水曜日
水曜日。
「おはようございます」
研修室へ入った瞬間、もう誰かの声が飛んでいる。
「昨日の課題どうだった?」
「ギリギリ」
「俺全然分かってない」
(みんな早い……)
最初は緩かった空気も、二日でかなり変わっていた。
席につけば自然に交流が始まり、 昼になれば「今日どうする?」の声が飛ぶ。
私は、その流れの中に一応いる。
――だいぶ頑張っていた。
【対人補助・弱モード起動】
【本日予測疲労:高】
【推奨:休憩時間の単独行動 10分確保】
(コレが無かったら確実に詰んでた……)
たった数日。
なのに、図書館勤務の一ヶ月分くらい人と喋っている気がした。
「じゃあ次、このテーマでグループ討議していきます」
研修講師の声。
椅子が動く音。 資料をめくる音。
前田を中心に自然と輪を作る。
もはや半固定メンバーだった。
市役所の営業寄り部署、 文化センター職員、 体育施設担当。
そして図書館の私。
職種が全然違うからこそ、 逆に話題が尽きない。
「図書館ってクレーム少なそう」
「いえ。緩いからこそ、そこを突いて言ってくる人とか結構いますよ」
「えっ意外」
話が広がる。
以前なら、 こういう場ではタイミングを逃して黙っていた。
でも今は違う。
視界の端。
【発言推奨タイミング:3秒後】
【現在話題一致率:高】
(……今)
「あと、児童関連だと難しい保護者対応も結構多くて」
「そうそう、子ども絡むと大変だよね」
「確かに」
自然に会話へ入れる。
“無理して頑張ってる感”が出ない。
それだけで、かなり楽だった。
昼休憩。
ご飯後の眠気をかみ殺す。
「石村さん、眠そうだね」
前田が笑いながら言う。
「少しだけ」
「やっぱ疲れるよね、この研修」
隣に座る距離にも少し慣れてきた
慣れてきたが、 疲れないわけではない。
【対人距離ストレス:継続】
【警戒反応:低下傾向】
(慣れるんだ……こういうのも)
前田は相変わらず距離が近い。
でも自然に別の人へと話題を流す。
(この人、本当に空気読むの上手いな)
能力なしでこれをやっているのは尊敬でしかない 。
(まぁこうなりたいかっていうとないけど)
合間の休憩時間。
少し離れた場所で、 前田が同年代くらいの男性たちと笑っていた。
「いやマジで資料多すぎ」
「前田はずっと元気じゃん」
「営業系って体力おばけだな」
輪の中心。
自然体で笑っている。
自分と話す時より、少し速い。
少し声が大きい。
(……あっちが本来のテンポなんだろうな)
「石村さん、こういうの得意なイメージ」
グループワーク中、 前田が資料を差し出してくる。
住民対応シミュレーション。
「ん?」
「説明丁寧だから向いてそう」
【適性予測:高】
(ほんとだ、私に向いてるみたい)
少しだけ考えて、住民役への説明を始める。
矛盾がないように、取りこぼさないように。
「すっげぇ分かりやすい」
ぽつりと前田が言った。
周囲も頷く。
「聞き入って迷わず納得しちゃったわ」
「説得力あり過ぎて文句も引っ込みそう」
胸の奥が少し熱くなる。
図書館では普通にやっていること。
でも、 外の場所で褒められることは少ない。
【成功体験を記録】
【自己肯定感 上昇】




