過去は戻らない
「・・・うん、ブルディナ産のワインは美味しいですわ、やはり落ち着いた土地でのびのびと・・・」
レミーが自室で、ワインのうんちくを一人で語っていると、キュルスが慌てて入ってくる。
「レミー様!」
「なんですの!?騒がしい!せっかくのワインが・・・」
「ランドールの希望が死にました!」
キュルスが慌てた様子でレミーの部屋に入る。
「な!」
レミーがワイングラスを落としそうになる。
「それは、本当ですの?」
「遺体が出てないので、何とも・・・」
「ちょっと、臭いますわね」
レミーが顎に手を当てて考える。
「偽装工作ですか?」
キュルスが、レミーをジッと見つめながら言った。
「もっと詳しく調査なさい、それと、ラファエラには詳細がわかるまで、言ってはいけませんわよ」
「御意・・・それと、もう一つ重要な情報が」
「なんですの?」
「シュトラーダが攻めてきます、目的は鉱山の略奪です!」
「な!?それが先でしょう!あなた、たまにそういうところありますわよ!しっかりしなさいな!」
キュルスは縮こまって、ひたすら謝っていた。
人間牧場の集落。
「リン、牧場は安定して来ています、生活基盤が出来て、人族が文化的な生活を送っています」
ファフナロッタが農作業をしている人族を見ながら、エルリンに報告する。
「いい感じね、報酬と刑罰のバランスもいいみたいね」
エルリンは微笑みながら、話を続ける。
「法を犯したものは、ブラッドサッカーに、優秀な者はヴァンパイアになるか、贅沢な暮らしと引き換えに、血を差し出す、どれも意外とハマってるようね」
「下手に隠すより、メリットとリスクをハッキリさせた方が人族は考える、リンの考えどおりですね」
ファフナロッタがエルリンを素直な気持ちで褒める。
「ファフ姉ー!」
後ろからアストリッドの声がする。
「どうしたの?アトリ」
ファフナロッタが振り向きながら応える。
彼女はアストリッドの事を、略してアトリと呼ぶようになっていた。
「あ!リンも来てたんだ、ヤッホー!」
アストリッドが嬉しそうに手を上げる。
「そうそう、なんかね〜、変なジジイがメニスとかいう村の牧場にいた親子を、知ってる者がいないか探し回ってるんだけど、うっとおしいから始末していい?」
「え!?ちょっと待ってアストリッド、その人はどこ?案内して!」
エルリンは険しい目をして、アストリッドに言った。
「う、うん、こっちだよ・・・」
アストリッドは訳もわからず、エルリンを案内した。
「あのジジイだよ」
アストリッドが指差す。
エルリンがみすぼらしい服装の老人に駆け寄る。
「そこのあなた、私はリン、あなたお名前は?」
「わ、わしは、ギュースタフ・ミリーと申す者、メニス村が賊に滅ぼされたと聞いて、妻と娘が心配で・・・」
エルリンは驚いた、この老人は恐らくロゼッタの夫だった人物だと。
どう伝えるべきか混乱していたエルリンだったが、本当の事を伝える気にはならなかった。
「あの村の住人は、全員殺されたと聞いています、それに、あなたはゼルギアにいたのでしょう?帰ろうと思わなかったのですか?」
エルリンは険しい表情で睨みつけた。
「そ、その、私、魔法使いだったのを、貴族に利用されて、デーモンサマナーとして拘束されてました」
ギュースタフはおずおずと答えた。
「・・・・もう、忘れなさい、過去は戻らない、ここで普通に暮らしなさい、わかったわね、次騒いだら、罰を与えます」
ーーーロゼッタ、ごめんなさい、こうするしかないの。
エルリンは心の中で呟いた。
すると突然、村の鐘が鳴り響いた。
武装したレミーが、プロトヴァンパイアを数名引き連れてやって来た。
「レミー、何事なの?」
エルリンは驚きのあまり、上ずった声でレミーに訊ねた。
「・・・戦争ですわ」
レミーの瞳が真っ赤に染まっていた。




