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落とされた後の上がりって、大体良いことの前触れ後編

投稿が数時間早いっ!?

煙草を吸ってリビングへ戻って暫く、今は俺もリッコも各々の時間を使っていた。


 リッコは何かを考えているのか、「うーん、うーん」と唸ったり、たまに俺に話を振ってきたりしながらゴロゴロ寝そべっている。それに適当な返答を返しつつ、俺はリッコの部屋から漁ってきた本を読んでいた。


 内容はというと恋愛系だ。それもかなり甘々な物語。

 正直言って俺の好き好んで読むようなジャンルではない。そして、こいつがエロ本以外に本を読むって事実にも驚いている。

 けれども読み終わってみれば、これが中々面白かった。食べ物といい、こういうものといい、やはり好き嫌いは良くないなと実感させられた。


 俺は読み終えた本をパタンと閉じ、テーブルへ置く。さて、次は何をやろうか。そんなことを考えていると、テーブルを挟んだ向かい側から、すぅすぅと鼻で息をする音が聞こえてきた。


 目を向ければ、さっきまで不規則にゴロゴロ動いていたリッコの動きは止まっていた。その代わりに一定のリズムを刻みながら気持ち良さそうに寝息を立てている。


 俺はリッコの傍へ行き、屈んで顔を覗き込む。

 まあやはりと言うべきか、慣れないことをして疲れていたのだろう。何とも締まりのない顔で熟睡中だ。


 ったく……世話のかかる。

 俺はよっこいしょと立ち上がり、リッコの部屋へと向う。その次いでに持ってきた本を元の場所へと片付ける。

 そして部屋の押し入れから薄い毛布を一枚引っ張り出すと、リッコに丁寧に掛けてやった。


 俺はほんとに甘い人間だと思う。まあでも、それも今に始まった事ではないし、別に嫌々やってるわけでもないし。

 そう思いながら、俺はなるべく物音を立てないように玄関へと向かった。流石に一人じゃ何もやる事がないし、物音立ててこいつを起こしてしまうのも嫌だからな。

 それにこの時間帯なら家に着く頃にはウルの友達も帰ってるだろう。せっかく遊びに来ているんだ、お客人に気を使わせる訳にはいかない。

 それでも一応念には念を入れて、何かお菓子でも買って帰るか。


 俺は何を買って帰るか考えながら、できる限り音が出ないようそーっとドアを開ける。すると、そこには女の子が立っていた。


「えっと……どちら様で?」

「わっ!? え? あ、あのっ! えっと……」


 今、声を上げなかった自分を盛大に褒めたい。マジで焦った。

 心臓が止まりそうになるってのはこういうことを言うのか。

 俺はそれが表に出ないよう何とか誤魔化し、目の前の女の子に問い掛ける 。

 しかし返ってきたのは、取り乱した言葉と俯く仕草だった。


 参ったな、完全に油断していた。いやでも、玄関開けたら人が佇んでるなんて想像出来るか。リッコの家なら尚更だぞ。

 俺は心でそう言い訳をし、改めて目の前の女の子を見据える。

 薄茶色の髪で小柄な女の子。顔は俯いていてあまりよく見えないが、美人のそれだろう。雰囲気や服装で何となく分かる。

 そして、手には鞄と傘を持っている。

 ピンク色の傘は若干濡れていて、床が湿っている。どうやら、とうとう降ってきたようだ。


 俺は玄関の中を見渡す。よし、傘は一つある。とりあえず、ずぶ濡れで帰ることは免れた。

 俺はそうホッとしていると、その子は何かを決心したように顔をバッと上げ、俺に問い掛けてきた。


「あ、あのっ! ここって、リコルさんの家ですよね? わ、私、リコルさんに用事があって……」


 やっぱり俺の見る目に間違いはなかった、可愛い顔してる。だからこそ、何でリッコの家の前に居るのかが不思議でしょうがない。


 しかしそんな可愛い顔も、俺の顔を見上げるとまたすぐに俯いてしまった。そしてさっきの決心も鈍ったように、語尾も弱まっていく。


 原因は分かってる。だから気を使うんだよ。

 俺はこれ以上怖がらせないように、できる限り優しい口調で答えた。


「リッコの家で間違いないよ。けど、あいつ今寝てるぞ?」

「えっ……そ、そうなんですか……」

「何か用事があるなら伝えとくけど?」

「えっと……そ、それじゃあ、ルミス・フライアが休み明けに話があると伝えて欲しいです……」

「ルミス・フライアね。ん? ルミス・フライア? それってお前の名前かっ!?」

「ひっ! ……はい、そうですけど」


 何てこった。さっきリッコの話に出てきた渦中の人物じゃないか。それもリッコに話があるときたもんだ。


 さて、どうする……。


「あー、もし良かったらだが、起きるまで待ってるか?」

「えっ? えっと……そ、それじゃあ……お言葉に甘えて」


 俺は色々と悩んだ後、部屋に招き入れることにした。



 ◆◆◆



 彼女を招き入れ、さっきまで俺が使っていた座布団に座らせる。


 俺は飲み物の準備をするため、キッチンへと向かった。

 冷蔵庫から取り出したのはお茶だ。っていうか、これしか選択肢がなかった。今更ながら、こいつの食生活は大丈夫なのか……。

 心配になりながらも、今日一生懸命洗ったであろうコップに注ぐ。勿論、念には念を入れて再度水で濯いでからな。


「ほいっ」

「あ、ありがとうございます」


 リビングへ戻り、ちょこんと座っている彼女の前へ差し出す。

 心做しか俺を見上げる彼女の表情からは、さっきの怯えが少しは消えているような気がした。

 それでも、俺はなるべく距離をとって腰を下ろした。


「悪いな。こんな天気にせっかく来たくれたのに」

「あ、いえ。私こそ、突然来てしまって」


 ちびちびと飲む姿はどことなくラルに似ている。

 そんな様子に少し親近感を感じていると、彼女は遠慮がちに聞いてきた。


「あの、本当にお邪魔して良かったのですか?」

「ん? ああ、気にすんな。寧ろ、喜ぶと思うぞ。起きたらこんな可愛い子が出迎えてくれるんだからな」

「かっ!? かわっ」

「ククッ。そのリアクションもこいつのために取っておけ……ククッ」

「ちょっ! 笑い過ぎですっ!」


 俺がそう言うと、彼女は顔を紅潮させ声を張る。こういうところはウル似だな。ラルの場合、しらーっとした冷たい目で俺を睨むからな。

 まあどちらにせよリッコとこの子は多分、相性が良いだろう。


 俺は今まで笑っていた顔を戻し、彼女に見据える。

 そんな俺の雰囲気を察してくれたのか、彼女も真面目な顔つきになって俺の様子を伺っていた。


「……何があったかは、こいつから聞いた。俺からも謝らせてくれ。悪かった」

「いえ、貴方が私に謝られても……」


 そう言って、俺は頭が下げる。

 彼女の戸惑ったような声色でそう返してくれた。そして少し間を置いた後、こう続けた。


「あの、一つ聞いても良いですか」

「……何だ」

「リコルさんってどんな人なのでしょうか」


 頭を上げ、彼女を見る。

 真っ直ぐな瞳で俺の見据えている。嘘や誇張なんて簡単に見抜きそうなくらい、真っ直ぐな瞳。


「そうだな……バカでアホでスケベな世話のかかる奴だな」

「ふふっ。何ですかそれ」


 俺は思ったことを口にすると、彼女はクスッと笑う。


「けど、良い奴だ」

「……そうですね」


 そして、後にそう続ければ、彼女は穏やかな表情で頷く。

 視線はリッコの方へ向けていた。さっきと変わらない真っ直ぐな目を向けていた。変わったとすれば、なんと言うか……愛おしいものでも見つめるような目に感じたくらいか。


「う〜ん……ガンちゃん?」

「おっ。お目覚めか。さっそくで悪いが、お前にお客さんだ。顔洗ってこい」

「俺に客? 俺にそんなのいるわけないじゃん……かっ?」

「おはようございます。すみません、勝手にお邪魔してます」


 ちょっとばかし騒ぎ過ぎたか。リッコがむにゃむにゃしながら起きた。

 目を擦りながら寝ぼけているリッコに、俺は彼女の存在を伝える。すると、寝起きの悪いこいつがテキパキと動き出した。


「な、な、何でルミスちゃんが居んの? え、夢? 痛い……ってことは、ガンちゃん知り合いだったのっ!?」

「んな訳あるか。お前の起きるまで待ってくれてたんだよ。お礼言ったか?」

「あ、まだ。ありがとうルミスちゃん――じゃなくてっ! ちょ、ちょっと待って!」


 リッコはドタドタと慌てた様子で部屋を出る。多分洗面所にでも行ったんだろう。バシャバシャと音が聞こえる。


「ふふっ。意外と騒がしい人ですね。学校では何事にも動じない人なのに」

「そいつは初耳だな。今度ぜひ詳しく聞かせてくれ」


 俺はそう言って、立ち上がる。


「後はゆっくりしていってくれ」

「あ、あの、お名前教えてもらってもよろしいですか」

「ん、ああ。言ってなかったな。ソルトだ」


 そして、玄関へと向かう。


「お待たせっ! って、ガンちゃん帰んの?」

「ああ。さすがにそろそろ帰んねえと、何言われるか分かんねえからな」

「あー、ラルちゃん厳しいからね」


 顔を洗ってきたリッコとキッチンでそんな話をする。その後、俺はリッコの耳元で小声で言った。


「ってことで、ちゃんと謝れよ。頑張れよっ」


 俺の言った言葉に、リッコはコクンと頷く。

 それを怪訝な顔で見つめる彼女に、誤魔化すようにこう言った。


「ってことで、傘借りてくからな」

「お、おう」


 ……下手くそかっ。

 まあいい、後はなるようにしかならんからな。そう思い、俺は玄関へ向かう。そしてピンク色の傘を持って、少し力強く扉を開け放った。



おまけ。


「ただいまー」

「おっせーぞアニキ、ってそれ何?」

「ん、ああ。ケーキだ。まだ友達居ると思って買ってきた」

「もうこんな時間だぞっ、皆帰ったに決まってんだろ……」


家に帰ると、ウルが出迎えてくれた。

まあやっぱりと言うべきか。ウルの友達は既に帰っていたようだ。


「じゃあ、母さんやラルと一緒に食ってくれ」

「アニキは?」

「いや、三つしか買ってきてないからな」

「じゃあ、わたしと半分こしよっ」


そう言うとウルは、俺の買ってきたケーキを持ってリビングへと走っていった。ただ――


「お母さんっ!アニキがケーキと可愛いらしい傘持って帰ってきたあーっ!」


こいつの存在、すっかり忘れていた……。




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