第56話 リアルマーメイド~人魚心あれば石心~
「ハッ」
ロックは気づけば、見知らぬ海岸に打ち上げられていた。
「ガハッ、ガハッ」
水を勢いよく飲んでしまったのか、口から勢いよく海水を吐き出した。
(大丈夫?)
誰かが、ロックに語り掛ける。
「誰だ?」
ロックは辺りを見渡すと、近くの岩陰から幼い人魚が顔を出した。
「君は?」
ロックは丁寧に問いかける。
(アリエラ)
人魚のアリエラは照れながら再び岩陰に隠れた。
「えぇっと、俺はロックだ。」
いつもぶっきらぼうなロックも今回ばかりは落ち着いた声色で話しかけた。
(ロック?変な名前。クスクス)
アリエラは岩陰から笑いを堪えるようにして口を押えながらまた顔を出した。
「君が俺を助けてくれたのか?」
アリエラはブンブンと音を立て、首を縦に振った。
「そっか、ありがとな。」
ロックはアリエラに目線を合わせ、彼女の頭を軽く撫でた。アリエラの顔が赤く染まる。
(あ、あの・・・)
アリエラが顔を上げた瞬間。
「いたぞ、あそこだ。逃がすんじゃねぇぞ、そこの小僧」
ロックの後ろから近くに住んでいると思われる老人が大声で二人の方へ向かってきた。
「なんだぁ、てめぇ」
ロックは反射的に老人を睨む。
「なんだも、何も決まってんだろ、そこにいる人魚を食うんだよ。」
老人もロックを睨む。
「こいつは俺の命の恩人だ。食わせるわけにはいかねぇ。」
ロックはアリエラを庇うように老人の前へ出る。
「不老不死になれるとしてもか?」
老人は人間の醜悪さを煮詰めたような表情で笑う。
「不老不死?彼女を食えば、不死身になれるってことか?」
ロックは老人の顔に恐怖を感じつつ、問い返す。
(やめて・・・)
アリエラは顔を青くし、ガタガタと震える。
「興味ないか?そこの人魚を食えばお前は死の恐怖に怯えずに済むんだぞ。小僧」
老人はロックに囁く。
「興味ないね。」
ロックはそのまま老人の顔面を蹴り飛ばし、彼の残り少ない歯をへし折った。
「うぎゃ、い、いきなり蹴るこちゃはないでぁろ、蹴るきょとは。」
歯が抜けた老人は情けなく腰を抜かし、退きながら抗議した。
「だったら、今すぐ俺の前から消えな。次、あんたがここに来たら・・・。」
ロックは手の指をポキポキと音を立てて鳴らす。
「ひ、ひぃ、ごめんなしゃいぃ」
老人は一目散に逃げていった。
「アリエラ、ごめんな、怖かったろ。」
ロックはアリエラに目線を合わせ、一応ケガがないか確認した。
「今日はもう帰りな。お母さんやお父さん心配してるだろ。」
(・・・いない)
「えっ」
(私、いない。パパもママも。海の中の家独りぼっち。)
アリエラは悲しげな表情を浮かべた。
「そっか・・・、じゃぁさ、俺、毎日ここに来るからさ。一緒に・・・その・・遊ぼうぜ。」
アリエラは困惑した。
(ねぇ、大丈夫なの?)
「大丈夫、大丈夫、今日の様子見てたらよ、アリエラも一人だと何かと羽を伸ばしづらいだろ。安心しな、俺は結構強いからな、どんな奴がお前を狙ってもワンパンだぜ。」
(でも、それあなたにとって利益がないんじゃ・・・)
「俺はアリエラに恩返しがしたいんだ。損得の問題じゃねぇ。」
ロックはイリスに頼まれていたクエストのことが一瞬頭によぎるも、それを振り払った。
(じゃぁ、約束、毎日此処に来て。)
「あぁ、約束だ。」
アリエラとロックは指切りをし、それを誓った。
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