その後
「終わったー。」そう言いながら理沙が奥の部屋から出てきた。
「おつー。安定した?」詩織が言う。
「お、貰い!」理沙は一つ残ったシュークリームを手に取るとはむっと頬張り破顔する。
「あー幸せ。」
「どうぞです。」シュワが紅茶を理沙の前に置く。
「ありがと。」理沙はカップを手に取り紅茶を啜る。
「あー美味しい、シュワ、腕上げたねー。」
「えへへ、まだまだですー。」
理沙は紅茶を飲み干すと、愛華達に声をかけた。
「あんた達、ご苦労様。これバイト代ね。」そう言いながら封筒を三通差し出す。
「ありがとうございます。」愛華が最初に反応してそれを受け取る。
「ほら、あんた達も。」理沙がキャラとシャイナに言う。
キャラとシャイナはお互いに顔を見合わせ、それを手に取る。
封筒には5千円札が1枚入っていた。
それを取り出しながらキャラもシャイナも微妙な顔をしている。
涼音は二人の前に行き、ぽそりと言う。
「さっき食べたシュークリームが沢山買えるよ。」
それを聞いたシャイナは耳隠しの帽子をかぶり、パーカーを着るとシュワの両肩を持って言う。
「あれが買える所に案内してほしい!」
愛華はそんなシャイナの姿を見てソファーで悶絶した。
(ぐへへへ、パーカーから生足、ふふふ生足!)
(愛華、相変わらず残念だね。)涼音が愛華を見て思う。
キャラもシュワの横に行きシュワの手を取って言う。
「さあ、今すぐ連れて行ってほしい!」
「へ?へ?」シュワが突然の事に挙動る。
「連れてってやんなよ。」涼音の言葉で落ち着きを取り戻したシュワは「では、御案内しますー。」
と言って道楽亭を出て言った。
「あ、そういえば。」涼音が気付き、封魔石をカウンターに置く。
「な、これは?」それを見て詩織が驚く。
「こんな伝説級のものが森にいたの?」理沙も絶句しながら言う。
「なんか、変なことになってない?」涼音がカップを口にしながら言う。
「そこの龍族と言い、私たちの知らないことが起こり始めてるみたいだね。」理沙が渋い顔で言う。
「まったく、森の管理者なんか引き受けるんじゃなかったよ。」
「理沙姉、これどうしよう?」
「う~ん、猛毒だからシュワに食べさせる訳にもいかないねぇ。」
「ほんじゃ、私が預かっとくよ。」と言いながら、詩織が空間魔法で作った保管庫に放り込み蓋をした。
「使い道が決まったら教えて。」そう言うと、詩織はまたカウンターに突っ伏した。
涼音はそれを見て、自分の責任範疇じゃないと感じて安心し、懸念事項を理沙に問う。
「理沙姉、ナーガ、そこの龍族なんだけど。」
「あー、良いよ。シュワと一緒に面倒見るんでしょ。」
「やった、流石理沙姉。」
「という事で。」涼音がナーガに向かって言う。
「あんた、此処で住み込みね。」
「住み込みとは何なのじゃ?」
「此処にいて良いという事。」
「本当なのか?」
「でも、条件がある。」
「条件?」
「この店、そしてここにいる二人の手伝いをすること。」
「それだけでよいのか?」
「うん。」
「わかったのじゃ、お手伝いをするのじゃ。」
「んじゃ、決まりね。」
「ただいまですぅ。」シュワがキャラとシャイナと一緒に帰ってきた。
二人ともコンビニの袋を手に提げている。
「涼音、本当に買えました。」シャイナが嬉しそうに言う。
「あちらへの良い土産だ。」キャラが言う。
「あー、あっちに持っていくのはやめたほうが良いかもね。」
「「何故だ(ですか)?」」
「あんたらもそうだったように、甘味に対して耐性が無いよねきっと。」
「そんな所にそんなもの持ち込んだら大変なことになると思うよ。」
「確かに。アメリとラビィは嵌りそうだ。」
「お母様もきっと虜になります。」
「それだけで済めば良いけど。」
「きっとこっちの世界はその程度は供給できるけど、その対価、どうする?」
それを聞いて二人とも天井を見上げる。
「一般の方がこの味を知って。」
「それが手に入らないとしたら、暴動になりますね。」
「そういうこと。」
「対価を確実に確保できるようになるまでは、あっちに持ち込まないほうが良いと思うよ。」
「うぬぬ。」
「あきらめた方が良さそうですね。」
「数日なら日持ちするから、冷蔵庫に入れてこっちに来た時に食べれば良いんじゃない?」
「ほら、袋に名前書いて。」涼音がマジックのキャップを取り差し出す。
「名前・・」キャラもシャイナも袋に何かを書くが。
「読めないよ。」涼音が言う。
キャラとシャイナもお互いが書いたものを見て「?」って顔をしている。
「理沙姉、二つの代表との取り決めってどうしたの?」
「基本は口頭で、決まったことは、其々が一枚の皮に文字で書き、それぞれの部族の別の者がそれを読み上げて、同じ内容であると確認した後三代表が署名したよ。」
「言葉は通じるのに、文字は読めないんだ。」
「訳辞書を作らないとね。」
「あーとりあえず、〇がシャイナで△がキャラね。」涼音がマジックでそれぞれの袋に印を書き、カタカナで「キャラ」と「シャイナ」と追記する。
「あたしとシュワは読めるから、食べたいときはうち等に言うか、自分の記号の奴を食べてね。」
「間違って人のを食べた時は、きちんと謝って弁償する事。」
「「解った(りました)。」」と言いながら、二人とも袋から取り出して食べ始める。
「あー、後、シュワ。」
「何ですか?涼姉。」
「ナーガが此処に住むことになったから、色々面倒見てやって。」
「はいです、ではナーガさん、よろしくです。」
「宜しくなのじゃ、我にさん付けは不要なのじゃ、シュワ殿が先輩なのじゃから。」
「いえいえ、ではあたしも呼び捨てで良いですよ、ナーガ。」
「一応だけど、ナーガ、此処で本体に変化するのは駄目だよ。」涼音がナーガに言う。
「解っているのじゃ、此処では我の身体は入りきらんのじゃ。」
「まぁ、あたしは即封印するし、理沙姉も、しー姉も一瞬で対処するだろうけどさ。」
ナーガは涼音の「封印石」を思い出して身震いする。
「絶対にしないのじゃ。」
「シュワ、後よろしく。」
「解りましたぁ。」
「キャラ、シャイナ、あたし帰るね。」
「あら、お疲れ様です。涼音。」
「あぁ、では又明日学校で。」
「理沙姉、しー姉、お休み。」
「おやすみ。」
「おつー。」
そう言って涼音は自分の部屋に帰った。
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「おはよー。」と言いながら涼音が自分の席に着くと、
「涼音―。昨日この本買ったんだけど、全然使えないんだよー。」と言いながら隣の席の「桃花」が話しかけてきた。
桃花は、席が隣な事もあり、涼音とは結構仲が良い存在だ。
桃花が手にしている本を見ると、「誰でもできる四元素魔法」と表紙に書かれていた。
四元素。「地水火風」と言ったお馴染みの物だ。
「どれどれ。」そう言って涼音はその雑誌を受け取る。
「あたし、火魔法なんか使ったことないから、丁度いいかな。」と言いながら涼音がページをめくる。
「初級炎魔法ボウ?」
「ふむ、人差し指に意識を集中して、(コスルマッチ)と唱える?」人差し指を出して涼音が呪文を唱えると、涼音の指の先が赤く光り、直径30㎝程の火球が現れる。
「ちょ、これまずいよ。誰か窓開けて!」涼音が叫ぶ。
丁度窓の傍にいた女生徒が、その声に反応して窓を開ける。
涼音はそれを見て、窓の所に飛び、校庭に誰もいないことを確認して火球を投げる。
ドゴン!という凄まじい音と共に窓がびりびりと震える。校庭の中央には直径10m位の穴が出来ていた。
「涼音凄い。」桃花が言う。
「初級でこれかぁ、やっぱ涼音は違うね~。」別の生徒も少しだけ驚いて言う。
皆、涼音の能力を知っているので、あまり騒がない。
しかし、涼音はあちゃ~って顔をして、校庭の大穴を見ている。
(忘れてた、あたし「魔道の杖(持っているだけで、マジックポイントを消費することなく極限魔法も発 動できると言われている杖)」と「4大属性魔法の指輪(地水火風の最大魔法を発動できる指輪)」「闇の指輪(闇魔法、暗黒魔法を発動できる指輪)」を持ってるよ。)
「と、とりあえず穴を塞がないと。」と言いながら土魔法のページを開く。
「穴を塞ぐ初級魔法?これで良いか。」
「その場所に意識を集中して(モリツッチ)と唱える?」(今度は手加減して。)そう思いながら涼音が呪文を唱えると、校庭の穴が塞がる。
(あとは運動部の人がローラー掛けてくれるかな?)と無責任な顔をして涼音が思う。
涼音は、本を桃花に返そうと振り返ると本から何かが落ちた。
(?)涼音がそれを拾うとそれには「属性測定の紙」と書かれていた。
その10㎝四方の紙には、左側に「地水火風聖暗空?」と書かれていて、右側は空白になっていた。
「この紙を持って意識を集中すると、使用できる魔法属性が判ります。(複数回使用可)?」涼音が読み ながら意識を集中すると、?を含む全ての項目の右側が赤く染まった。
「おー、流石涼音。」
「やっぱ違うわ。」
「とりあえず拝んどく?」クラスメートが、やっぱり普通の反応をするが、涼音は桃花にその紙を渡して言う。
「という事だから、判定してみれば?」
「うん、やってみる。」桃花がその紙を受け取って意識を集中すると、水と風の部分が少しだけ赤く反応した。
「あー、私水と風属性だったんだ。」
「だから火が使えなかったんだ、納得~。」
そう言いながら、水属性のページを開く。
「初級水魔法?」桃花がページを読み進める。
「指先に意識を集中して(アビールシャワ)と唱える?」と言いながら指先を見つめて呪文を唱えると、 指の先から水鉄砲のように水が飛び出し、前にいた女生徒の顔に当たる。
「うゎ、ちょ。」その女生徒が叫ぶ。
「あぁーごめん!」桃花が慌ててページを捲る。
「初級風魔法乾燥、これだ。」と言いながら桃花は本に書いてあった呪文を唱える。
先程の女生徒にそよ風が当たり、ゆっくりと乾いていく。
「ウォシュレットかよ!」涼音が突っ込みを入れる。
「普通にハンカチで拭けばいいじゃない!」
「おぉ~。」
「確かに!」桃花と女生徒が言う。
「はぁ~。」と涼音が自分の席で机に突っ伏すと同時に、担任が教室に入ってきた。
それを見て生徒は其々の席に着く。




