナーガがその戦闘に介入する。
蹂躙されていた者達に攻撃が通らなくなる。
涼音は、戦場に足を踏み入れた。
「あぁ、サーベルタイガーの群生に出会っちゃったんですね。」
「え?あ、ごほっ、貴女は。」
「おや、無事とは言い難いですね、森佳子さん。」
「あぁ、道楽亭の、げはっ。」そう言いながら血を吐く。
「安息。」涼音が呪文を唱えると、森佳子は瞬時に回復する。
「おぉ、全ての傷が癒えていく。」
周辺にいた、傷ついた自衛隊兵も同じように回復した。
「涼音殿、助かりました。」
「え~、そうかな?」涼音が周りを見て言う。
ナーガが張った結界?の外では自衛隊員がサーベルタイガー相手に苦戦している。
妖魔ではないので通常弾でもダメージは通るが、その毛皮は弾丸をも弾く。
目や耳の中、鼻の孔、肛門のように毛が無い所にしかダメージを与えられない。
まして、自動小銃でそこをピンポイントで狙うのは不可能だろう。
爪や牙の攻撃は、装備した盾で何とか防ぐことが可能だ。
但し、体術に長けた者だけはという注釈が付く。
そう言う意味では、森佳子一等陸佐が涼音に回復されたのは幸運以外何でもない。
「えっと、涼音、私どうすれば良い?」桃花がおずおずと涼音に聞く。
「あたしじゃなくて、森さんに聞いて。」
「え?」
「ふぇ?」
「いや、二人で呆けてないで、特に森さん、この場をどうしたい?」
「え?」
そう言って、森佳子は周りを見る。
そこでは、自動小銃を泣きながら乱射した者が、サーベルタイガーに首を噛み切られていた。
ある物は、盾で攻撃を防いだ隙に、後ろから襲われて絶命した。
数人が固まった場所では、弾が尽きた瞬間に蹂躙された。
「私達は、救える命しか救えない。」
「え?それは、どういう?」
「今、此処にいる人達だけは救える。」
「え?では、周りの人達は?」
「もう遅い。」
「貴方達は、何故私達の忠告を聞かないんだ!」
「え?いや、私達は何も知らされていない。」
「やっぱり、理沙姉の言うとおりだ。」
「森さん。」
「はい?」
「今後、自衛隊が森に入っても、私達は介入しない。」
「え?」
「勝手に死んでろ。」
「はぇ?」
「そう上官殿にお伝えください。」
「え?え?」
「やっと判った、あんたらのやってる事は、森の意思に反する。」
「と、言う事で、たった今からあたしはあんたらを助けない。」
「え、え?」森佳子が驚愕する。
「あたしは、このまま森を出る。」
「このまま着いてくれば命は助かるかもね。」
「でも、それ以降はあたしは知らないよ。」
「涼音?」
「桃花、帰ろう。」
「え?う、うん。」
「小隊編成、生き残っている者は私に続け!」森佳子が叫んだ。
この演習に投入されたのは400人であるが、無事帰れたのは、わずか23人であった。
この演習後、この森の演習に係った数名の自衛隊上官が更迭され、しかも森に送られたという噂がネット上に流されたが、真偽のほどは不明だ。




