因果
マジャルダ王国、首都プラデヤ。
「はい、おしまいですよ〜」
エルリンは高齢の女性の処置を終えた。
「リン先生、ありがとうございます、ずいぶんと腕が上がるようになりました」
高齢の女性はエルリンに礼を言った。
「いえいえ、何か持ったり、手を伸ばす時は、ゆっくり動かすようにお気を付け下さいね」
エルリンは満面の笑みで言った。
エルリンは診療所の入り口の前で、高齢の女性を見送った。
入り口の横に、縦長の看板が掛けてあり「リンの治療院」と書かれている。
エルリンは入り口の診察中の札を、休診の表示に返して診察室に戻った。
「リン」
どこからともなくアンスが現れる。
「あ、アンス、お疲れ様」
エルリンがアンスに笑いかける。
「お前、何だか板についてきたな」
「こうしてると、誰にも疑われないわ」
エルリンが書類片付けながら話す。
「アストリッドとファフはどう?」
アンスを身を見つめながら訊ねる。
「あ〜、ファフナロッタもアストリッドも、計画は順調だと言ってたよ」
「それより、こっちのイライザ教団の連中が協力的なのはいいが、若干浮き足立っている、集会にはたまに顔を出してくれ、ラファエラ様の言うことなら聞くだろうよ」
アンスが椅子に腰掛けて話をする。
「そうね、あちこち顔を出さなきゃいけないわね」
エルリンは白衣を脱いで壁に掛ける。
「一緒にお昼食べない?」
「いや、行きたいけど、星の導き亭の動向も探っておきたい」
「そう、残念ね」
エルリンは淋しい表情を浮かべる。
リンの治療院は、出店が並ぶ表通りから一本入った通りにあった。
出店からいい匂いがして、エルリンがつられて匂いのする方に向かう。
豚肉の串焼き。
「うう〜ん、これはなかなか・・・」
エルリンはよだれが垂れそうになる。
「その串焼きを2本くれ」
エルリンより先に、エルフの女性が店主に注文する。
「おお、コルネリアちゃん、毎度〜、ちょっと待ってね」
店主は肉串にタレを塗ると、袋に入れる。
「コルネリア・・・」
エルリンがコルネリアの横顔をじっと見つめる。
ーーーミルトリア?いや、エルフだからそう見えただけよね
コルネリアが肉串を受け取って振り返ろうとした時、エルリンと目が合う。
「ここの肉串はオススメだ、まだ食べた事が無いなら、試してみるといいですよ」
コルネリアからエルリンに話しかけた。
「ええ、食べてみるわ!」
コルネリアが微笑んで、立ち去ろうとした。
「あ、あの!」
エルリンがコルネリアを呼び止める。
「ん?」
「良かったら、ご一緒に食べません?」
エルリンは満面の笑みで言った。
「あ、ああ、構わんが・・・すぐそこに私の工房がある、良ければお茶を入れるが?」
「それはありがたいです!是非!」
エルリンは肉串を購入すると、コルネリアと一緒に工房に向かった。
「君は、この街で何を?」
コルネリアが歩きながらエルリンに訊ねる。
「私はこの近くで、医者をしています」
エルリンが微笑みながら応える。
「ほう、医者か、私は医者と縁があるようだ」
コルネリアも微笑む。
「?」
エルリンは首を傾げる。
「ここだ、着いたぞ」
コルネリアが立ち止まった場所は、とても斬新な外装の建物で、派手な入り口の扉の上には「コルネリアの工房」と書かれていた。
「さあ、入ってくれ」
コルネリアが中に招き入れる。
「うわぁ〜」
エルリンは感嘆の声を上げた。
店内には、この世界では珍しい剥製が沢山飾られていた。
「これ、全てあなたが?」
エルリンがコルネリアに訊ねる。
「ああ、私の作品だ・・・お茶を淹れてくるから、くつろいでいてくれ」
コルネリアは店の奥に入っていく。
エルリンは工房内を見て回る。
「すごいわ、シュトラーダで一度見たことあるけど、比べものにならない躍動感だわ、ここが芸術の国だから?」
エルリンはコルネリアの作品に引き込まれながら、店内を歩き回る。
その瞬間、エルリンは足を止めた。
「これは!昆虫標本!」
ーーーこんな事が出来るの!?コルネリアという人物、すごい才能の持ち主なのね!
エルリンは何気に周囲を見上げた。
ーーー賞状?
「プラデヤ芸術賞」と書かれている。
ーーーホントにすごいのね・・・ん?コルネリア・アルベローネ・・・え?ライアールと同じ、苗字・・・まさか!?
「待たせたね、お茶を持ってきたよ」
コルネリアはトレーにティーポットとカップを乗せて戻ってきた。
「ん?どうたんだ?」
「・・・あ、いや、賞もらうなんてすごいなぁって、あ、そうそう、私はリン、リン・ファーよろしく!」
「ああ、こちらこそ申し遅れた、コルネリア・アルベローネだ」
コルネリアはトレーを置いた。
ーーーやっぱり、ミルトリアの面影がある、それに、アルベローネ・・・
「どうぞ、私オリジナルのブレンドティーなので、お口に合うか」
コルネリアはティーカップにハーブティーを注いだ。
「ん!?美味しい!この肉串、柔らかくてジューシー!」
エルリンは肉串を一口食べると、驚嘆して声を上げた。
「だろう!私は2日に一度は食べている」
コルネリアはドヤ顔で言った。
「偶然だが、私のブレンドティーがこの肉串にピッタリなんだ」
「では、いただきます」
エルリンはハーブティーをすする。
「美味しい!ほんと、すごく合う」
ーーーどこかで飲んだ味だ、とても落ち着くスッキリとした・・・・ロゼッタの・・・あの味?
「ど、どうした?串で口を切ったのか!?」
コルネリアが焦っている。
「え?え?なんで?」
エルリンは知らぬ間に、涙を流していた。
「あ、いや、これは最近忙しくて、この時間が嬉しくて・・・ごめんなさい」
エルリンは慌てて取り繕った。
「ふむ!分かる!その気持ち分かるよ!私もよく徹夜するので、疲れ切った時に食事が美味しいと、泣きそうになるよ!ハハハ!君とは気が合いそうだ!」
コルネリアは高笑いをする。
「ですよね、いやぁほんと美味しいです!」
エルリンは内心ホッとした。
「疲れた時、食べに行くならいい店を知っている、どういう料理が食べたいか注文すると、希望する料理を作ってくれるんだ」
「へぇ~!すごく興味あります、なんてお店ですか?」
「星の導き亭と言うんだ、この道を真っ直ぐ行って・・・」
ーーー星の導き亭
エルリンは途中からコルネリアの言葉が耳に入っていなかった。
ーーー因果、なのかなぁ
「そう、これだけの剥製作るには、医学の知識も必要なのでは?医者として興味あるわ」
エルリンは会話を少し誘導してみた。
「ああ、医学もそうだが、薬学や生物学も必要になるな」
コルネリアはハーブティーをすすりながら言った。
「医学はどこで学んだの?」
エルリンはさらに聞いた。
「両親が医者でな、その両親から学んだんだ、まあ、私は医学では足元にも及ばんがな」
「凄腕の医者ですか?私のライバルですね、ご両親はマジャルダに?」
「いや、隣国のハーデルだ、何でも向こうではライアール医院と言えば知らない者がいないとか・・・普段の父を見てると、そうは見えないんだがな」
「そう・・・」
エルリンは確信する。
ーーーハーデルにいたのね、でも、合わせる顔が無いわね・・・
「こんな立派な娘さんを持って、ご両親は幸せね」
エルリンは目一杯の笑みをコルネリアに向けた。
2時間ほど2人は話をした。
「今日はご馳走様でした」
エルリンは店の外に出た。
「いや、こちらも有意義な時間を過ごせたよ、ありがとう、また良ければ顔を出してくれ」
コルネリアもドアの外に出て、エルリンを見送った。
「ええ、必ず」
エルリンは不敵な笑みを浮かべた。
ーーーミルトリア、こんな私で、ごめんね。




