18弾き目.ニムエ村
女性物の衣装を考えるのが、最難関でござる
大きくはないが、決して廃れていない村。村の真ん中に聳え立つ大きな風車が特徴的なニムエ村。
鍛冶の国フォルジュロンに近く位置するこの村は行商人もよく使うらしく、俺ら旅の者を快く受け入れてくれた。
俺たちはまず、宿をとる事にした。お腹が鳴ったが、村の人に早めに宿取っときと言われたからだ。案内して貰った宿屋に俺たちは移動した。
しかし、案内された古めかしい綺麗な木造づくりの宿は二部屋しか空いておらず、女将には、
「なんなら一室でもいいわよ」
とニヤニヤしながら言われたが、丁寧に断った。
俺としても意中の人以外と関係を作る気は無いし、何よりヘレンさんが顔を真っ赤にしてしまったからだ。あ、師匠が悪い顔してる。絶対、後でからかうんだろうなぁ。
「騎士さんに魔法使いと、吟遊詩人かい。なんともまぁちぐはぐなパーティーだねぇ」
「客の素性を調べるとは、些か許された行為ではないが?女将」
師匠が思ってもなさそうなことを口にする。ていうか師匠、魔法使い設定かい。女将は職業柄でねと肩を竦め、俺の方になんともまぁ切ない瞳をうかべた。
「頑張るんだよ...! 坊や......!」
「え、なんの事?」
女将は親指上げてるし、師匠は口抑えながら笑ってるし、ヘレンさんはそっぽ向いて耳を赤くしてるし、え、どうゆう状況?
訳が分からないが、とりあえず俺達は次に女将に言われた食事処に訪れる。
白いコンクリートかなんかで出来たような中ぐらいのお店。店に入る前から漂う匂いに俺の食欲は刺激されていく。木製のドアを開けると元気のいい声が響いた。
「いらっしゃい! 何名様?」
俺と同い年ぐらいの薄い緑色の髪の毛が目立つ女の子と、奥のキッチンの所に立つ強面の金髪少年。ふむ、ここは二人で回転してるのか。しかし、かなりのお客さんがいるけど、よく回せるなぁ。
「三人でお願いします」
「はいよー! 窓際、三名ごあんなーい!」
窓際に移動された俺達は、メニューをマジマジと見つめる。そして出されたコップを飲みながら、ようやく一息着いた。ヘレンさんもそうだけど、俺達も死闘の後にここまで移動した。モルガンを殺して、ダンジョンから出てまだ1日も経っていないのだ。
体力も精神も、もうヘトヘト。
「なぁなぁ我が弟子。どれがいいと思う?」
脇をつつきながら、体を寄せる師匠。疲れ吹き飛んだわ、可愛すぎて。
でもなぁ俺も王国で、出されたやつ食べてただけだし。文字が読めるとは言っても、よく分からん単語のメニューに変わりは無いことで、どうしたものか。
そうこう考えていたら、目の前のヘレンさんが大きなメニューをかざしながら注文した。
「店主さん。このメニューここからここまでを。ああ、ここからここまでは二皿と、デザートは4皿ずつでお願いしますー」
「はいよー! りっくんー大量よー! 」
「ケイト、任せろ」
俺と滅多に驚かない師匠までも、驚愕に顔が固まっていた。ヘレンさんはその様子に気づくと、少し頬を染めながら言葉をかける。
「だ、大丈夫ですよ。貴方たちとも、少し分け合います! す、少しですが......。」
うっそあの量に俺らの含まれてないの?俺と師匠は、顔を合わせ、なんでこのヘレンさんが金欠状態なのかを思い知ったのだった。
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続々と運ばれる料理を余すことなく平らげていく姿はもういっそ清々しいとさえ俺は感じた。しかも食べ方すげぇ綺麗だし、どこにそんな量が入っているのか分からない。やべぇ、この世界やべぇと改めて痛感する。
ガヤガヤと騒がしかった店内には、俺らしかもう残っていない。
そして最後のデザートを名残惜しそうに食べたヘレンさんは、恐ろしい事を口走った。
「今日は腹八分目で止めておきましょうか」
ほんっと何だこの人。一周回ってもう面白いじゃん。そして息を着いたあと、少しだけ優しい表情を浮かべたヘレンさんが軽く笑う。
「いやその、本当に仲睦まじいだなと思っていて」
「ああ、私はこの弟子に身も心も捧げると決めている。」
艶やかな表情の横顔に、俺の心臓のドラムが鳴り響く。それはヘレンさんも同じようで、同じように顔を真っ赤にしながら、パタパタと顔を仰いでいる。
「ふえ!?わ、私は恋とか愛とか疎いんです。悪かったです、変なことを言って。はぁー......。」
何だこの人、可愛いな。いや可愛いとか思っては行けないと思うのだけれど、可愛いな。ヘレンさんはしばらく顔を仰ぎ、席を立つ。
「私は先に宿に戻りますね。貴方達となら、鍛冶の国フォルジュロンに行けそうです。改めてよろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げてから、勘定をして、店を出ていった。俺はヘレンさんの後ろ姿を見ながら思う。多分、今辛いんだろうなと。
だって、護るべき仲間の冒険者を亡くして、一日も経ってない。きっと短い道程でも仲間なんて作りたくないんだろうけど、契約をしてしまった。今更ながら、少しだけ胸が痛む。
「時間がかかるとは思うがな。彼女にも時間が必要なのさ、我が弟子。あまり急かしてやるな」
俺の意図を組んでか、師匠がフォローを入れてくれる。仲間とか言わないけどさ、悩みぐらいを抱えられるようなパーティーになってくれたらなと思う。
それはこの世界に戻ってきて、初めてちゃんと時間を共有出来た人物だから。そんな俺と師匠の元に緑髪の活発な少女が話しかけてきた。
「さっきのお仲間さん、すごい食べっぷりだったね!それで話が聞こえたんだけど、鍛冶の国フォルジュロンに行きたいの?」
短い髪を揺らしながら、この席に来たっていうことは、なんだろう。世間話でもしに来たのかな?
「フォルジュロンには行きたいけど、それが?」
「フォルジュロンにはすぐには行けないと思う。この先が知りたかったら、情報量として料理頼んでね! 」
「「あ」」
俺と師匠は今になって気づいた。ヘレンさんに圧倒されすぎて、自分たちの料理頼むの忘れてた!
俺達は急いで、残っているメニューから料理を頼む。
その後もひと悶着あって、リッくんと呼ばれた金髪ヤンキー風のコックの作ったオムレツを食べた師匠が、
『我が弟子の方が上手い』って言ってリッくんさんをブチ切れさせたり、それを面白がったケイトと呼ばれた少女が俺にキッチンバトルをけしかけたりと。
そりゃもう大変だった。結局フォルジュロンの情報と、リッくんさんとの熱い友情が、俺と生まれるまでにかなりの時間がかかってしまい、宿に帰るのは月が真上に差し掛かった辺りになってしまった。
ケイトから得た情報はこうだ。
このニムエ村から鍛冶の国フォルジュロンを繋ぐ巨大な鉄の橋が魔物達によって壊されてしまった。迂回するとなると、かなりの時間がかかるし、修復しようにもいつ魔物が来るか分からない。
修復する為の貴重な鉱石がある洞窟はなんなら魔物達が居座ってしまい、ドワーフ達も手が出せないらしい。
どうやら俺達が国に行く前に魔物退治と言うわけだ。そして宿の一室。木製で出来た一部屋で、俺と師匠は食後のお茶を飲んでいた。食事処ではバタバタしてたし、師匠はお茶飲まないと気が済まないらしい。
「ヘレンさんにどう説明します?」
「ふむ、そのまま言えばいいではないか」
「危なくない?」
情報は分からないが、地上の魔物程度であれば俺が入れば事足りる。だが、今は師匠も護らなければならない。これでも師匠は普通の国宝級美少女レベルには、打たれ弱さで弱体化している。
「大丈夫だろ、あの女騎士もそこまでヤワじゃないさ」
「まぁそうでしょうけどねぇ」
まぁいいか。本気で戦って、化け物として罵られようが。そりゃ心が痛いけど、敵対しなければいい。
「ああ、そういえば我が弟子。そのまま魔力眼にして自分のステータスを見るといい」
「?」
よく分からないがとりあえず、おれは魔力眼にし、自分のステータスをみた。これは俺の偽装のステータスなのだが、どんな風になってんだろ。
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レベル45
種族 人間
個体名 波風隼斗 職業 吟遊詩人
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レベル45か。うんまぁ妥当かなぁ。それこそ1000オーバーの化け物が宿に来たら、突発討伐クエストが受注されかねない。ん、見覚えのない情報載って―。
そこに書かれていたものは、この世の、この俺の人生における二文字が書かれていた。
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特殊ステータス 童貞
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「どどどどどど、童貞ちゃうわ!」
「いや、事実だろ?」
事実だけども、なんだよ特殊って!誰しも通る道だろうがい!
くそ、なら女将はこの情報を見たのか!?というかヘレンさんも盗み見た可能性も微レ存?ああああああ。
悶える俺を見ながら、愉快そうに笑う師匠。そして俺の後ろに周り、耳元で囁く。
「いっそこのまま、既成事実とやらをつくるかい、我が弟子?」
極上のasmrに俺の心臓は口から出そうになる。なんて悪魔的な可愛さだ。理性が吹き飛びそうになるし、なんなら成仏しそう。いや死んでないけど。
冗談だと軽く囁き、耳に軽くキスをして師匠はベッドに横たわる。俺が見たのとは違う、これまた官能的なネグリジェに身を包まれた師匠が手をお腹の上に置きながらゆっくりとしている。
このネグリジェとか言われるもの。俺は初めて目にしたが、師匠のはシルクで出来ているようでボディラインが非常に良く出る。昔妹の見たモコモコパジャマとは違い、ラインが出ているので非常にえろい。
ほんっと、えっっっっちコンロが点火しそう。
まぁいかにえろく、官能的であり、サキュバスのような誘いでも目に見えなければ関係ないのだよ。
俺はそう思い、床で寝ようとしたが、師匠が驚いた様に声を掛けてきた。
「我が弟子、どうした。君はここで寝るのだぞ?」
ポンポンとベッドを叩いている。はっはっは、ファニーファニー、可笑しいことを言うじゃん師匠。
俺に一緒に寝ろと?あまり可愛いことを言うなよ、死人が出るぞ?主に俺。だが、芝居のような台詞を師匠がつぶやく。
「私は君の恋人になったと思ったが、どうやらそれは私の勘違いだったらしい。ふむ、今夜は涙で枕でも濡ら―。」
「分かりました師匠。失礼します。」
ここまで言われちゃ、どうしようもない。ゆっくりと空いている師匠の横に並ぶように横になる。それを良しとした師匠が、俺の手を自分の前に持っていく。格好的には俺が後ろから師匠を抱き抱えるような形。
もうムラムラっす。だが、そんな俺に師匠は柔らかな言葉をかける。
「おやすみ、我が弟子。」
「はい、おやすみなさい」
その声で俺のムラムラは消えていくんだ、2%ぐらい。うし、頑張って残りの98%倒すとしよう。そんなこんなで、長い長い今日という日が眠りについた。