おそらく、異世界を救った後の勇気(ざまあ)炸裂……した後の話
あー……と、まあ、はい。
来ましたよ。ウチの村にも。
ナローマン・勇気さんが。
魔王を倒した英雄、って気づいたのは……丁度、アレが殺られるかなーってくらいの時でしたけど。
えーと、そうです。村の若い女に節操無く手ぇ出してたやつがいたんですよ。
確か、村長の息子の……ジョン……だったっけかな?
いや、正直記憶に残しておきたくないんですよね……あいつの事。
本当にろくでもないヤツだったんで。
男衆からは普通に敬遠されてましたけど、面は良かったし、女相手に取り繕うのだけは得意でしたから……女ウケは良かったみたいですよ……まあ死んだんですが。
ナローマン・勇気さんに、アイツが手出してた浮気女諸共、殺られるくらいにはアレなことをやってたみたいです。
実際、村の男連中からは……村長含めて、だーれも庇いませんでしたから。
それどころか、ざまあみろ、くらいの事は普通に言われてましたね。
殺られなかった女連中は顔真っ青にして、妙に大人しくなりました。
とくに幼馴染のアイツとか……なんか最近、やたらべたべたしてくるんですけど、何なんでしょうね?
あ、はい。元々、ウチの村には何て言いますか……オレに与えられた、女神様のフリをした邪神の半身?に与えられた呪いを回収というか、消滅させるために来たらしいんで……そのついで、って事みたいです。
何か、邪神の品物を貯めたポイントで売買できる……みたいなヤツだったらしいんですけど……
いや、一度も使わなかった呪いですし、もう無いからどんなもんが手に入ったのか、とか……詳しい仕組み?とかはもうわからないですね。
ああ、はい。びっくりしましたよ。いろんな意味で。
なんていうか……あの英雄が指で、ひょいって摘まんで、軽く俺の身体から呪いを引っこ抜いて、ぐしゃ、って握りつぶして消しちゃったんで……もう持ってないんです、呪い。
オレもそんな呪い押し付けられてたなんて、言われるまで気付かなかったんですけど……正直助かりました。
邪神の品物なんてロクでもない代物に決まってますし……
もし何かのはずみで、呪いの存在に気づいて……手を出してたら、と思うと正直、ぞっとしますし。
……これで良かったんですよ、きっと。
でも、いやーすごいですよね。
どういう仕組みであんなことできるんだか。
流石、勇者でもないのに、邪神のもう半分と融合した魔王を倒しちゃっただけありますよねえ……
え?……まあ、基本的にはいい人ではあったと思いますよ。
近隣で暴れてた魔物とかも倒してくれましたし。
後は……そうですねえ。
魔王を一緒に倒したらしい旅の仲間の一人……カインさんのことを物凄く気にかけてました。
『彼とは深い魂の絆で結ばれていたが、人として当たり前の幸せを掴んで欲しいとも思っているから、魔王を倒した後、涙を呑んで別れた。
どんなことがあっても、決して裏切らない女性を見つけ、幸せな家庭を築いてほしいものだ』
……とか言ってましたし。
まあ、オレの呪いみたいな……邪神が残したあれこれを残さず潰すまでは、この世界に残ってくれるそうですから。
いやー、英雄ってああいう人の事を言うんですね!
◇
王都にて、この国の第一王子たる私は、部下の定期報告を受けていた。
「……と、いう訳で。相変わらず英雄殿は……その、大いに活躍()されておるようですな」
「そうか……」
ふう、とため息が漏れる。
この国を継ぐものとしては、威厳に欠ける振る舞いではあるが……公の場という訳でもなし。
部下がそれを咎めるようなことはなかった。
いや、何なら部下も似たような心境だったのかもしれない。
邪神の遺した欠片を始末してくれていること自体は……まあ、ありがたい話ではある。
不貞を働いた者達を成敗することも……その、間違いとは言い切れない。
もう少し手順を踏んでくれ、と思わないでもないが、それを彼に求めても無駄だろう。
勇気や正義を口にはするし、実際それも強く重んじてはいるのだろう。
あの、カインという青年に対する一方的な友情(?)にしても、まあ最終的には、真っ当な形での幸福を願うような言動も見せた。
ただ……彼の価値観は、根本的なところで、我々とはズレがある。
不貞行為の抹殺……いや、滅殺の優先順位が、最上位にあり、多分それは誰が何をしようと動くものではないのだろう。
今回の報告を聞く限り、事が起きる前であれば見逃してはくれるのだろうが、一度実行に移されてしまえば………それがどんな理由であれ一切の容赦はない。
「まあ、おそらく邪神の欠片の全てを葬り去れば……
この世界を去る、というのも嘘ではないだろうからな。
これからも、監視と報告だけは続けてくれ。
分かっていると思うが、決して手は出すなよ」
私の言葉に、御意、と頷く部下。
まあ、しないとは思うが……本当に余計な真似は辞めて欲しい。
事実上、邪神と魔王の融合体すら正面から葬り去ってしまえる、(一応、切り札である、『超絶勇気合体』なるものを使用したらしいが)彼をどうこうできる戦力など、この地上のどこにも存在しないのだから。
一時期、邪神の策略により、その座を追われ……転生体として、市井の少女という形で逃れていた……今は、復権した女神様でさえ、遠回しに、自身でさえ彼には遠く及ばないと認めていた。
彼等が最初に王都に訪れた際、紆余曲折を経て、女神様が魔王退治の度に同行した際に、彼の力を目にした結論であるそうだが……仮にも、一つの世界を統括する神すら上回る力を持つとは、一体どうなっているのか。
ましてや、彼と同等の力を持つ同胞が集まるという、異世界とは一体……?
きっと、恐ろしい程の魔境に違いない。
「まあ、あと少しの辛抱の筈だ……多分」
それだけ言って私は、また深く、深く……ため息をついた。




