これが今の私
「隊長、中央隊は今のところ変化なし、順調に進んでいます」
モリスがヨルガンに報告する。
「・・・」
ヨルガンが正面を見つめたまま、不満そうな表情を浮かべている。
「どうしました?」
モリスが気になって質問した。
「・・・フッ、この作戦、おかしいと思わないか?」
「はい?」
「ヴァンパイアの鉱山に侵攻するのに、たったの7000の兵力、隊長クラスで実績があるのは私だけ、敵の情報も明らかに不足している・・・恐らく、始めから負け戦だったのでは・・・」
ヨルガンは苦笑しながら言った。
「薄々、思ってはいましたがね、仕事だと割り切って考えないようにしてました、皆そうです」
モリスはため息をついた。
「シュトラーダが戦争続きで、金に困っているの知っていた、国王や貴族に対して、体裁を取り繕う為だろうな」
「それで7000人の兵士を捨てるなんて、ケチなんだが太っ腹なんだか、わかりませんね」
モリスが呆れた表情をする。
「ランディルの希望を失って、本当の希望まで見失ったか」
ヨルガンが険しい表情で呟く。
「前方に敵!」
前衛の兵士の声が響き渡る。
「全軍、戦闘態勢!」
ヨルガンが叫ぶ!
「数は!?」
モリスが伝令をだす。
「敵数1!」
「何!?」
「あれは!悪食魔!悪食魔ラファエラです!」
シュトラーダ軍の五十メートルほど前方。
木々に囲まれた道の中央に、一人の影が立っていた。
無機質な白い仮面。
肩には巨大なウォーハンマー。
金色の長い髪だけが風に揺れる。
「……悪食魔だ。」
誰かが息を呑む。
「悪食魔ラファエラだ!」
「周囲に警戒しつつ、ラファエラを包囲し、撃退せよ!」
ヨルガンが号令をかける。
前衛の兵士が一斉にラファエラに向かって走り出す。
兵士達は後20mぐらいまで接近した。
ーーその瞬間。
前方の兵士達が次々に転倒する。
「何事だ!?」
モリスが前方の様子に気が付き、状況報告を求めると、間もなく返答が来る。
「広範囲の転倒攻撃!恐らく魔法です!」
「ちっ!妖精魔法か!うかつに近づくな!遠距離から矢で牽制しつつ接近しろ!」
ヨルガンが指示を出す。
エルリンが静かに左手を上げて、人差し指を立てる。
ーーーアンス、一の罠!
ゴゴゴゴゴ!
「何の音だ!」
ヨルガンが状況確認の指示を出す。
「ラファエラが後退!」
「罠だ!」
モリスが叫ぶ。
「前方より丸太が大量に転がって来ます!」
兵士の悲痛な叫び声が響く。
「散開して退避!」
ヨルガンが大声を上げて号令をかける。
丸太が兵士達を下敷きにしながら転がってくる。
巻き込まれなかった兵士の方が多いが、隊列が乱れ、現状がつかめない。
モリスが笛を鳴らして招集をかける。
「隊長! あのラファエラという奴は、何者ですか!?」
「こんな大胆な作戦……とても一人で考えたとは思えません!」
モリスがヨルガンの怒りに満ちた表情に言葉を詰まらせる。
「おのれぇ!ラファエラ!」
「隊長!声が!」
モリスには何かが聞こえたようだ。
ヨルガンは耳を澄ます。
「・・・悲鳴?」
ヨルガンは耳を澄ませた。
森の奥から、断続的な叫び声が聞こえる。
「・・・まさか!」
血飛沫を上げながらシュトラーダ兵が次々と宙を舞う。
「散開すれば、各個撃破がしやすくなる」
エルリンは小さく呟く。
ーーーん?少し集まってきた・・・。
エルリンは素早く左手を上げて、指を4本立てる。
「了解、リン」
アンスは高い木の枝の上にいた。
「命中率の低いこのスキルも、ここでは有効だぜ」
矢を何本も束ねて、魔力を込める。
ーーースプレッド・アロー
束ねた矢が1本になり、アンスはそれを弓で、下にいる兵士達目掛けて射る。
1本の矢が、放たれた瞬間、数十本の矢になり、兵士達の頭上に降り注ぐ。
「ぐあぁぁ!」
兵士達の悲鳴が森の中にこだまする。
混乱した兵士達に、エルリンが追い打ちをかける。
ギフトヴィントミューレが風のように弧を描くと、兵士達が断末魔を上げて吹き飛ばされる。
吹き飛んだ兵士達が、地面に叩きつけられた時、エルリンは瞬間移動のように、次の兵士を殴殺している。
「アハハハ!」
エルリンの高笑いが森に響く。
一人。
また一人。
ギフトヴィントミューレが振るわれるたび、兵士の命が奪われていく。
ーーーシャロン。
これが、今の私なの!




