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【第31話 襲撃! 転生勇者軍団!!】

 霧の深い朝だった。

 停留所「魔王場前」にいつもの乗合馬車が止まり、勇者(男)、戦士(男)、戦士2(女)、魔法使い(女)、賢者(オカマ)の勇者パーティがこぼれ落ちるように出てくる。

「やっと出られた」

「定員オーバーなのよ」

 開放感に手足を伸ばす彼らに続き、重い鎧の音を響かせて馬車から人が次々と降りていく。明らかに勇者達より強力な装備で身を包む戦士達。

派手な装飾を施した杖を手に、化粧の濃い見るからに「強力な魔法使いでございます」という女。馬鹿でかい数珠を首に巻き、大ぶりな金棒とドラにしか見えない盾を手にする男。共通するのはみな身を包む鎧が黄金色ということだ。

「なるほど、ここからでも魔力を感じ取れる。奴が魔王の中でもかなり強大な部類に入るのは確かなようだ」

 そう言うのは王冠を模した兜、偉を○で囲んだ刺繍の入ったマント金色の鎧に身を固めた30過ぎに見える男である。他のメンバーとはひと味違う風格で、こいつがリーダーのようだ。

 ずらりと並ぶ黄金聖勇者パーティ。総勢12名。

「さあ、案内しろ。負け犬パーティ」

 戦士の1人に小突かれ、不満顔の勇者達は文句ひとつ言わず彼らを魔王城に案内していく。

 しかし、魔王城正門は、まだ開場時間前のため固く閉ざされている。

「開場時間までまだ時間がありますから、コーヒーでも飲んで待っていましょう」

 慣れた手つきでコーヒーの用意をする勇者達。だがそんな態度を黄金聖勇者たちは馬鹿にしたように笑い

「そんな相手に合わせた戦い方をしてどうするのよ」

 化粧の濃い魔法使いが呪文を唱え始める。勇者パーティの魔法使いより数倍はでかそうな光の玉が彼女の頭上に生まれ、バチバチ火花を散らしている。慌てて魔法使いが

「ちょっと! 私らの報告書読んだ!?」

「負け犬の戯れ言など読む必要ないわ!」

 忠告を無視した化粧の濃い魔法使いが特大の魔法の玉を正門にぶつける!

 キィン! 甲高い音と共に魔法の玉は反射され、化粧の濃い魔法使いを直撃した。

「当時は私もまだ未熟で魔法の威力自体低かったから、焦げる程度で済んだけど……」

 ため息をつく魔法使いの目の前で、化粧の濃い魔法使いは魔法を放ったポーズのまま灰となり、風に飛ばされていった。死亡。


「魔王ボンキュボン。こんな3流勇者を相手に粋がっていたようだが、それも今日までだ。真の勇者たる我々がお前を打ち倒してくれる。だが我々にも慈悲がある。素直に敗北を認め、魔王城の全てを差し出し、我が国王タクロース17世の愛人となるなら命は助けてやろう!」

 魔王城中庭。総数11名の黄金聖勇者たちを前に、ボンキュボンは眠たげに大あくびをした。

「すまんが今日、私は休みでな。日を改めてくれ」

 今の彼女はいつもの貝殻ビキニにスケスケ服ではない。あじフライ、エビフライ、コロッケ、とんかつなど様々な揚げ物の模様が描かれ背中にでっかく「定休日」の文字が書かれたピンクのパジャマを着、今は亡き連れ合いがプリントされた抱き枕を抱えている。

「それに私を倒すのはそいつらの仕事ではないのか?」

 寝ぼけ眼のまま、隅のベンチに座ってコーヒーを飲んでい勇者達を指さす。今回、彼らは完全に見物モードだ。

「そいつらはクビになった。先日、国王の命を守れなかった罰だ」

 先日、タクロース17世は赤ちゃんルックのままボンキュボンに瞬殺された。詳しいことは第30話「お母さんと呼ばれたい」を参照のこと。

「あれか……蘇生は出来なかったのか?」

「蘇生はしたが、今の陛下はレベル1だ! メイドのお尻をなで回すことすら満足に出来ない」

「今のと言われても、あいつの人間性は死ぬ前からレベル1だぞ」

「それ以上の陛下への侮辱は許さん!」

 黄金聖勇者達が一斉に愛用の武器を構えると、力強いオーラが彼らのみを包む。それを見たボンキュボンの目にわずかながら力が宿り

「……確かにあいつらよりは強そうだな」

「行くぞ」

 両腕がドリルになった黄金聖勇者の1人が大ジャンプ! 高速回転するドリルを突き出しボンキュボンめがけて突撃する。

 一陣の風が吹き、横から飛ばされてきたグースカ・ピーが彼女にぶつかる寸前の黄金聖勇者に激突、2人はそのまま地面に転がった。

「間に合いましたわね」

 エリザベス・マイマイが巻髪を撫でながらやってくる。彼女がロールヘアー・トルネードでピーを飛ばし、黄金聖勇者にぶつけたのである。

「荒っぽいですよ」

 泥を叩きながらピーが立ち上がり大あくび。一応仕事中の自覚はあるのか、忍者を思わせる黒装束姿である。

「何を言っているんですの。警備隊長として身を張って魔王さまを助けるのは当然ですわ。せめて連中の3/4ぐらいは引き受けなさい」

「やですよ。面倒くさい」

「邪魔をするなら、まずお前達からだ!」

 とっさに起き上がる黄金聖勇者がドリルを回転させ、エリザベスに突撃する。まさか自分に向かってくるとは思わなかったのか、エリザベスの反応が遅い。だが、ドリルの先端が彼女の顔に触れる1メートル前、割って入ったピーが寝ぼけ眼のままそれをしっかと捕まえ、握力で瞬時に回転を止める。

 驚愕の黄金聖勇者を前にピーが「猫ぱんち」とつぶやきドリルを話した拳で一撃!

 黄金聖勇者はそのまま魔王城の城壁を飛び越え、遙か彼方へ飛び去り、星になった。キラーン!

「部下もなかなかの手練れを揃えているようだな。簡単に勝たせてはもらえないか」

 黄金聖勇者のリーダーが前に出る。

「だが自惚れるな。今、貴様らに倒されたのは我々の中で1番の小物!」ドヤ顔で胸を張り「何を隠そう、我々は、神の導きにより異世界よりこの世界に転生した存在。かつての世界での知識、経験、能力をそのまま引き継ぎ『強くて再人生』を歩んできたものなのだ」

「そういうのを『ずる』と言うのだが」面倒くさそうにボンキュボンは眠たげに頭をかきながら「神の導きだか何だか知らんが、自分の努力とは関係なく手に入れたものをドヤ顔で誇るのはどうかと思うぞ」

「黙れ! 我々の2度目の人生力を思い知らせてやる。冥土の土産の教えやろう。この私は前の世界では……ひよこの鑑定士だった! 俺の前では誰であろうと性別を偽ることなどできん」

 胸を張る黄金聖勇者の前、ボンキュボンたちに微妙な空気が流れた。

「この俺は第一級のCGデザイナー! どんなグラフィックでも描いてみせるぜ!」

「私は偉大なる予言者。私には見える。この地には50,000年以内に震度1以上の地震が起こるだろう」

「俺は大食い選手権3年連続優勝者だ。さあ、たっぷり食い物を用意しろ。全部食べてやる」

「私は有名な天文学者。冥王星に関する知識ならまかせなさい」

「重機の扱いなら俺に並ぶものはいない! クレーンでトランプタワーが作れるぞ!」

 ……黄金聖勇者たちが名乗る度に魔王達のテンションが下がっていく。

「みんな元の世界ではすごい人達なんだろうけど、魔王様討伐にはちょっと……。冥王星ってなに?」

「神様にどうしてこの人達を選んだのか、聞いてみたいね」

 野菜人や果実人たちが呟き合う。その間も黄金聖勇者達の自己アピールは続く。

「私は俳句で最優秀俳句賞を3回もらいました」

「俺は闇バイトで受け子をしていた!」

「私は植木職人でした。盆栽作りなら自信があります」

「僕はただのパティシエ……お菓子作りの職人だった」

 途端、眠たげなボンキュボンの目が光を宿し見開いた。

「まて。そこの元パティシエ、名前を聞かせてくれ」

「……カンミだ……カンミ・クリーム」

「どんな菓子を作っていた?」

「どんなって、よくある洋菓子だ。プリン、ショートケーキ、シュークリーム、エクレア。味には自信はあったし評判も良かったが、商売が下手で店を潰した……絶望して首をくくったところでこの世界に転生したんだ! ちくしょう!」

 彼にとっては忘れたいが忘れられない人生なのだろう。半ばヤケになって叫ぶ。

「菓子の作り方は今でも覚えているか?! 覚えていたら作ってみてくれ。材料はある! お前の世界とはちょっと違うかもしれないが」

 ボンキュボンの提案に、カンミは目をぱちくりさせた。


 魔王城食堂。テープルいっぱいに並んだスイーツ。野菜人・果実人をはじめ魔物達がそれらを頬張り、小躍りしている。

「お菓子だお菓子だ。あなたはお菓子の神様だ!」

 黄金鎧にエプロン姿のカンミを、口の周りにクリームをつけた魔物達が囲んで感謝の言葉を告げている。

 他の黄金聖勇者達と勇者パーティは、予想外の展開にただ唖然としてその様子を見ている。

 自分の作ったお菓子を笑顔で頬張る魔物達を前に、カンミに転生前の記憶が甦る。

 作った菓子を店内のイートインで口にし、楽しそうにおしゃべりする女子高生。バースデーケーキに目を輝かせる子供。プリンを口にし静かに微笑む老婆。それはまだ店が傾く前の幸せな時間。

 カンミの目からギラギラした力が抜け、柔らかな、春の木漏れ日のようになっていく。

 そして思い起こす勇者として転生してからの日々。魔物を打ち倒し、とどめを刺す。野獣の首をはね、毛虫のようなモンスターを踏みにじる。それらは全て他の生き物を傷つけ、命を奪っていく日々。勇者の力が向けられた魔物に笑顔はない。あるのは恐怖と死だけだ。

 だがパティシエの力が向けられた魔物達は笑顔になる。幸せな気持ちが生まれる。

 いつもの服装に着替えたボンキュボンが口の周りについたクリームを指で拭い、舐め落とすと

「我が城は洋菓子系が弱点でな。お土産屋で出すソフトクリームが限界だ。改めてお願いする。カンミよ、我が魔王城でパティシエとして働き、皆を笑顔にする菓子を作り、希望する魔物達にその力を伝えてほしい」

 深々と頭を下げた。

「惑わされるな。魔王の言うことなど信じるに値しない。俺達は勇者なんだ!」

 黄金聖勇者達の言葉がカンミの耳に届くが、それよりもパティシエとして生きた前世の記憶が強かった。

 彼の身体を包んでいた黄金鎧が、チョコスプレーのように細かく崩れ、消えていく。後には白いコックコート姿のカンミが残った。

「僕は、お菓子が作りたい……」

 ボンキュボンがカンミの手をそっと取り、温かく包み込むように握りしめた。

「おのれ、こうなったら我々だけでも魔王を倒す!」その様子に残った黄金聖勇者達が武器を構え「魔王を倒す栄光と魔王城の金目のものは全部我々のものだ!」

 その気迫に後ずさるカンミ達を守るようにボンキュボンが前に1歩踏み出す。

「わかった。私が相手になろう。ここでは周りに迷惑だから外に出ろ」

 だが黄金聖勇者達は

「そうか、ここならばお前は周りの被害を考えて実力が出し切れないんだな。よし、ここで戦うぞ!」

 その言葉に周りの非戦闘魔物達がびっくりした。慌てて警備隊の魔物達が彼らを食堂の外に避難させる。

「周りの魔物達を倒して魔王の気を逸らせ!」

 リーダーが叫びつつ剣を振るう。強烈な剣圧がお菓子を手にした野菜人、果実人達を襲うが、それが命中する前に勇者が割って入った。

「勇者さん!」

 野菜人たちの前で勇者が剣圧に吹っ飛ばされ、天井に、床に、さらに壁にたたきつけらる。身につけていた鎧が砕け、崩れた壁の破片に埋もれる。野菜人達が驚いて勇者に駆け寄る。黄金聖勇者のリーダーは倒れた勇者の姿を鼻で笑い

「お前、敵である魔物をかばうとはどういう了見だ⁉」

 崩れた壁をどかされ、野菜人達に抱き起こされた勇者は

「……俺たちが戦う相手はボンキュボンだろう。前は俺たちも手当たり次第にこいつらを襲っていたが、それよりも戦わず体力魔力一切消耗していない状態でボンキュボンに挑んだ方が良いと考えるようになった」

 その言葉に唖然とするボンキュボンは、静かに表情を和らげ、勇者を、他のメンツを見回した。

 ボンキュボンは黄金聖勇者達に向き直ると、厳しい目つきに変わり、静かに胸の谷間から愛用の堕聖剣ナディバイスを抜く。ピーや警備隊の面々もその後ろで戦闘態勢を取る。さすがにピーの目からも眠気が飛んでいる。

「お前達に言っておく」は黄金聖勇者達を見据えたまま勇者パーティを指さし「私はあいつら以外の人間に倒される気は微塵もない」

 3分後、黄金聖勇者達は全滅した。


 こうして、魔王城にメイに続く2人目の人間が就職した。

 カンミ・クリーム(異世界からの転生者で元・黄金聖勇者)。25才、男。業務内容・スイーツ作成及び希望魔物達へのお菓子製造法伝授。


(おわり)


 黄金聖勇者、黄金の鎧に身を包んだ12名ということからピンと来る人も多いでしょうが、聖闘士星矢が元ネタです。カンミの鎧は以後「甘味鎧(スイーツ・クロス)」と呼ばれることになります。と言ってもまだ次の出番が来ていませんが。ちなみに甘味鎧は装着前は大きなホールケーキの形をしています。

 魔王を倒すために、神様が主人公を死んだ直後に勇者として呼び寄せるというネタ。時々見ますが、私が気になっているのは、どうして元の世界の人ではなく、よその世界の人をわざわざ呼び寄せるのか? 元の世界で頑張っている人に力を貸すほうが良いじゃないかと思うんですけどね。

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