第34話 黒き海影
翌朝、静かな雪が降り積もる牧場を出たところで、視界の隅でポンッと効果音が鳴り、通知ウィンドウがポップアップした。
見れば、ドラセナからのメッセージだった。
ドラセナ:料理人君、いまどこー?
ペンタス:氷雪島にいます!
ドラセナ:へぇ、もう新エリア行ってるんだ!
ペンタス:はい、雪景色が楽しめる温泉がありますよ!
ドラセナ:温泉いいなぁ! あ、そうそう、じゃじゃーん! [画像]
ペンタス:うわっ……! すっごいカッコいい船ですね……!
ドラセナ:ふふん、鍛冶師ギルドのみんなで作り上げた最高傑作だよ!料理人君も乗りたい?
ペンタス:いいんですか!?乗りたいです!
ドラセナ:おっけー!じゃあ港で待ってるよ!
「ふぁ~あ……」
あくびをしながら、目をこすったプチさんが鶏舎から出てきた。その後ろからは、背中に巨大な大剣を担いだプランツが続く。
「昨日は……ありがとな、ペンくん」
「いえ……」
「よしっ、今日も今日とてクラーケン狩りに向かうとするか!」
プランツはそう言うと、ニワトリスたちの頭を一羽ずつ順に撫で回した。
「タマ、盗み食いするなよ。モミジはちゃんと飯食えよ。コッコはあんまり走り回るな」
「プチさん、俺たちも一旦港に戻りませんか? ドラセナさんたちがすごい船を作ったみたいで」
「ふーん……私は船になんて興味ないけど。料理人を安全に護衛するのが私の役目だから、ついて行ってあげるわ」
「ありがとうございます」
二人でプランツの背中を追う。
「君たちも港へ行くのかい?」
「はい! 知り合いがすごいものを見せてくれるらしくて」
「それは面白そうだね。でも、海の上でもっと面白いものが見られるかもしれないぜ?」
「まさか、クラーケンですか? 俺は遠慮しておきますよ……」
「まあそう言わずにさ、ペンくんも出てくるように祈っておいてくれよ」
苦笑いしながら温泉街を抜け、俺たちは氷雪島の港へと戻ってきた。
定期船に乗り込む。
「うっ……ぐぅ……」
「ちょっとペンくん、まだ錨も上げてないのに顔色が真っ青だよ」
「だ、だって……もう揺れてます……」
「ハハッ、本当に船に弱いんだねぇ」
港に停泊している段階で俺は船のヘリにしがみついて呻いていた。
天候はあまり良くない。空はどんよりと重い灰色の雲に覆われ、昨日よりも波が大きく船体を揺らしていた。
――ザパーン……ザパーン……。
出航して半時ほどが過ぎた頃。
ふと、周囲の雰囲気が奇妙な変化を見せ始めた。
空を飛んでいたウミネコたちの鳴き声がピタリと止んだ。
風が死に絶え、海面を滑る船の音だけが不気味なほど鮮明に響き渡る。
「……あれ?」
見張りの船員NPCも首を傾げ、周囲の海を見回していた。異様な静寂が、船全体を重く包み込んでいく。
次の瞬間――
――ブォオオオオン……ッ!
地鳴りのような、海底の奥底から響く恐ろしい重低音が全身の骨を震わせた。
ゴボ……ゴボボボッ!
熱した油が爆ぜるように、静かだった水面が一気に巨大な泡を吐き出し始める。
「うわぁっ!?」
グラリと船体が破滅的な角度で大きく傾いた。
「キャッ!」
プチさんが抱えていたバケツが手元から滑り落ち、放り出されたカメ子が空中を舞う!
「カメ子さんっ!」
必死に手を伸ばし、ギリギリのところでカメ子を両手でしっかりとキャッチした。
「ふぅ……間一髪……!」
「ありがとう……っ!」
プチさんは次は離すまじとカメ子をギュッと抱きしめる。
周りのプレイヤーたちも「なんだ!?」「船が傾くぞ!」「手すりに掴まれ!」と悲鳴と怒号を上げて騒然となった。
だが、混乱する甲板の中で――ただ一人、プランツは静かに佇んでいた。
静かに背中の大剣の柄へ手を添え、鋭い眼光で荒れ狂う海面を睨みつけている。
「……来たぜ」
直後、暗雲を裂いて眩い雷光が奔り、荒れる海を白く染め上げた。
その一瞬の光の中に、浮かび上がった。
――バシャァァァンッ!!
船の主頭を遥かに超える高さを誇る、真っ黒な巨大な触腕が、水柱と共に突如として海面を突き破ったのだ。
一本。さらにもう一本。
黒い死の腕が天を突く。
その背後、嵐と波飛沫が吹き荒れる黒い海の渦中で、山のように巨大な影が、底知れぬ殺気を放ちながら蠢いていた。
「え……」
絶句する俺の瞳に、その怪物の圧倒的な威容が映し出されていた。
【フラミス】サービス16日目 雑談スレ Part4
701:名無しのバーバリアン
おい、港に停泊してる軍艦みたいな船見たか!?
702:名無しのバーバリアン
見た見たwww 圧倒的存在感www
703:名無しのバーバリアン
NPCの船と比べて威圧感が違いすぎるだろww
704:名無しのバーバリアン
現代兵器持ち込んできたのは誰だよwww
705:筋肉のバーバリアン
俺ら鍛冶師ギルドの英知の結晶――極大装甲艦ドレッドノートだ。
706:名無しのバーバリアン
筋肉久しぶりwww
707:筋肉のバーバリアン
よっ。造船作業が忙しすぎて掲示板に来る暇がなかったんだよ。
708:名無しのバーバリアン
え? 筋肉もあの船の造船に関わったん?
709:筋肉のバーバリアン
重い部品をひたすら運搬する担当だったけどな!
710:名無しのバーバリアン
乗せてくれー!
711:筋肉のバーバリアン
俺に言われても困るw
712:筋力のバーバリアン
お、もう出航時間みたいだわ。




