あたしはアストリッドだ!
左翼に展開するシュトラーダ軍が、慎重に森の中を進んでいく。
「ピーハイン中隊長、敵はどれ程の兵力を有しているのでしょうか?」
「んなこたぁ知るか、そもそもヴァンパイアは昼間出てこれねぇ、もし昼間でも動けたとしたら・・・・う〜!考えたくもねぇや・・・・ん?止まれ!」
ピーハインが進軍を停止させる。
「何だよおい、この感じ、やべぇ匂いがプンプンしやがる」
ピーハインが何かの気配を察した様子だ。
およそ50m程先の大木から、人影が現れる。
黒い金属鎧にグレートメイスを持った、ティンテッドの女。
不敵な笑みを浮かべて、ピーハインを睨みつける。
「やあやあ!我が名はアストリッド、ヴァンパイア軍、毒蝶のラファエラ隊所属、ラファエラの1番弟子だ!・・・いや、ラファエラの養女・・・何でもいい!来いよ、遊んでやる!」
スローターメイスを肩に担ぎ、仁王立ちで相手を見据えている。
「んだぁ、あのガキ!1人で俺たちとやり合おうってか!?」
「おい!なめんじゃねぇぞクソガキ!」
ピーハインがアストリッドを挑発する。
「ガキ!?はぁ!?おっさん!テメーから先にぶっ殺すからなぁ!」
「おっさんだとぉ!俺はまだ20代だぞ!」
一気に頭が沸騰するピーハインを、副長がなだめる。
「中隊長!敵の挑発に乗らないで!」
忠告を無視してピーハインが続ける。
「この若さで中隊長だ!シュトラーダでは策士ピーハインなんて呼ぶ奴もいるんだ・・・」
「ちょっと、中隊長、それくらいで・・・」
副長が割って入る。
「くっそー、あの忌み子め!・・・包囲して、切り刻んでやれ!あのガキの首を持ってこい!」
「それなら我々が・・・」
ピーハインの後ろから声がする。
「おお、お前らやってくれるか」
「我が名は、首切りマーカル」
「我は、竜巻のクリストフ」
「我こそは、血のバラのエミリナ」
「サバイバー小隊・・・」
副長が少し渋い顔をする。
「手出し無用でお願いいたします、我々で仕留めれば、戦力を温存できましょうぞ」
マーカルが座った目を、キョロキョロさせながら、ピーハインに話す。
「おう、頼んだぜ!」
マーカルを先頭にクリストフ、エミリナがアストリッドに詰め寄る。
「なぁーんだ、あのおっさん、口だけなんだ、キャハハ!」
マーカルがレイピアを抜く。
クリストフがモーニングスターを両手に構える。
エミリナが格闘術の構えをとる。
「ちょっとは手応えありそうじゃん、楽しみ!」
アストリッドがスローターメイスを構える。
サバイバー小隊がアストリッドを取り囲む。
最初に動いたのはマーカル、目にも止まらぬ速さでレイピアを縦横無尽に操る。
アストリッドがギリギリのところで剣筋を読みながら、鎧で弾いていく。
そこへ、クリストフの軌道が読めない鎖付きの鉄球が、アストリッドの鎧の弱い部分を狙ってくる。
アストリッドが完全にカバーできず、体に痛みが走る。
「ぐぅ!や、やったな!」
さらに、エミリナのスパイクブーツを履いた長い足から繰り出される蹴りが、アストリッドを捕らえる。
一発では致命傷にならないが、足の関節や、脇腹に確実当ててくる。
「あいたた!へぇ〜、面白くなってきたじゃん!キャハハ!」
アストリッドが大声で叫ぶ。
「ふん!所詮はガキだ、サバイバーに勝てるかよぉ!なんだぁ、ヴァンパイア軍が強いなんてのは、ただの噂かよ」
ピーハインがアストリッドを挑発する。
「はぁ?」
アストリッドがピーハインの言葉に引っかかった。
ーーーリン、いつも優しくて強い、あたしの憧れ。
ーーーファフ姉、料理が上手で、体捌きを教えてくれる、優しい先生。
ーーーレミー先生、口は悪いけど、魔法は誰よりも知ってて、教え方が誰よりも上手。
「アストリッド、あなたの戦い方は、あなたしか出来ない、そのスタイルのまま、練習を続けなさい」
ーーーリン!
マーカルのレイピアをガントレットで受け止める。
「アトリは目がいい、敵の動きをよく見て、その鎧でダメージを最小限に出来ます、あなたはいい戦士になれますよ」
ーーーファフ姉!
クリストフのモーニングスターを肩当で弾く。
「アストリッド、あなたはバカですわ、でもバカはバカなりの鍛え方がありますわ、ちょっと厳しくしますが、ついて来るのですよ」
ーーーレミーおば・・・いや先生!
エミリナの蹴りを膝当で捌く。
3人の攻撃を、アストリッドが同時に受け止める。
「・・・おい!あたしはいい、バカだから・・・でもな、家族を、家族をバカにすんじゃねぇ!」
アストリッドが激昂すると、角が肥大して体中に魔力が集まる。
「うるぁああ!」
スローターメイスが、まるで暴風のように荒れ狂い、森の木々すら震えるほどの一撃が放たれる
バキッ!
「うわぁ!」
マーカルのレイピアが叩き折られる。
クリストフの振り回したモーニングスターを、スローターメイスで打ち返す。
打ち返された鉄球が、クリストフの右肩に直撃する。
「なにぃ!」
エミリナの蹴りをワザと受けて、足を肩に乗せたまま、スローターメイスで足を叩き折った。
「ぎぃやぁぁぁ!」
エミリナが足を押さえてのたうち回る。
「おいおい!あのティンテッド、何もんだ!?」
ピーハインが驚愕し、声を荒げる。
「おい、おっさん・・・あたしは絶対負けない、信じてくれてるんだ、大切な人が、たとえ手足が千切れても、ここは通さない、キャハ!あたしはアストリッドだ!」
アストリッドは鬼のような形相で、シュトラーダ軍を威嚇した。
兵士達が一瞬萎縮して、後退りする。
「だが、多勢に無勢だったな嬢ちゃん!包囲して叩き潰せ!」
ピーハインが力強く兵士達に指示を出す。
「バカは、そっちだよ、キャハハ!」
アストリッドがほくそ笑むと、指を口に入れた。




