表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気づいたら異世界でした ~最上大業物の刀で始めるスローライフ~  作者: 冬夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/34

第1話 気づいたら異世界でした

冷たい風が頬を撫でた。


「……ここ、どこだ?」


神代悠真はゆっくりと目を開けた。


見上げた先には、どこまでも広がる青空。


視界いっぱいに揺れる木々の枝葉から木漏れ日が差し込み、鳥のさえずりが静かな森に響いている。


「……夢?」


ゆっくりと身体を起こす。


背中には柔らかな草の感触。


湿った土の匂い。


頬をつねる。


「痛っ……」


夢じゃない。


慌ててポケットを探る。


財布。


スマートフォン。


社員証。


どれもちゃんとある。


スマートフォンの電源を入れようとするが、画面は真っ暗なままだ。


長押ししても反応しない。


「バッテリー切れ……いや、さっきまで八十%はあったよな?」


空を見上げる。


ビルはない。


電柱も道路もない。


人工物らしきものは何一つ見当たらない。


「マジで……ここどこだよ。」


記憶を辿る。


今日はいつも通り仕事を終え、駅から家まで歩いていた。


信号を渡ろうとした、その瞬間。


目の前が真っ白な光に包まれた。


そこから先の記憶がない。


「誘拐……って感じでもないよな。」


苦笑しながら立ち上がる。


人がいる場所を探そう。


そう考えて歩き始めた、その時だった。


カラン……


小さな金属音が耳に届く。


「……?」


音のした方へ視線を向ける。


十数メートルほど先。


大きな岩の上に、一振りの刀が静かに置かれていた。


黒い鞘。


無駄な装飾は一切ない。


ただ、その存在だけが異様なほど周囲の景色に溶け込んでいる。


まるで最初からそこにあることが当然であるかのように。


悠真は吸い寄せられるように近付いていく。


「刀……?」


岩の前で足を止める。


鞘に手を伸ばしかけ、ふと文字が刻まれていることに気付いた。


たった二文字。


『天照』


「天照……名前か?」


それ以上の文字はない。


製作者の名前も、紋章も、説明も。


ただ、その二文字だけが美しく刻まれていた。


「誰かの落とし物……じゃないよな。」


こんな森の中に刀が一本だけ置かれている。


明らかに異常だ。


それでも、不思議と恐怖は感じなかった。


むしろ――


持たなければならない。


そんな感覚が胸の奥から込み上げてくる。


「……失礼します。」


誰に言うでもなく呟き、悠真はゆっくりと柄へ手を伸ばした。


触れた瞬間。


――ドクン。


刀が鼓動したような気がした。


「っ!?」


次の瞬間。


膨大な情報が頭の中へ流れ込む。


見たこともない構え。


斬撃。


足運び。


呼吸。


身体の動かし方。


魔力。


気配。


世界。


理解できないほどの知識が一気に押し寄せる。


「ぐっ……あぁぁぁっ!!」


激しい頭痛。


その場に膝をつく。


頭を抱えながら歯を食いしばる。


どれほど時間が経ったのか分からない。


数秒だったのか。


数分だったのか。


やがて痛みは、嘘のように静かに消えていった。


「はぁ……はぁ……」


荒い呼吸を整えながら、自分の両手を見る。


不思議だった。


初めて触れたはずの刀なのに。


どう握ればいいか。


どう振ればいいか。


どう斬ればいいか。


身体がすべて知っている。


「なんだ……これ。」


その時だった。


頭の中に、誰かの声でもない、不思議な感覚が浮かぶ。


《取得スキル》


・剣術【神域】


・居合術【極】


・身体強化


・魔力操作


・魔力感知


・気配察知


・鑑定


・収納


・生活魔法


「……スキル?」


思わず口に出す。


ゲームのような単語ばかりだ。


信じられない。


だが、なぜか使い方だけは理解できる。


「鑑定……?」


頭に浮かんだその言葉を意識しながら、目の前の刀へ視線を向ける。


すると。


視界の中へ、半透明の文字が静かに浮かび上がった。


──────────


名称:天照


分類:刀


格位:最上大業物


所有者:神代 悠真


状態:完全


説明


千年前、剣神が振るったとされる伝説の一振り。


主と認めた者以外には真価を発揮しない。


──────────


「……最上大業物?」


聞いたことはある。


歴史の本か何かで、日本刀の格付けとして見た記憶がある。


だが、それ以上は知らない。


それよりも気になったのは、説明文だった。


剣神。


伝説。


そして。


主と認めた者。


「俺が……?」


思わず自分を指差す。


もちろん答える者はいない。


森は静かなままだ。


悠真はしばらく刀を見つめたあと、静かに笑った。


「……考えても仕方ないか。」


ここがどこなのか。


なぜ自分がここにいるのか。


誰がこの刀を置いたのか。


何一つ分からない。


だが、一つだけ確かなことがある。


「とりあえず、生き残らないとな。」


天照を腰に差す。


驚くほど自然に収まった。


まるで何年も使い続けてきた愛刀のように。


森の奥から風が吹き抜ける。


葉が揺れ、小鳥が飛び立った。


その先に待つ運命を、悠真はまだ知らない。


ただ一つ。


静かに暮らしたい。


その願いだけを胸に抱きながら、彼は異世界での最初の一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ