第27話 逆転と衝撃~とけていく謎と氷~
バシャーン
頭上から流れたお湯によって、撃ち出した氷弾が溶けた。
「なっ」
青年が上を見上げると、時すでに遅し、目の前に熱湯が迫っていた。
バシャッ、シュー
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
青年の体やリュックから湯気が噴き出した。
間髪入れず、屋根の上から炎魔法で溶かした雪を熱湯にして、浴びせていたニルが青年の頭に思いっきりエチケットバケツをかぶせる。
『アイスラ』
かぶせたバケツにニルは氷魔法を施し、バケツが顔に触れる上側を冷やした金属と皮膚はくっつくことを利用し、固定した。
「ちょっと、ニル君遅かったよ。」
アリスは不機嫌そうに頬を膨らませた。
「ゴメン、ギョシャサン、ナグサメテタラ、オソクナッタ。」
ニルはわざとらしく舌を出して、謝った。
「うおおおおおおおお、前が、前が見えないー」
青年はその場で転がり込んでいた。
「おい、間違ってもバケツを手で取ろうとするんじゃねぇぞ。」
青年はロックの忠告も聞かず、バケツに素手で触れ、思いっきり取ろうとした。
「あぁぁぁぁぁ、イタイ、イタイ、イタイ。うぁぁ、手も、手も、くっついたぁ。」
「ほら、言わんこっちゃない」
ロックは倒れたまま、呆れた様子で髪を掻いた。
「ねぇ、あなたの狙いって、私?」
アリスは彼を上から覗き込むようにして、質問した。
「そうだよ、イテテテ、お前がねぇさんを、・・・チェシャおねぇちゃんを捕まえたから・・・。」
チェシャ、この名前にすぐピンとこなかったのは、アリスにとっては、彼女はギルドから来た依頼を感情を排して取り組んでいたからである。
「元Aランクパーティリーダー、チェシャ・ランドの弟、スノウ・ランド、それが僕の名前だ。」
青年は無様な醜態を晒しながら、自己紹介を始めた。
「元Aランクパーティ!おい、アリス、俺とアリスが最初に受けたクエストの討伐対象だぜ。」
「そういうことだったの。あなたは捕まった彼女の敵討ちのために私を殺そうとしたわけね。」
「ナニ?ボク、シラナイ。」
当時、パーティに加入していなかったニルは困惑しつつも、自分の出る幕ではないと考え黙った。
「ねぇちゃんは、帝国にある、帝国大学校に通うためにパーティに入ったんだ。ねぇちゃんのために、俺は自分の使える時間を全部アルバイトに費やした。そうやって、ねぇちゃんの学費を稼いで、やっと、ねぇちゃんのパーティがAランクになったのに、お前らが・・・。」
スノウはバケツと顔の隙間から、涙を流した。バケツの隙間からこぼれた涙は、空気に触れた瞬間に凍りついた。
「それで、私を殺して復讐しようとした訳?ふざけないで!」
アリスは今までにない剣幕でスノウを叱った。スノウはビクンと跳ねる。
「あなたがつらい思いをした。それはわかったわ。でも、だからと言って、私を殺していい理由にはならないし、ましてや、私はあくまでギルドからの依頼で業務として彼女を捕らえたのよ、私に恨みを持つこと自体お門違いなんじゃないの?」
アリスはギュッと拳を握りしめた。
「おい、俺もアリスと同感だ。でもよ、スノウ、お前は結果的に人は殺しちゃいねぇ。今からでも、やり直せる。お前の人生はお前のねぇちゃんの人生じゃねぇだろ。」
「それは、そうだけど・・・。」
スノウは口ごもってしまった。
「わかったわ。スノウ君、私、あなたの気が済むなら・・・」
アリスがスノウの右手にお湯をかけ、バケツから離れたニルの右手を掴み、彼女自身の胸に押し当てた。
「・・・私を殺して。」
アリスは聖女のような微笑みを浮かべた。
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