割と本気で悩んでいる、裏で奔走する者たち
どこにであるような、とある事務所。
そこで二人の男が、今まで、何十、何百と繰り返してきた……ある、案件についての後処理について報告を済ませていた。
「……えーと、次の『N』案件ですが。
こちらでもマークしていた……神の力を持っているとか自惚れてた能力者が、いつものようにぶち殺がされてたみたいです」
「ああ、うん……たしか、十代のガキだっけ?そいつ。
局所的な現実改変か、洗脳能力だか持ってたらしい……とかなんとか資料には書いてあるけど」
「はい。何かまあ、転校生という体裁で、侵入した高校で調子に乗っていろいろやってたみたいですが……まあ、最後はいつも通り。
ナローマン……暴力?に泣いて鼻水たらしながらした命乞いの最中に……『二十倍ナローマンブラスター』で、教室ごと消し飛ばされたとか」
報告の内容に、どこから突っ込めばいいのかわからないのはいつもの事だ。
だから、上司らしき男は……なるべく単純に、新たに判明した事実のみに絞って尋ねる。
「えーと……また増えたの?『N』」
「みたいですね」
僅かな静寂の後――ふう、とため息をついたのはどちらだったのか。
同一個体が別の姿をとっているのか、もしくは元より別の個体なのかははっきりしないのだが。
猿、医者、正義、黄金、白金鋼、巨人、忍者、歌手……この地球には、ナローマンと呼ばれる個体が異なる名前と姿で能力をふるうケースが、無数に観測されている。
自らそう名乗った個体も、或いは被害者やら何やらに、畏怖を持って命名された個体も。
ぽんぽんぽんぽん増えていく。
――いやこれ正直どうしろと?
「……あの、これはあくまでも個人的な意見ですが。
『N』の存在は……もう、世間に公表しちゃってもいいんじゃないでしょうか」
どこか疲れ切ったような部下の男は、そこで言葉を切る。
どうも、自身の反応を待っているらしいと気付いた上司らしき男は、続けて、と言葉を促した。
「ええと、その……今までの事例からすると、被害者が自分で報復して……それが邪魔されなかったりすれば、とりあえず『N』のほうからそれ以上動くことはないんですよね?
だったら――」
「まあ、言いたいことはわかるよ。
でも上の方は……本当に隠し切れなくなって、どうしようもなくなるまでは……現状維持に努めろ、っていうだろうな」
「……責任とりたくないからですか」
「今からトンズラ決め込む準備まで始めてるやつもいるもかな。
何なら俺もすぐ逃げたい」
結局のところ――保身である。
いつか必ずやってくるだろう、世間への全バレによる敗戦処理を、自分以外の誰かに押し付けられないものかと、上の上に収まっている連中は、今頃必死になっているのだと、上司らしき男は吐き捨てた。
国家としてのメンツとか、アレとかコレとソレとかの――あからさまな利権構造の崩壊とか、下手をしなくても私刑が横行して治安が崩壊するとか、肝心のナローマンがどう動くかわからないとか――あまりにも、あまりにもデカすぎる核地雷がてんこ盛りだ。
後は……まあ、ナローマンの存在が地球にとって、少なくない利益をもたらしているというのも、更に事態をややこしくしている。
例えば――先の神気取りの能力者にしても、既存の治安機構、軍事組織だけで排除を試みれば、かなりの犠牲を――それこそ、ナローマンがもたらした以上のそれを、覚悟しなければならなくなっていただろう。
頭は悪く、下種な性根の持ち主ではあったが能力だけは本物だった――らしい。
それが、こうもあっさりと排除されたのはナローマンが常軌を逸する戦闘力をもっているからだ。
というか、ナローマンに今まで消された輩の中には、神気取りの能力者など比べ物にならない程強大な力を持った怪異やらなにやら――まで含まれていた訳で。
「……本当に『N』ら、なんでこんなことやってるんだろうな」
「それがわかれば苦労しませんて」
何にせよ、宇宙は広い。
だから、その中にはNTRやBSSが絶対悪のような扱いを受けている文明があっても――まあ、可笑しくはないのかもしれない。
(転職先、探したほうがいいのかねえ……)
上司らしき男は、割と本気でそんなことを考えたりしたが——それが叶うことは、当分はなさそうである。




