第1話 魔力ゼロの転生少女と石化病の戦士 ~強固な意志は、石をも動かす~
西の国、ウエスタ。ここは、陽が沈むと同時に夜行性のならず者どもが目を覚ます。人々は、彼らを避けるため、夜の外出は控えるようにしている。しかし、ここに、宿代を使い果たし、夜盗に囲まれた、金髪でビー玉のように青い目をした哀れな女魔法使いがいた。
「おい、金目の物を出せ。」
下卑な笑いを浮かべた夜盗が彼女を取り囲んだ。
「持ってないですよ。」
魔法使いは冷徹な青い目で夜盗を睨みつけた。しかし、明かりのない路地裏では、彼女の睨みは夜盗の目には届かなかった。
「なぁ、こいつの服、ウエスタで一番の魔法使いの門下生の制服だぜ。」
後ろから、もう一人の夜盗が口を挟んだ。
「おぉ、そうなのか、そんな優秀な生徒さんなら、値の張るような物ぐらい持ってるはずだよな。」
夜盗はそういうと、彼女の喉にナイフを突き立てた。彼女はそれでも顔色一つを変えなかった。
「おーい、その辺にしときなって。」
後ろから、鼻筋の通った、ツーブロックの男が夜盗に声をかけた。よく見るとその手には血がついており、さっき口を挟んでいた夜盗はどこかへ姿を消していた。
「お前、何もんだ。」
「夜盗に名乗る名はねぇよ。」
「あいつは、どうした?」
「鼻血出して、逃げてったぜ。」
「てめぇ、このナイフの餌食になりてぇのか?」
「その、ちゃっちいナイフのか?」
男が答えた瞬間、夜盗は彼の腹部に向かって、思いっきりナイフで刺した。しかし、その刃は固い金属音とともに火花を散らし割れ、破片が床に散乱した。
「おいおい、ちゃんと狙えよ。」
そういうと、男は夜盗に石化した腹を見せつけると、夜盗の顔がみるみるうちに青くなり、「感染る、感染る」と譫言のようにつぶやきながら、しっぽをまいて逃げていった。
「ありがとうございます。助けてくださって」
「礼は大丈夫だ。それより、これ。」
男は彼女に一泊分の宿代を手渡した。
「俺がしてやれるのは、この程度だ。これで、今日はどうにかなるだろう。じゃぁな、気を付けなよ。」
そういって、彼は去ろうとした。
「待って!」
彼女の叫びが夜の街に鋭く響いた。
「なんだよ?」
「私のパーティに入ってくれませんか?・・・いいえ、入ってください。」
そういって、彼女は深々と頭を下げた。
「断る」
しかし、その返事はあまり素っ気なかった。
「そうですか・・・わかりました。あなたが、そのつもりなら私にも考えがあります。」
そういって、彼女は持っていた魔導書を開き詠唱を始めた。
「—虚空を穿ち、万物は等しく灰となる・・・」
「ま、待て、その詠唱を今すぐ止めろ。」
男は血相を変えて、彼女の肩を強く揺さぶった。
「止めてほしいなら、パーティに入ると誓ってください。」
「わかった、わかったよ、入るから、今すぐその詠唱を止めてくれ、お願いだ。」
今度は、彼が必死の形相で頭を下げた。
「ププッ、アハハハ」
「何が可笑しい?遊びでも、その詠唱を完了してしまえば、自爆魔法でお前の体は木っ端みじんに吹き飛ぶんだぞ。」
彼は眉を顰め、拳を血が滲むほど強く握りしめた。
「大丈夫ですよ。だって、私、魔力ないんですから。」
それを聞くと、男は一瞬で「スン・・・」と音を立て、真顔になった。
「マジかよ、ありえねぇ、今時、家畜にだって、魔力はあるのに・・・」
男は頭を掻き、少し考え、ため息をついた。
「わりぃ、お前もなりたくて、魔力がゼロになってるわけじゃねぇんだろ。ある意味、俺と同じだ。」
そういうと、彼はおもむろに服を脱ぎ、半裸になった。
「なんですか?急に服脱いで、変態なんですか!?」
魔法使いは顔を赤くし、とっさに両手で顔を覆った。
「ちげぇよ、ほら、俺の腹の部分を見てみろよ。」
魔法使いは指の隙間から、彼の胴体を確認すると、彼の胴体は石のように変色していた。
「俺は石化病っていう、不治の病にかかっているんだ。まぁ、五年前に、この病気に対して、感染症って間違った知識が広まったせいで、俺の腹を見ただけで、逃げだす奴も多いんだぜ。」
そういって、彼は軽く腹を叩くと、コツコツと硬質な、石そのものの音が響いた。
「五年前・・・。道理で、私が知らないわけです。」
彼女は腑に落ちた表情をした。
「ん、どういうことだ?」
「私、実は、三年前にこの世界に転生してきたんです。だから、若干この世界の知識に疎くて・・・」
「て、転生?なんか、よく分からんが色々大変そうだな。」
男は同情の目を彼女に向けた。
「ん、じゃぁ、お前がパーティを作る目的って、なんだ?
俺を無理やりパーティに加えた感じからして、この世界について知りたいから、パーティを作るって感じじゃねぇよな?」
男は首を傾げた。
「実は、私、帝国に行きたいんです。あなたの知っての通り、帝国に入れるのは、Aランク以上のパーティです。帝国に入るには、パーティを作って、ランクを上げるしか方法はありません。師匠を助けるためにも一刻も早く帝国に向かいたいのです。」
「その師匠は病気なのか?」
「はい、帝国にしか、その病気の特効薬が売っていないんです。」
彼女は深くうなずいた。
「そうか、俺も、帝国には野暮用があったんだ。丁度いい、付き合ってやるよ。」
そういうと、彼は彼女に右手を差し出した。
「これから、よろしくな。えーっと、名前はー」
少し考えた後、気が付いた。
「名前まだだったな。俺の名前はアーサー・ロック。気軽にロックって呼んでくれ。」
「私の名前は国野有栖。アリスでいいですよ。」
そういうと、二人は握手を交わした。
「クニノアリス?変な名前だな。」
「ロックさんこそ。」
「そうか?」
アリスは何度もうなずいた。
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