第36話 仲良し大作戦
静まり返った海に、どこからか何隻ものイカダがぐんぐんと近づいてきた。
「おーい! 無事かー!」
聞き覚えのある暑苦しくも頼もしい大声が荒波を割って響き渡る。
甲板に打ちつけられた衝撃で痛む肩を押さえながら起き上がると、そこには筋肉隆々の屈強なプレイヤーたちとあのマッチョ三人組の姿があった。
「あ! マッチョさーん!」
俺が大きく手を振ると、三人組は目を丸くして叫んだ。
「料理人君!? なんでこんなところに!?」
彼らはクラーケンに吹き飛ばされて海へ落ちたプレイヤーたちを手際よくイカダへ救助して回っていた。ほとばしる筋肉が人命救助に使われている。
するとその時、海の向こうからパリンッ、パリンッ、と涼やかな氷の結晶が弾ける音が聞こえてきた。
超弩級戦艦の船首から、海面を凍らせた巨大な氷の道が滑るように伸び、討伐されたクラーケンの巨躯へと繋がっていく。
「素材だーーッ!」「討伐報酬を横取りさせるなー!」
船に残っていたプレイヤーたちも我先にと氷の道へと雪崩れ込んでいった。
「ちょっと待ちなさいよ。横から攻撃しておいて、素材を全部かっさらおうなんて魂胆じゃあないでしょうね!」
その声と共に、一人の女性魔法使いがふわりと氷の足場に着地した。
プチさんによく似た容姿をしているが、黒を基調としたシックな魔導衣に身を包み、鋭い眼光と勝気な雰囲気を纏っている。
他のプレイヤーたちも「そうだそうだー!」と勢い任せに氷の足場へ飛び降りた――が。
バリンッ!!
「あ」
着地の衝撃で踏み抜いた一人が、そのままダイブするように海へ落っこちた。
「何やってんのよバカ。あんたはそこで反省してなさい!!」
呆れ顔の女性魔法使いが杖を一振すると、海面に分厚い氷が生成され、落ちた男をそのまま海中に閉じ込めてしまった。
男は氷の下からゴシゴシと手を叩いて必死にSOSを出していたが、やがて力尽きたようにぷかぷかと沈んでいった。ちょっとかわいそうだった。
続々と氷の上にプレイヤーが集まり、誰かが叫んだ。
「素材取り合いバトルロワイアル開始か!!」
「うぉおお殴り合い開始だーーーッ!!」
「「「うおおおおおーーーっ!!」」」
野太い歓声が氷上を揺らす!
前衛のプレイヤーたちが斧や大剣をぶん回しながら、鍛冶師ギルドの面々へと雪崩を打って襲いかかった。
だが――鍛冶師ギルドの防衛陣は甘くなかった。
最前線に躍り出たのは、フリルのついたメイド服に身を包んだ、鍛冶師ギルドのプレイヤーだった。
巨漢のプレイヤーが振り下ろした大斧を彼女は紙一重で身をかわす。
「ッ!? な、速っ――」
言葉を噛み切る猶予すら与えない。
メイドは氷の上を滑るような超絶的なドロップキックを叩き込み、巨漢のプレイヤーを凄まじい勢いで吹っ飛ばした! 吹き飛んだ男はそのまま氷上を何十メートルもゴロゴロと転がっていく。
「な、なんだあのスピードは!? 残像が見えるぞ!?」
「ひるむな! 相手は生産職だ! 囲んで叩け――」
追撃を狙ったプレイヤーたちの足元で、氷の表面が怪しく蒼く輝いた。
さきほど女性魔法使いが杖をコンと打ち鳴らした瞬間――
ガンッ! ガガガンッ!!
氷床から無数の氷の棘が槍のように一斉に突き出し、周囲のプレイヤーたちを次々と捉えた。
「ぐわぁっ!?」
「足が……凍りついて動かん!?」
「逃がさないわよ! 氷牢獄!」
広範囲の氷結魔法が炸裂し、敵味方まとめてカチコチの氷漬けにされていく。
「おい魔法使い! 魔法の範囲が広すぎる! 俺たちにも当たってんだろ!」
「うっさいわね! これでも微調整してんのよ!」
さらに、その後方からは重装甲を身に纏った鍛冶師たちが、自作の巨大ハンマーや自慢の大砲を抱えて前進してくる。
「野郎ども! 鍛冶師のロマンを味わえぇぇぇっ!」
「砲撃用意! ぶっ放せー!」
ドカンッ! ズドオオンッ!!
「ギャーッ!?」
「弾幕が分厚すぎる! 寄れねぇぇぇっ!」
あまりのスピードと圧倒的な火力差に、後方から突撃してきたプレイヤーたちも次々と吹っ飛ばされていく。
「くそっ! なんで生産職の集まりがこんなに強いんだよぉぉぉっ!?」
悲痛な叫びを残し、最後のプレイヤーが弾丸のように海へと吹っ飛んでいった。
氷の上には静寂が戻っていた。
乱闘は鍛冶師ギルドの圧勝で終わった。俺とプチさんは氷の上に仰向けで倒れているプランツの元へ駆け寄った。
ツンツン。
「大丈夫ですかー、プランツさん?」
「くっ……あのメイド、強すぎるわな……」
突っつくと、プランツは降参とばかりにばたんと大の字になった。
「あれ、料理人君じゃん! なんでここにいるの?」
戦闘を終えたドラセナがこちらに気づいて歩いてきた。
「港に戻ろうかなと思ったら、クラーケンに遭遇しちゃいまして」
「えっ、氷雪島の港で待ってるのかと思ってたよ」
「ええっ!? 俺はドラセナさんがアスタータウンの港で待ってるんだと思ってました!」
「なにやってんのよあんたたち……」
白けた顔で呆れるプチさんを他所に、俺とドラセナさんは「あははは!」と顔を見合わせて笑い合った。
「それにしても料理人君、魔法使いの嬢ちゃんと一緒なんて、もしかしてデートかい?」
「バッカじゃないの!? ただの護衛よ! ご・え・い!」
「はい、護衛してもらってます!」
プチさんが真っ赤になって否定したその時、さっきの女性魔法使いがよろよろと歩み寄ってきた。
「ちょっと、あんたたち裏切り者……って、さゆり!? こんなところで何やってんのよ!」
「お、お姉ちゃん……」
プチさんが縮こまるように俺の背中へ隠れた。
(お、お姉ちゃん!?)
「……まあいいわ。今回は私たちの負けでいいわよ。次は横入りしないでよね!」
ぷんすかと憤害しながら、生き残った自ギルドの仲間たちを引き連れて船の方へ戻っていった。
だが、氷の上には不穏な空気が残っていた。
鍛冶師ギルドと素材を奪われたプレイヤーたちの間でピリピリとした危険な視線が交錯している。
(どうにかして、この雰囲気を和ませられないかな……)
俺はドラセナさんに尋ねた。
「あの、クラーケンの素材って何に使うんですか?」
「うーんそうだね。皮は撥水性のある柔軟な素材になるし、一番の目当てはカラストンビかな」
「肉って使い道ありますか?」
「肉? うーん、どうだろう」
ドラセナさんはクラーケンの死骸の方へ歩き出し、俺もその後を追った。
ドラセナさんが巨大な脚から、少し生臭い肉片をナイフで削ぎ落として見せてくる。
「これはちょっと、素材として使うのは厳しいかなぁ。硬いし、臭いがキツすぎる」
「であれば……この肉、俺に調理させてくれませんか!?」
「えっ!?」
「美味しい料理にして、ここにいる皆さん全員に配りたいんです!」
俺の提案にドラセナさんは目を丸くした。
「これ、めっちゃ臭いしゴムみたいに硬いよ? いける?」
「やるだけやってみましょう!」
「あはは、そうだね! 料理人君ならなんとかしちゃいそう! よし、船の厨房を使いなよ!」
案内されたドレッドノートの内部には戦艦の中とは思えないほど充実した最新鋭の調理設備が整っていた。
「どう、すごいでしょ?」
自慢げに胸を張るドラセナさんに俺は目を輝かせた。
「はい! 最高です!」
俺は腕まくりをし、持ち込まれた巨大なクラーケンの肉片に向き直った。
喧嘩腰のプレイヤーたちも美味しいものを食べれば笑顔になってくれるかもしれない。
題して……仲良し大作戦、開始だ。
【フラミス】サービス16日目 雑談スレ Part12
816:名無しのバーバリアン
生産職に殴り合いで負けたんだが???
817:名無しのバーバリアン
あのメイドの移動速度えぐかったぞ……残像見えたわ。
818:名無しのバーバリアン
俺なんか姉御に氷の下に生き埋めにされたぞ! 参戦すらできなかったわ!
819:名無しのバーバリアン
雑魚ダウンwww
820:名無しのバーバリアン
ムッキー! 覚えてろよマジで!
821:名無しのバーバリアン
くっそ、またクラーケン遭遇ガチャやり直しかー。
822:名無しのバーバリアン
俺、あのメイドさんに弟子入りしてくる。
823:名無しのバーバリアン
敵に寝返るなwww
824:名無しのバーバリアン
いやでもあの強さの秘密は知りたいわ……。
825:名無しのバーバリアン
てかお前ら、鍛冶師ギルドに仕返ししないん?
826:名無しのバーバリアン
いや……素材争奪の殴り合いは俺らが始めたローカルルールだしなぁ。
827:名無しのバーバリアン
くっそ、生産職なのになんであんな強いんだよ!
828:名無しのバーバリアン
俺、ちょっと鍛冶師に転職してくるわ。
829:名無しのバーバリアン
いってらwww




