精霊剣
先週はごめんなさい
おはようございます
とりあえず皆の待つ町に帰ることにした。
前例が少ないことを無駄に考えても分かるわけが無いので、考えるのは止めにした。
しかし帰る最中、することも特に無いので予想くらいはしておこう。
その予想があっているかどうかを確かめる術は無いのだが…。
今回あんな風になってしまった原因。
それは、犬という種族にあるのではないかと思う。
いや、使えた原因がスライムという種族にあると言った方が的確かもしれない。
というのも、今の俺に出来なくてあの時のスライムに出来たということは、最早種族の違いくらいしか違いがないのでは?と思うのだ。
発動に魔力が足りてないと言われても、今の魔力量はあの時のスライムより確実に多いと断言できる。
あの時のスライムは、50位で最下位の魔王だ。それに、スライムの吸収擬態に関係するスキルは、吸収擬態自体と溶解、解析しか無かった。
溶解と解析に関しては俺の捕食者で代用出来るとわかったことだし、吸収擬態は持っている。
以上のことから、やはり俺とスライムとの違いはこのスキルの使用に関しては種族だけなのではないかと思うのだ。
そこで、俺は先ほどスキルを使った時のことを思い出す。
体の中から押し出して来る痛み、細胞はつくりを変えて俺の体をかき回して居た。
実はこのスキル、名前は擬態なんて言っているが、かなり本気のモノマネなんだと思う。
それも、自分の体のつくりから変えてしまうほどに。
確かに、その位で無ければ解析した相手と同じ力など使えるはずもない。
そう考えるとあの痛み、俺の体を作り変えていた痛みだったのでは無いだろうか。
そんなこと最下級の精神生命体で、粘性の体しか持たないスライムとは違い、しっかりとした肉体を持つ俺に出来るわけが無い。
つまりはそういうことなのだと思う。
そこまで考えた時点で俺は町に着いた。
俺は思考を一旦中止し宿まで戻る。
かなり時間が経っていたので、待っていたリオン達は相当心配していた。
しかし、無事だということを確認すると今度は買い物をすると言い出した。
なんでもリオン曰く
「僕だって冒険者なんだから装備とかずっと気になってて店はいろいろ調べてあったんだ。まだ早いまだ早いと自分に言い聞かせて我慢して来たんだけど、当面の目標が武器の購入になったから、目標の目安として欲しい物と値段見ておく位しておいた方がいいでしょ。」
ということらしい。
リオンがその店に入って見たいだけの様な気もしないでも無いが、まぁ確かに言うことにも一理あるので今日は着いて行くことにした。
リオンの抑えていた店は、木造りの雰囲気のある店だった。
あまり高級そうな感じはしないが、こう言う店にこそ凄腕の職人が居たりする、ラノベの鉄板だ。
少し緊張しつつも意を決して中に入る。
入った瞬間木の匂いがふんわりと舞って来た。
大きめの両手剣から投げナイフまで、鎧に関しても色々な種類が並んでいる。
しかしまぁ当然の事だが、俺にはさっぱり分からない。
「おうおうおうおう、あんちゃん達なんかお探しかい?」
初心者の俺とナミがあたふたしていると奥の方から男が出てきた。
顎髭を生やしつなぎを着た肩幅の広い男で、着ているつなぎのあちこちはススだらけになって居たりシミが付いて居たりと年季を感じさせる。
「いや特に何かを探しているわけでは無いのだが、この前から冒険者をすることになって装備一式を見に来たんだが、俺は武術を嗜んだことが無くて身体能力だけで無理やりやって来たもんだから装備をみてもさっぱり分からなくて。」
見栄を張ってもどうもならないので、俺が素直にそう答えると。
「まぁ、そう言うお客さんも結構多くてな。大丈夫だ、俺があんちゃん達に合わせて見繕ってやる。そっちの嬢ちゃんもそれでいいのかい?」
ナミがコクコクと頷くのを見ると、了解したといった様に頷き返して店の奥に入って行った。
暫くして、店主らしき男はメジャーとか色々器具みたいなのを持ってきた。
「おう、待たせたな。早速始めるから俺に背を向けて立ってくれ。あー、嬢ちゃんは奥でカミさんが採寸するからそっちに行ってくれ。そこまっすぐ行ったら突き当たりにある部屋だから。」
口早に説明を済ませると、武器屋のオヤジさんは準備を始めた。
俺達は指示に従って行動する。
俺が背を向けたのを確認すると、オヤジさんは、まず肩にメジャーを当てた。
「兄ちゃん、何か希望はあるかい?兄ちゃんの希望通りにどうにかしてやるからよう。」
採寸を続けながらオヤジさんはそう言った。
やはり、俺には武器に関して詳しくは分からない。任せるのが一番だと思う。
だけど、ただ一つ俺が望んでいいのだとしたら
「動きやすいのが良いかな。俺は素人だから今のところ純粋な身体能力で戦わなければいけない訳だし、武器の扱いに関してはどの武器も素人だから、これから習うしかないし。」
「なるほどな、まぁ兄ちゃんの希望通りにどうにかするよ。確かにこの細身に重鎧はきついしな。うーん、そうだな武器は兄ちゃんに見て決めてもらうのが良いかもしれないな。もちろんアドバイスはするけど、俺が勝手に選んだってそれは一般的な意見でしかないからな、武器の好き嫌いはそりゃ一人一人違うもんだ。実際に見て触って振ってみないと分からないもんだ。ほいっ、おし採寸終わったぞ、なんなら今から見に行くか。」
それもそうかもしれない、俺からしてみればオススメされた奴の方が安心出来るのだけど、それこそ命を託す物だからな自分で自分を任せていい物を選ばなければならない。
採寸を終えて、オヤジさんに案内されて武器の置いてある場所へ移動する。
置かれている武器達を眺めてみるが良くわからない。
武器の種類に関してはバスターソードがオススメとの事だ。
使いこなすのは難しい武器だがその反面、斬る事も突く事も出来る。
片手剣と両手剣の間位の剣で、片手でも両手でも扱える。
俺は細い割に腕に筋肉が相当ついてるからオススメだ!と言われた。
どの武器も素人で、これから習うのならそういう武器もいいのでは?と言うことらしい。
他にも使いやすい武器もあるとの事だが、どうせ何を使ったって今の俺なら同じ様な物である。
どうせならオススメの武器にしてみようと思う。
と言うことでさっきからバスターソードをずっと見ているのだが、やっぱりさっぱりわからない。
オヤジさんは、中には剣にスキルが埋まりこんでいるものがあったりしてそう言うのはやっぱり強いらしい。
と言っても、スキルがあるかどうかなんてわからないんだからどうしようもないらしいけれど。
と、そこで気づく。スキルが宿るということは、剣にも魂またはそれに準ずるスキルが宿る物があるに違いない。
とすれば、俺の鑑定で観ることが出来るかもしれない。
目に見える個体の情報では無くて、それに込められた本質の思いの情報を。
早速目の前にあったバスターソードを手に取り鑑定してみる。
バスターソード
能力 なし
量産型
見えることは確からしい。
見える事に気づいたので、鑑定を使いながら剣を見て回る。
すると俺の目は一振りの剣に目が止まる。
スキル保有の剣は圧倒的に数が少ない。
こんなに大量にある中にも、一つ二つしか見つからなかった。
いや、この中で一つ二つ見つかったと言うだけでここの人は目が高いと言えるのかもしれないが。
そのうちの一つ、剣精ヴァリタイトといういかにも厨二くさい名前の剣だ。
それに目が止まってしまった。
剣精ヴァリタイト
能力 スキル伝導
分身
状態 宿主を失った精霊剣
 
見た目はものすごく普通の剣、素材に関してもただの鉄の様な見た目だ。
見た目はとても使えそうでは無い。
しかし、まず保有スキルが俺とあっている。スキル伝導というスキルは、剣に自分の持つスキルを馴染ませて剣に作用させるスキルだ。
つまり、スキルの力を持った剣になると言うことである。俺はスキルの量が多い事だけが強みなのだから、こういったスキルは俺にあってると思う。
また、分身に関してもそうだ、分身とは錯覚の剣を大量に作り出すスキルで、本来腕が2本しかない人間には扱いにくいスキルだが、俺には体毛操作で無限に作り出せる手がある。
目くらまし程度にはなるだろう。
そして、最後の精霊剣という文字。それこそが俺が探していた物だ。
精霊を宿すことの出来る剣。それが精霊剣。
精霊がつくだけで、月とスッポン並みの違いが生まれるらしい。
これならアリスに協力してもらうことも出来ると思う。
これでバッチリ選べた。
ふと周りを見ると、ナミとリオンはもう決めてしまったらしい。
優柔不断なのは日本人の性である。
俺もこれに決めると、リオン達の元へ向かう。
「決められたの?ヒロ。」
「あぁ、バッチリだ。」
そう、と言ってオヤジさんを呼ぶリオン。
なんでも、オヤジさんは俺達が本当は相場を見に来ただけで今日買うことは出来ないと言う話を聞いて、決めた奴があったら予約しといてとって置いてくれると言っていたらしい。
「お、兄ちゃんあれを選ぶとはお目が高い。見た目は大した事は無いが、俺はかなりの一振りだとふんでいる。初めて見た時から何と無く惹かれるところがあったんでな。しかし、見た目があんなんだから全く売れなくてよ、正直困ってたところだ。」
最後に俺の希望を聞いた時、オヤジさんはそう言った。
てっきり大した事は無い剣だと言われるかと思っていた。
しかし、オヤジさんは鑑定スキルなしで、あの剣の凄さに気づいていたのだ。
やはり目が良いのだろうか。
俺が、オヤジさんのことを密かに尊敬して居ると、どうやら予約が終わった様だ。
「おし、オーダーメイドの鎧3つに短剣、ハンマー、バスターソードと。以上で500000だな。鎧はなるべく超特急で仕上げる。一週間したら金を持って来ても良いぞ。金は出来るだけ待つが、せいぜい待てても3ヶ月かな。それまでには持って来てくれ。じゃあ、俺は早速作業に移るから、金頼んだぞ。」
オヤジさんは矢継ぎ早にそう言うと、奥に戻って行った。
俺は、ありがとうございました!と大きく挨拶をして店を出る。
これで俺の始めての武器のお使いは終わりを迎えた。
ご都合主義万歳
因みに500000という値段、端数はおまけしてくれてます。
ありがとうオヤジさん
そしていつも通りおやすみなさい
 




