道楽亭で
ダンジョンから出た時に涼音が気付く。
「ナーガ、あんた裸足じゃないの。」
「裸足とは何なのじゃ?」
「そこからかよ。」
「涼音、私がお手伝いしますね。」シャイナが傍にあった草に手を翳す。
すると、草が編みこまれ、サンダルのような履物が出来上がった。
「シャイナ、ありがとう。」
「いえいえ。」
「ナーガ、これを履いて。」
「履くとは何なのじゃ?」
「これから行くところは、裸足で歩いていると目立つ場所なんだよ。」
「だから、裸足って何なのじゃ?」
「見て。」涼音が自分の足元を指さす。
ナーガはそれに気付き、周りを見渡す。
「おぉ、皆足先を何かで包んでいるのぉ。」
「そういう事。」
鈴音はナーガの足を持つと、シャイナが作ったサンダルを履かせる。
「と、ちょ、何をするのじゃ。」
バランスを崩しながらナーガが言う。
そんなナーガをシュワが支える。
「ありがとうなのじゃ。」
「いえー、どういたしまして。」
その隙に涼音はナーガの両足にサンダルを履かせた。
「おぉ、地面の凹凸が優しくなったのじゃ。」
「解ってもらえたかなぁ?」
「成程なのじゃ、これは良い物なのじゃ。」
「じゃぁ、行こうか。」
一行は森の出口に向かった。
そして、森の出口に着いた。
(森は入る者は拒むけど、出る者は拒まなかったよね?)涼音が思う。
「え~っと、ナーガ。」
「何なのじゃ?」
「三歩進んでみて。」
「?」
「早く。」
「良く解らないけど、これで良いのかの?」ナーガが森を出る。
何も起こらない事を確認して、涼音も森を出る。
「じゃ、行こうか。」涼音がにっこりと微笑んで言う。
***
暫くして、一行は道楽亭にたどり着いた。
(シュワもここにいるし、今回は襲撃は無いよね。)
涼音がそう思いながら、ドアを開けて言う。
「道楽亭にようこそ。」
すると、そこから影が飛び出してきた。
(何かが飛び出してくるのはデフォですか?)涼音がそう思いながら影をかわすと、
影はシュワに襲い掛かって言う。
「シュワ、私のシュークリーム何処にやったの?」
影の正体は愛華だった。
「え?え?涼姉に言われて、シャイナさん達にお出ししましたけど。」シュワが挙動りながら言う。
「あー。あれ愛華のだったかぁ。」
「キャラとシャイナに振舞っちゃったよ。」涼音がテヘペロ顔をしながら言う。
「な、あ、あれは、特別な物なのだぞ!」
「なるほど。とても素晴らしい味だったのはそう言う事ですか。」キャラが言う。
「凄く至福の時を味わいました。」シャイナが言う。
そんな二人の言葉を聞いて、愛華が下を向き言う。
「お、美味しかったですか?」
「生きていて良かったと思う味でした。」
「もう、あれ無しでは生きていけないですわ。」
愛華はその言葉を聞き、二人の手を取って言う。
「お二人は私の同士です。」
「是非語り合いましょう!」そう言って二人を奥の席に連れて行った。
涼音はシュワにこそりと耳打ちする。
「シュワ、あれって?」
「はいです、お隣のコンビニで4個200円の奴です。」
「なるほど。」涼音が、悪い顔をしながら、シュワに数枚のお金を渡して言う。
「シュワ、これで「極上生クリーム入りシュークリーム」を人数分買ってきて。」
「涼姉、絶対ひどいこと考えてる顔です。」そう言いながらシュワが隣のコンビニにシュークリームを買い出しに行く。
その間に涼音はカウンターの奥にナーガを連れて行った。
「理沙姉、頼まれてたもの連れて来たよ~。」
「ん~。」と言いながら理沙が奥の部屋から出てきて言う。
「は?連れて来た?」
「うん、これがそう。」
「また「これ」扱いなのじゃ。」
「へ~、龍族かぁ。」
「な、この方も簡単に我を看破されるのか?」
「ちょっとごめん。」理沙はそう言いながら、ナーガの髪を一本抜く。
「ひゃん。」ちょっとした痛みに、ナーガがかわいい声を上げる。
「んじゃ、後は好きにしていいよ。」と言いながら理沙は奥の部屋に入っていった。
「「へ?」」涼音とナーガが同時に腑抜けた声を上げる。
「龍の髭(髪)は貴重なアイテムだからねぇ。」カウンターから起き上がり、伸びをしながら詩織が言う。
「それで充分じゃないの?」
「ふ~ん。そっか~。あ、これしー姉にお土産。」涼音がカウンターに不死の王の刀を置く。
「あ~、ハイベルト様の物になった刀の対のやつだね~。」詩織が鑑定して言う。
「でも、ハイベルト様は、もう2本持っちゃってるしね~。」
詩織が、刀を人差し指でつんつんしながら言う。
「しー姉、どうぞ。」
涼音は、カウンターの後ろからコーヒーを詩織の前に置き、もう一杯のコーヒーを口に運んだ。
「あの~、我はどうすれば良いのじゃ?」
「あ、まだいたんだ。」コーヒーを飲みながら涼音が言う。
「忘れ去られていたのじゃ。」
「もう帰っていいよ。」
「な、我は貴兄の下僕になったのじゃ、離れないのじゃ!」
「あー。涼音、拾ってきちゃったら、最後まで責任取らなきゃ。」詩織が言う。
「え~?」
「ふふ、猫娘に、エルフの王女、魔獣族の王女、侍の娘に今度は龍族の娘ねぇ。」詩織が楽しそうに言う。「涼音の愉快な仲間たちが、又増えたねぇ。」
「シー姉、人の事、蜂蜜好きの黄色い熊みたいに言わないで。」ぷうっと頬を膨らませて涼音が言う。
詩織はそんな涼音を見て、目を細めた。
「ただいまですう。」暫くして、シュワがレジ袋を提げて店に帰ってきた。
「シュワ、お帰り、あった?」
「ちゃんと人数分確保しましたぁ。」
「ありがと、ナーガもあっちの席に座って。」涼音がナーガに言う。
「わかったのじゃ。」と言いながら愛華達が座るテーブルの空いた席にナーガが座る。
「シュワ、皆に紅茶と「例の物」を。」ニマニマしながら涼音が言う。
「涼姉、ほんっとうに楽しそうです。」そう言いながらシュワが4人が座るテーブルに紅茶と「極上生クリーム入りシュークリーム」を置いた。
「涼姉から差し入れです。」
「ん?先程の物より二回りほど大きくないか?」そのシュークリームを見てキャラが言う。
「ええ、しかも何か白い物が降り掛かっていますね。」シャイナが続く。
「ま、まさか、これは伝説の。」愛華が言う。
(いや、伝説って何だよ。)涼音が心で突っ込む。
「この茶色い水と、岩のようなものは何なのじゃ?」ナーガは涼音を見て言う。
「まぁ、食べてみて。」
「「「そ、それじゃぁ」」」キャラ、シャイナ、愛華がそれを手にして口に入れた。
「「「はう!!!」」」三人がフリーズする。
「な、三人とも固まったのじゃ。」ナーガは驚愕しながら言う。
「我が邪魔だから、こ奴ら諸とも封印するつもりなのじゃ。」
「いやなのじゃー。」ナーガが涼音に突進するが、涼音はそれをひょいとかわすと自分の前にシュワが置いたシュークリームを口にする。
ナーガはそれを見て驚く。
「な、な、自ら?」
「うん、美味しい。」涼音はナーガを見て笑いながら言う。
ナーガが横を見ると、涼音がしー姉と言っていた人も、それを口にして幸せそうな顔をしていた。
「な、何かの呪術ではないのか?」
「えー?ただのお菓子だよ。」
「お菓子とは何なのじゃ?」
「食べればわかると思いますー」シュワが頬張りながら言う。
「シュークリームって言います。」
ナーガが席にいた三人を見ると、気持ちよさそうな顔をしてそれを食べていた。
ナーガは元の席に座ると、目の前のそれを手に取った。
(な、軽いのじゃ。)
(こ、これにかぶりつけば良いのか?)ナーガはそう思いながら、意を決してシュークリームにかぶり付いた。
その瞬間、ナーガの口の中に生クリームとカスタードクリームが溢れ出た。
(!!!!)
(何なのじゃこれは?)
(今まで経験した事のない甘味と言うもの?)
(脳天を突き抜けるような感覚じゃ!)
(他の三人が固まったのも理解できるのじゃ。)
(では、この茶色い物は?)ナーガが紅茶の入ったカップを取り口にする。
「熱いのじゃ!」
「あー、熱いから気を付けて。」涼音が言う。
「遅いのじゃ!」
そう言いながら、ナーガはカップをフウフウとてそれを啜る。
「つ!」
口の中がその茶色い物でリセットされる感覚。
(これは?)
ナーガは手に持ったシュークリームを口にする。
途端に広がる、至高の甘さ。
紅茶、シュークリーム、紅茶、シュークリームと口にする。
(何なのじゃ?これは。)
気が付くと手に持っていたシュークリームは無くなっていた。
(い、今まで味わったことが無い物なのじゃ。)
ふと見ると、目の前の3人は幸せそうな顔をしてその余韻に浸っている。
カウンターの涼音もそれを食べ終えていた。
(やはり、我はこのお方に付いていくのじゃ。)
ナーガはそう考えると、涼音の前に跪きその足に口付する。
「ななな、何してるのあんた?」涼音が狼狽して言う。
「決めたのじゃ、我は貴女に生涯の忠誠を誓うのじゃ、」
「いや、シュークリーム一個で忠誠を誓うって、安くない?」涼音が言う。
「いえ、あなた様に付いていけば面白き世界を垣間見えそうだと思いましたのじゃ。」ナーガが片膝をつき、右手を左胸に当てながら言う。騎士の誓いのポーズだ。
「涼音、冥利に尽きるねぇ。」ニコニコしながら詩織が言う、
「しー姉、他人事だと思ってない?」
「いやー、涼音は私の妹も同然だから、他人事とは思えないよ、」
(絶対に面白がってるよね!)詩織のニコニコ顔を見ながら涼音が思う。




