教室で
教室が喧騒で包まれている。
「美月愛華です。よろしくお願い申し上げます。」
愛華はそう言うと、腰を90度曲げて丁寧なお辞儀をする。
「あの黒髪、まるで日本人形みたいだ。」
「伏し目がちの表情、素敵です。」
「大和撫子、降臨した~。」
クラスメートが騒いでいるが、涼音は皆の言葉を心で否定して、机に突っ伏す。
(そこにいるのは、生足フェチの変態さんですよー)
担任は、何時ものように涼音に押し付けようとしたが、今回はその前にキャラが愛華に声をかけたので、キャラにクラスメイトの注目が集まっていた。
「愛華様、ごきげんよう。」
「あー、キャラも同じクラスなんだ。」
「はい。今後とも良しなにお願い申し上げます。」
「うん、こちらこそ。」
「ところで涼音は?」と言いながら愛華が教室を見回す。
既に寝に入った涼音を発見すると、その机に駆け寄り跪く。
「涼音様、同じ学び社で教義を受ける事、至極光栄です。」
「だぁー。ざけんなぁ、」涼音が飛び起きる。
「愛華、あんた理沙姉の言葉を忘れたの?」
「え、え?あれはあの店の事だけでは?」
「マジでそう思ってるの?」
教室の中が静まり返った。
「いいよ、愛華、あんたがそう言うつもりなら、そうしてあげる。」涼音は背筋が凍りそうな目をして言う。
涼音の隣の席の桃花は「あ~。」って顔をして愛華を見ている。
「皆、此処にいる「愛華」は奴隷になりたいようだから、そう接してやって。」
「え?、いや、そんな事は。」
「聞こえない。」そう言うと涼音は愛用の枕に突っ伏して寝始める。
「まじかぁ。」
「やべぇ、涼音マジ神。」
「侍の奴隷落ちとか、受けるぜ。」教室のあちこちで男子生徒がにやにや笑いながら立ち上がる。
愛華はその不穏な空気に、身構えるが、「愛華、あんた此処にいる全員の命令を聞くまで許さない!」
涼音が枕に突っ伏したまま言う。
「え?」「え?」愛華は涙目になりながら涼音を見るが、その視線が男子生徒の顔で遮られる。
「愛華~、俺、腹減ったわ、購買で焼きそばパン買ってこい。」
「私は特性プリン。」別の女生徒が言う。
「俺はセ〇ンのおにぎり2個な。いくらとハラミでヨロ~」にやにやしながら男子生徒。
「あたしは、ミスドのポ〇デとショ〇ラ5個づつねぇ。」別の女生徒も言う。
「いや、あの、私は。あの。」愛華が後ずさりながら言う。
「まさか金を要求するのかぁ?」男子生徒が言う。
男子生徒はノートを破るとそこにシャープペンで「一万円」と書き愛華に渡す。
「釣りは返せよ。」
「授業が後2分で始まるから、それまでに買ってこいや。」別の生徒も言う。
「つ~~~。」愛華が絶望に落ちそうになった時、愛華の肩をそっと抱く者がいた。
愛華が振り返ると、桃花がその目を見つめながら言う。
「涼音はね、この学校で、いいえ、すべての生活において、特別視されるのが大嫌いなの。」
「彼女は、普通に、自然に接してほしいと思っているの。」
「だから、私達も涼音を特別視していないの。」
「それを、貴女は侵してるの。」
「涼音にそう言われなかった?」
愛華は、涙を流しながら言う。
「言われた。」
「だったら、そうしないと。」
「友達でしょ。」にまっとした顔で桃花が言う。
愛華はそれを聞き、両手で涙を拭くと、深呼吸をして言う。
「涼音、人を奴隷扱いかよ。」そう言いながら涼音の後頭部を掌で叩く。
「あた。何すんだ?」涼音が顔を上げて言う。
「あぁ?親友を売った罰だ!」愛華がにっこりとしながら言う。
「あたしの親友は,そこにいる桃花だけだよ!」涼音が言う。
その言葉を聞いて、ほほを赤らめる桃花。
教室の他の生徒は、少し悲しそうな顔をする。
「他の皆は、あたしのツレだから、何かしたら報復するからね。」
そこにいる全員がほっとしている。他人と言われなかったことが嬉しいらしい。
「じゃあ、私は何なのよ?」愛華が言う。
「ん~。」涼音が考えながら言う。
「森の中で会った只の一般人?」
愛華が涼音の両肩を持って言う。
「酷くないか?」
「だって、守の王の前で漏らしてたじゃん。」
「漏らしてない。」
「あぁ。あの時そうだったんですか?」キャラが言う。
教室がざわつく。
「え?」
「キャラって守の王なの?」
「マジか!」
キャラが「しまった」って顔をして教室を見回す。
「守の王って事は、人狼?人獅子?」
「えええええ。」
キャラはとても拙い事をしたと思い、身構える。
「やばい!」
「流石涼音!」
「伝説は本当かぁ。」
「感動だぁ。」
「へ?」キャラは皆の反応に、あっけにとられる。
「いやぁ、只者ではないと思ってたけど,守の王かぁ。」
「いや、それでも僕の憧れのお姫様に変わりない。」
「何言ってる、俺のアモーレに決まっているじゃないか。」
「高貴なのはそれでかぁ。納得だよね。」
「そんな人とクラスメートって、凄いよねー。」
「キャラ、握手して。」
(何だこの反応?)キャラが思う。
「だって、涼音の関係者でしょ。」桃花がニコニコしながら言う。
「だったら、まともな訳ないじゃない。」
「なにそれ?」涼音が起き上がって言う。
「私達、長い付き合いじゃない。」桃花は続ける。
「少なくとも、この町に住む人間でその程度で動揺する人いないよね。」
「「「「そだね~。」」」」教室のほぼ全員が答える。
「否定できないじゃん!。」涼音は頬をぷぅっと膨らませると机の枕に突っ伏した。
教室が笑い声で包まれる。
愛華があっけに取られていると、桃花が愛華の肩をたたいて言う。
「奴隷云々は、クラスメートのサプライズだからね。」
「はえ?」愛華が呆ける。
「私達も最初はやらかしちゃったんだ。」と言いながら桃花がぺろりと舌を出す。
「でも、その桃花だけは、最初からあたしを特別視しなかったんだ。」涼音が寝ながら言う。
「だから、桃花はあたしの特別。」
その言葉に桃花の顔がリンゴになる。
「良いなぁ、桃花。」と言いながら、男子生徒が愛華の前に出る。
「ごめん!調子に乗りすぎた。」
「皆、ノリが良いからつい。」女生徒が言う。
「俺、敦って言うんだ、よろしく。」
「おいおい、抜け駆けすんなよ。」
「こら、皆、愛華が困ってるじゃない。詮索は休み時間に!」桃花が皆を散らす。
「へいへい。」
「わかったよ。」
「あとでね~。」
「ノリのいい教室でしょ、愛華も楽にしてね。」
そう言うと桃花はキャラに向かって言う。
「キャラの事も、誰も気にしてないよ。きっと。」そう言いながら右手を出す。
「そのようですね。」キャラはその手を握って嬉しそうに笑った。
騒動の元の涼音は、既に夢の世界の住人だった。
そして、一連の騒動を見ていた担任は、肩をすくめて教室を出て行った。




